第160話 ラグナロク

「制限掛かってたあたしのママさんまでの代はザクっとしたプチ預言ばかりしか出来なかったけども、なぁーぜかあたしの番になった途端100%フルパワーになっちゃったんだよね~」


 相変わらずテンション高ぇな。

 まぁ十中八九、イヨの代で制限が外れたのは俺が原因だろう。


「しかしその『権能』はやべぇな。フルパワーになると俺の世界のことまで分かっちまうのかよ。……あっ! ちょっと待て! メイガスの前でその話はまずいだろ!」


 イヨのテンションに飲まれてついポロポロと喋っちまったが、ここには境界線の中に居る人間であるメイガスが居たじゃねぇか。

 こんな話を聞いちまったら発狂しちまうんじゃないか?


「ダイジョブジョブ! ダーリンはもう知ってるにゃ。ねぇ~?」


「あぁ、イヨの言った通りだ。お前がこの世界の外から来た人間で、この世界は神の娯楽によって創られたと言う事も婚姻の際に全て聞いた。最初は驚いたが聞いて良かったと思う。正太も辛かっただろう。こんな誰にも言えない秘密をずっと抱え込んでいたんだから」


 そう言ってまた俺の頭を撫でてくれた。

 この世界に俺の秘密を共有して、しかも受け入れてくれる人間が居ただと?

 神々がこの世界を創った事を知っていた長命種のエルフでさえ、俺が特別な使命を帯びた人間程度にしか認識していなかった。

 それなのに……。


「ちょっ、最初に言うセリフがそれかよ。なんで俺の心配してくれてんだよ」


 そう言うのが精いっぱいだった。

 これ以上何か言うと涙が溢れそうだったから。


「はいはい感動の場面はそこまでだにゃ? 兎に角今日主人公っちが城に来る事を知っていたってのは分かって貰えたと思うんだにゃ」


「な、なんだよさっきからいいところで止めやがって? ん?」


 感動を余所に話に割って入ってきたイヨに文句を言うと、さっきの様に静かで澄ました顔になっていた。

 本当にコロコロ変わるやつだな。


「今から語るのは過去、そして未来の預言。あたしは初めてこの力が覚醒した3歳の時に未来のビジョンを視たの」


 覚醒した時に視た予言だと?

 しかし、どっちがこいつの素なんだろうな? もしかしてこの凸凹テンションは小さい頃にこの世界の真実を知って頭がちょっとアレになっちまったんだろうか?

 そう思うとなんだか可哀相に思えるぜ……。


「その目やめーーい!!」

 ズボッォ!!

「ギャーーー!! 目がっ! 目がっ!!」


 俺が哀れんだ目でイヨを見ていると突然俺の目を突いて来やがった!!

 幾ら油断していたからってこの俺が女性の目潰し攻撃をまともに受けちまうとは!!

 これも『予言の権能』の力と言うのか?


「くぅーー、完全回復リブート。痛ってぇな! 急に何するんだよ」


「その目! あたしが世界の真実を知っておかしくなったと思ってるだろ? 違わーーい! ショックどころかワクワクしてテンションだだ上がりだっての!! 唯一嫌だったのが未来の旦那様が決まってたって事」


「わくわくっておまっ。なんだよその嫌な未来の旦那って。メイガスと結婚してるじゃねぇか。それも未来を見た結果だろう」


 あんだけラブラブを見せ付けて来てるってのに嫌だったとか目の前で言うかね。

 メイガス傷付いちまうぞ?

 っと、あれ? メイガスはなんか申し訳なさそうな顔で俺から目線を逸らしたぞ?

 なんでだ?


「バッカッ! ダーリンはあたしが『預言の権能』をぶっちして選んだ最愛の人だっての!」


「え? 違うのか?」


 飛び出た話が凄まじかったんで『預言』の力を過大評価しちまってたぜ。

 『預言』で見た未来って変えられるのかよ。

 まぁタイカ国の元となった邪馬台国も吉凶を占って国の行く末を決めてたとか言う話だし、凶事を回避することも出来るって訳か。

 よく考えると当たるも八卦な占いと違って、イヨの力は神直々お墨付きの『権能』だ。

 絶対当たるし、それを阻止する事も出来るとか最強過ぎだろ。

 もしかしてバカ王子がイヨを攫ったのってこの力目当てだったのか?

 結局滅んだから今となっちゃ真意は分からんけどな。


「あ~お前を攫ったアメリア国の第二王子……あっその頃は国王だったんだっけ? そいつの事だな」


「それも違うんだにゃ~。……そのお相手ってのは主人公っち……キミだYo!」


 な、なんだ……と?

 俺とこいつが結婚する運命だった?

 いやいや、それは置いといて……。


「俺と結婚するのが嫌だったとか言うなや! めっちゃ傷付くだろうが!」


 人付き合いの結果、嫌われるならまだしも、全く知らない所で嫌だったとか貰い事故で失恋した気分になるだろ。

 メイガスの奴、このことを知ってたな?

 必死で笑い堪えてやがる。

 お庭番衆の皆からもちらほら笑い声が上がってる。

 シルキーの奴なんて涙目でぷすぷす口から笑いが漏れてるじゃねぇか。

 くそ~大恥かいたぜ。


「いや~主人公のお嫁さんって響きは悪くないんだにゃ? けどにゃ~嫁は他にもわんさと居るし、人が婆さんになっても一人だけピチピチしてるし、そんな未来見せられるとそりゃ萎えるってもんよ」


「なんだその未来! 勝手に見て勝手に萎えるな! リテイクだ、リテイク!」


 一人ピチピチは当たってそうだが、嫁なんか何人も娶るかってんだ。

 なんか後ろから「私はいつまでたってもピチピチですよ~」とか言う声が聞こえる。

 黙ってろってシルキー!!


「まぁねぇ~。そもそもあたしの見た未来にはあたしが攫われるなんて事件は起きなかったもんねぇ~」


「え? それはどう言うこった? 『預言の権能』なんじゃねぇのか?」


「う~ん、そうなんだけどねぇ~。あたしが見た主人公っちの未来は、アメリア王国に現れた魔族を尊い犠牲を出しながらも覚醒して退治する。次にタイカ国にも魔族が復活するんだけど、その時まだ4歳だったあたしを助けるのが主人公っちだったんだにゃ~。それがざっと22年前の出来事にゃ」


 22年前? 俺がこの世界に来てから1年くらい経った頃、ガイアとの交信が途絶えレイチェル達とパーティを組んだ時期だ。

 何だその過去は……いや、ロキの話からすると世界が崩壊し掛けたと言う女神クーデリアの暴走が起こっていたのが交信が途切れる少し前と言うか事だったな。

 ロキが言うには、その所為で色々準備していた物語が台無しになったと愚痴ってたか。

 女媧も俺を無視して王国を滅ぼそうとしていたしな。

 と言う事は、イヨが言ったのは『俺が本来この世界で歩む歴史』と言う訳か?


「待てど暮らせど起こるべき魔族の襲来は起こらなかった。『預言の権能』は無くなったかと思いきや、それ以外はドンピシャだしなにこれ~と思ってたんだにゃ。まぁ事故物件な主人公っちと結婚しなくて良かったにゃ~と思ってたんだけど、そんな安堵を嘲笑うかのように12年後あたしは攫われてしまった」


「事故物件言うな!! で、攫われる事は分かんなかったのか?」


「そうだにゃ~。あたしに降りかかる危険は100%察知出来てたのにそれが効かなくてとても怖かったんだけど、そこに現れたのがダーリンなの。逞しい胸に抱かれながらあたしに優しい声を掛けてくれた。ダンディーで素敵なおじ様もうコレキタ! と一目惚れして結婚を申し込んだにゃ」


 それつり橋効果って奴じゃねぇかな?

 まぁ本人が幸せならいいんだけどよ。


「なるほどな。預言が外れたのは恐らく俺と魔族絡みの内容だからだ。先日神から直接そこら辺の裏話聞いたしよ。なんでも俺の所為で23年前に女神クーデリアが狂っちまってそれに釣られて魔族までおかしくなっちまったんだと」


 こっちも知ったこっちゃねぇ貰い事故だよな。

 俺の知らない所で起こった問題で被害受けるケースが多すぎる。


「わぁお! 神から直接聞くなんて主人公っちはやるなぁ。それなら納得。確かに主人公っちと魔族に関する預言は全く降りてこない。……いや、来なかったのにゃ」


「お、おい、なんだよその突然の過去形? めっちゃ不安になる言い方じゃねぇか」


「3カ月くらい前の事にゃ。突如主人公っちと魔族に関する預言が湧き水の如く湧いてきたのにゃ。だから主人公っちが人生捻くれて隠遁生活を送ってること、アメリア王国の魔族を倒す事、最強の魔族を倒す事。そしてタイカ国の魔族を倒す為にここに来ること全部知ってるにゃ」


「人生捻くれては余計だっての!」


 しかし、3カ月前といや女媧が北の森に潜伏した頃だよな?

 ロキの操作によって俺の物語第二幕が開始したから、それに合わせて預言が再開したって訳か 。


「でも一週間くらい前からまた見えなくなった。多分今主人公っちが言った神の仕業にゃ」


「クッソ! ロキの奴め! これからの預言を聞いて俺が楽しようとするのを阻止しやがったな。けど色々預言は観たんだろ? その範囲だけでも教えてくれよ」


 本当にロキの奴は要らん事しかしやがらねぇ。

 こうなったらイヨが覚えている情報だけでもかき集めねぇとな。


「あたしの見た未来の謁見の間での主人公っちは自分の事が書いている親書を渡してたにゃ。でも違った。だから今日以降の預言は意味を成さなくなってるかもにゃ」


「くそ~ダメか~。俺自身の行動で預言を変えちまうとはよ」


「でも一つだけ残ってる預言がある」


 またイヨは静かになり抑えた声でそう言った。

 その表情はさっきまでの落ち着いた感じとも違うようだ。

 焦っている? 怯えている? なんだかその顔は真剣を通り越して思いつめたようにも見える。

 一つだけ残っている預言? それは一体なんなんだ?

 俺はただならぬ雰囲気にごくりと唾を飲んだ。


「もうすぐ来るよ、神々の大戦。黄昏の時。そう……ラグナロクが」


 イヨは震える声でそう告げた。





第八章 終〜


第九章はかつての仲間であるハリーとドナテロとの再会、エルフ達との邂逅、そして……。

お楽しみに。

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