DEEP FRENCH KISS

名古屋ゆりあ

プロローグ

…さて、これは一体どう言うことなのでしょうか?


本日は、チョコレート専門メーカー『キルリア』の入社式の真っ最中である。


厳しい就職活動の末に希望していた商社に入社することができたから頑張ろう…と思った先に起こったのは、この状況である。


壇上にあがっている目の前の男に、私は動揺を隠せなかった。


何これ、どう言うことなの?


「――何かのジョーダンだよね…?」


そう呟いてこの状況が何とかできるならば誰だって苦労しないよ…。


目の前の男はチャコールグレーのスーツを身につけていた。


それがよく似合っているから、私の心臓がドキッ…と鳴った。


ゆるくウェーブがかかったツヤのある黒い髪がサラリと揺れる。


形のいい紅い唇が開いたのと同時に、

「皆さん、初めまして。


ただ今ご紹介に預かりました、『キルリア』代表取締役社長の飛永詩文(トビナガシフミ)です」


よく通るテナーの声で、音を発した。


…ああ、やっぱりそうだ。


自分の身に起こったこの出来事に、私は両手で頭を抱えたくなった。

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