第57話 口伝
「コホン、では改めて行くぞ」
俺は真面目な顔をしつつ、内頬を噛み笑いを必死に抑え込みながら頷いた。
この世界の住人は、ギャル喋りなんて知らないから、変な言い回しとしか捉えていない様だが、元の世界でその事を知っている俺にとっては、ギャル語を喋る爺と言う下手すると通報されそうな存在を目の当たりにしていると言う笑劇的な状況なので精神的にいっぱいいっぱいだ。
これで、一人称を『あちし~』とか言い出したら正気を保てるだろうか?
「だから、あちしの……「ぶふぉぉぉっ!!」」
「ど、どうしたのだ? ショウタ殿?」
「おいおい何噴出してるんだ? 汚ねぇなぁ」
「ブッ、ゲホッ、ゲホッ。……す、すみません。国王。ちょっと喉がイガイガとしてしまって」
クソッ! 神め! これ絶対罠だろ! 絶対笑かしに来ているだろ!
ハァハァハァ、落ち着け俺! 神への怒りで笑いを押し込めろ!
「大丈夫か? ショウタ殿。そうだ、何か飲み物でも要らぬか? 持って来させよう」
そう言うと、国王は横の台に置いてあるベルに手を伸ばそうとした。
「大丈夫です! 国王! すみません、話の邪魔をしてしまって。俺なら本当に大丈夫ですよ。話を続けて下さい」
ふぅ、ヤバいヤバい。こんな笑いを堪えた状態で液体飲んだら、途中で全ての穴から吹き出しちまうわ。
「そうか。では再度改めて。……だから、あちしの使徒を送るから~、ちょまっちね。う~んGoイベ前くらい(笑)? え? 意味? 『五回儀式』じゃん。ハァちょ、マジメンブレ。HKとりま、勇者っぴもマジ誕させるんで、バイブスアゲアゲで一緒にしくよろ。……とまぁ、これが我が王家に伝わる女神様からのお言葉だ。どうしたショウタ殿?」
俺は笑いを堪えるのを通り越して軽く失神しそうになって白目を剥いていた。
なんで、後に行くほど言葉が酷くなっていくんだ!
あと(笑)は書き言葉であって、話す時に『括弧ワライ括弧閉じる』と声出すもんじゃねぇんだよ!
神の奴、これ絶対ガチで俺を笑わせに来ているわ。
絶対前半部で俺が止める事を想定して、その後に更なる仕掛けを仕込みやがったんだろうぜ。
『大丈V』なんか序の口だ! 最後の方なんて俺でさえぼんやりとしか分からねぇ。
しかし、国王って最初に『建国の正当性と、そして王たる者の自覚を持たせる』為とか言っていたが、これで自覚持つとか、……この国マジヤバじゃね?
「い、いや。大丈夫です。ちょっと涅槃に旅立ちかけただけです」
「涅槃とな? それはいかなる場所……?」
「あぁ、気にしないで下さい。まぁ、女神の言いたい事は大体分かりましたよ」
「「「分かったのか!」」」
三人揃って驚きの声を上げた。
おい! 国王!あんたも分かってなかったのか!
「さすが、神の使徒殿だ。前半部は兎も角、後半は建国者も全く意味が分からず口伝としたと聞いておる。で、どう言う意味なのだ?」
……。
もしかしてだが、王子やダイスの国も元々こんなんで、解読出来たから石碑にしたとかじゃないだろうな?
こんな破壊言語で預言を聞く羽目になった建国者が可哀想だぜ。
「え~とですね。『今回は封印出来ましたが、時を操る危険な魔族なので倒さないといけないでしょう。封印自体は100年に一度再封印の儀式を行えば問題無いですが、いつまでもそのままじゃダメです。なので私の使徒を500年後に遣わします。その際勇者も誕生させますので、一緒に力を合わせて魔族を倒しなさい』って事ですね」
途中の『メンブレ』の下りとかは省いた。
神の奴め、こんな言葉使っておいて意味通じなかったから凹むって、馬鹿じゃないのか?
と言うか、そこは残すなよ建国者!
「なるほどのぅ。よし、今後はそれを口伝として残そう」
「おいおい、叔父上。今後なんてのはもう無いぜ。ショウタが倒しちまうんだからよ」
「ほっほっほっ。そうだった。ちなみに、二か月後が500年目の再封印の儀となる。去年勇者も我が国に誕生した。まさに女神様のお言葉通りだ。儂は歴代の王達が待ち望んだ歴史の節目にいるのだな」
う~ん、勇者が必要ってどう言う事なんだ?
力を合わせろと神は言っているようだが、ダイスの話じゃその勇者って猪突猛進馬鹿らしいな。
そいつに身バレなんて絶対御免被りたい。
「しかし、儀式は二か月後と言う事だが、凄いタイミングだな。さすが女神様の預言と言う所か」
先輩が感心した様に頷きながらそんな事を言っているが、多分違うと思う。
恐らく逆だな。
思い付きで適当にタイムリミット作っちまったもんだから、それに合わせて俺を転生させたのに、二十四年間もブラブラしてるんで、焦って無理矢理辻褄合わせに来ただけだろ。
こりゃ、下手したら実は二番目は別の魔族だった、さえあるな。
他に期限付けた伝説とか残してねぇだろうな?
ボスラッシュなんか止めてくれよ?
「やはり、ショウタは女神様に愛されている。昨日のご降臨にしても、私達の計画が破綻し掛けた事を庇うかの様なタイミングであった。女神様がご降臨されなかったら、私達は無事では済まなかっただろう」
「あぁ、そうだな」
それは、俺も思っていた。
あの声、それにあの眼。
大司祭とやらが神の力を感知出来るなんてふざけたスキルを持ってるなんて知らずに、神を騙ろうとした所為で、メアリだけじゃなく先輩や王子にまで命の危険に晒してしまった。
計画を考えたのはメアリだが、その事を知っていれば他に方法は有っただろう。
そもそも、俺が力を隠すなんて事をしなければ、メアリをあんな目に遭わせる事も無かったんだ。
元々聖女候補だったかもしれねえが、少なくとも今回の事で聖女に選ばれる事は無かった筈だ。
「ふむ、言われてみれば。最初聞いた時は何と罰当たりと思ったが、改めて思い返すと、おぬし達の失敗を補填する形でご降臨されたと取れるな。いや恐らくそうなのであろう。しかし、あの場ではメアリ殿には手を出さないとしたものの、実は夜遅くまで教会側と会談したのだよ。メアリ殿の処遇に関して喧々諤々とそれは揉めに揉めてな」
「まぁ、そうですよね。女神の言葉と言えど、あれじゃまるでメアリが女神を降臨させたと取られても仕方無いですし」
「そうなのだ。だが、最終的には『使徒』と『魔族』の言葉の方に話が向いて行っての、メアリ殿は女神の言葉通りの対応をする事に決まったのだが、代わりに『使徒』を探し出し、聖人認定を行おうと言う事で会談はお開きとなったのだよ」
「ゲッ! それマジですか? やばいな」
なるほど、神があの場で次の魔族の存在を言わなかったのは、信者の手で使徒を探し出させて、俺を表舞台に引きずり出そうと思っていやがったのか。
魔族が他にも狙って来るって事になると、ダイスも言っていたが下手したら魔族の恨みを買った者として俺の排斥運動が起こり得るしな。
それは神に取って望む展開じゃない筈だ。
「ショウタ殿。安心めされよ。先程も言った通り、儂が守ってやるとも」
国王は優し気な表情で俺にそう言ってくれた。
ありがとう国王。最初バレた時は、この街でのんびり暮らす生活が終わったかと思ったが、俺の味方になってくれるとは本当に嬉しいぜ。
「ありがとうございます。国王」
「ほっほっほっ。なに、気にするな。聖女と同じく聖人も神に操を捧げる事が決まりでな。おぬしが聖人となってしまうと、儂の娘が悲しむのだよ。……何より儂がバラしたらと娘が知ったら後が恐ろしいでな」
「え、えぇ~?」
理由それかよっ!
ま、まぁ、理由がどうあれ助かる事には違いねぇし、姫さんもその内飽きるだろ。
しかし、これから一層身バレに気を付けないとな。
……最悪ダイスに擦り付けてやるとするかな。
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