本当のファンだったらどんな時でも応援するもんでしょ

暮メンタイン

第1話

レーンに並んでいるのはざっと数えて百人に届かないくらい。ただこいつらと僕とでは決定的に違うところがある。僕はいわゆる鍵開けだ。今日の握手会で、はるなんのまっさらな手を握れるのは僕だけだ。時間ぴったりに門が開いて、僕は一歩踏み出した。ブースの入り口を入った段階ではるなんに名前を呼ばれた。両手を差し出すはるなんのもとに近づくと自然な流れで僕の手を握ってくれた。みんなは知らないだろうがはるなんは冷え症で手が冷たい。はるなんの本当の温度を知っているのは最初に手を握られる僕しかいない。

ハガシのことを考えれば会話は2ターンが最適だ。

「またね」

手を振るはるなんに僕も手を振る。ブースから出ると僕は何ともやるせない気持ちになった。今日もダメだったかと。念のために僕の後ろに並ぶやつらの顔とおよその服装を10人程度あらかじめメモしておいた。予想通りというか僕でさえ違うのだから当たり前なのだが後ろの10人はその順番どおりにブースから出てきた。つまり誰も選ばれなかったというわけだ。外に出てから手帳を出して次の予定を確認する。22時から始まるはるなん部屋の配信まで結構な時間がある。その間に昨日はるなんがSNSに載せていたタピオカミルクティを買ってから家に帰って、時間ぴったりに入室したら誰よりも星を投げることにする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る