15,浜昼顔
「はっ! 私は、なんて恥ずかしいことを……!」
公衆の面前で貧乳時代の到来を声を大にして語った幸来だが、我に返り自らの行為に羞恥心を覚えた。トークに熱狂して周囲が見えなくなっていた。それでもいくらかは波音がざぶんざぶんと掻き消してくれて、半径50メートルほどの範囲にしか声は響かなかった。
「幸来ちゃんは普段から心のネジを締めすぎてるから、トルクオーバーでたまに吹き飛んじゃうんだよね、色々と」
「トルクオーバー?」
思留紅は笑の言う『トルクオーバー』の意味がわからなかった。幸来が問いに答える。
「ネジを締める力が強すぎるっていうことよ。部品をネジで留めるには、適正な強さがあるの。弱すぎるとちゃんと留まらないし、強すぎるとネジが折れたり部品を傷めちゃうの」
「なるほど! 工業製品と人間の心との比喩表現ですね! だからおバカさんは色々とやらかすし、真面目すぎる人は重圧に耐えられなくなっちゃうんだ。なるほどなるほど」
「そうだよ! だから私くらいがちょうどいいの!」
「笑は頭のネジ緩すぎじゃない?」
「ひどい! 頭のネジは緩くても大事なところはきついもん! たぶん!」
「ほらね、ネジが緩すぎると
「な、なるほど! 何事もほどほどにですね!」
「思留紅ちゃんまで、ひどいよぉ……」
爽やかな青空の下でがっくり項垂れる笑。
思留紅は笑の言う『大事なところはきつい』の意味を理解できなかったが、あまり品のない発言であることはニュアンスでわかった。
砂浜からサイクリングロードに上がった。アスファルトには水色と白の小石ほどの欠片が埋め込まれている。
三人は自転車やほかの歩行者の進路妨害にならぬよう、まとまって歩く。笑と幸来は道がわからないので思留紅が前を歩き、二人はその後ろにくっついている。
自転車に乗ったウェットスーツ姿のサーファーとすれ違った。右のサイドラックにはサーフボードを積載している。茅ヶ崎の海岸付近ではこのような自転車をよく見かける。
「この白とピンクのお花、アサガオみたいでかわいい!」
S字カーブに差しかかったとき、路肩咲く花々を見ながら笑が言った。
「ハマヒルガオっていうんですよ! このくらいの時季になると、海沿いの路肩とか、空き地にいっぱい咲いて天然のお花畑になるんです」
「へぇ、桜が散っても次の楽しみがあるのね」
「はい! 今ごろだと場所によっては茅ヶ崎市の花でもあるツツジも咲いてますし、夏はヒマワリ、秋は山のほうで
桜舞い散り新緑きらめくころ、道の隅に連なる、潮風に揺れるハマヒルガオたち。夏が本番を迎える前、これを楽しみにしている市民も多い。笑と幸来も、茅ヶ崎で過ごすこれからが、少し楽しみになった。
「さあ、着きましたよ! ここで動画を撮ります。まさかラブリーピースのダンスを生で見られる日が来るなんて……」
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