第37話 ロイの悩み
四層攻略は数週間程続くも、ギルバード達はボスに到達出来ずにいた。
ファルティス達と協力出来ていれば余裕だったのだろうが、ロイ達はそれが出来なかった。
息抜きと考え事をする為に一人街へ繰り出したロイは、重い足取りで竜の隠れ家へと向かった。
バイトのトムに案内され、カウンターに座る。
特に何を食べる気になれず、とりあえず飲み物を頼むと一人の男が隣に座った。
「やぁ、何か悩み事かい?」
「……誰だ? アンタ」
「私かい? そうだね……“エド”とでも名乗っておこうか」
少し離れた場所に座っていたのに、
その様子を怪しみながらも、ロイは少しずつ話を始めた。ロイも結局は誰かと話したくてここへ来たのだ。
迷宮が攻略出来ないという事、どうしてそうなったかという事、自分がどうすれば良いのか分からないという事――
「――なるほど、君は指揮官として優秀だが……それ故に考えすぎる傾向があるようだね」
言い終わるとエドは右手をロイに向けた。
その中には一枚のコインがあり、ロイはエドが何をするのか注視している。
エドが手を軽く振ると、先程までそこにあったコインが消えた。
「君は私の行動を見抜こうとして自分の事が疎かになった。だからこうして……潜り込まれる」
「いつの間に……?」
消えたコインを探すロイだったが、そのコインはいつの間にか彼の胸ポケットに入っていた。
エドはそのコインを見えるように拾うと、『折角だから』と言いながら渡して話を続ける。
「もう少し肩の力を抜いて、回りを良く見回した方が良いんじゃないかな?」
「回りを見る……?」
「そう、最善手を打つのは確かに指揮官の仕事さ。でも実際の戦場に“絶対”は存在しない、大体何かしらのイレギュラーが発生するモノさ。私の体験談何だけどね」
エドはそう言うと少し笑い、視線を宙に向ける。
するとさっきまでの薄ら笑いを消し、真剣な表情でロイへ問を投げかけた。
「それでさ、絶対の無い戦場で最後に頼れるモノ。君は何だと思う?」
「……自分か?」
「不正解。信じた自分自身に裏切られるのはよくある事だよ? 最後に信じられるのは……仲間さ」
早々信用出来る仲間が得られるとは限らないけど、と呟きエドは話を続ける。
そしてロイは神妙な顔になり、静かに話を聞き続けた。
「自分を信頼するのは簡単だ、だから人は錯覚してしまうのさ。“自分は一人で何でも出来るんだ”とね。でもね、一人では何も出来ないというのが現実さ。今の私達だって、この場所は誰が用意した場所かな? その飲み物は誰が君に渡した?」
いつもどこかで誰かが関わるのに、それを全て疑っていては仕方が無い。
それはロイも分かっているが、それですら最低限かつ“金”という物あってこその関係だ。
「――他人は自分以上に分からなくて、こっちの気も知らずに気軽に裏切ってくる。俺は一体どうすれば良いんだ……ッ!」
「さっきも言ったじゃないか、君は考えすぎなんだよ。全ては信じるか信じないかの二択だよ? 私は誰であれ信じてみるさ」
エドは笑顔で答えるが、それは簡単な事では無い。
あまりの返答に呆気に取られたロイだったが、すぐに調子を取り戻した。
「……アンタ頭良いのかバカなのか、よく分からん人だな」
「ハハハ、周りからはバカ正直に他人を信じ過ぎだとよく言われているよ。自分でもそう思うけど、他人を疑い過ぎていては出来る事も出来ないだろう?」
裏切られる事もあるが、それは他人を信頼するという行為の対価だと思ってる。
エドの話を聞いたロイは飲み物を一気に飲み干すと立ち上がり、勘定を済ませた。
「……ありがとうな、エドさん」
「うん、また困った事があればいつでも聞いてあげるよ。それが私の
店を飛び出したロイは、一先ず学園へ向かって走りながら頭を回した。
Dクラスで対立関係にあるファルティス達……特に
そしてロイがファルティスを受け入れなかった理由は、貴族に縛られる事を警戒した……いや、もっと分かりやすく言えば“嫌っていた”からだ。
今までのロイは自分達に必要な情報ばかりを集中して情報を集めていた。
だが
それが分かってからのロイは素早く動き、翌日には再び交渉が出来るように準備を進めていた――
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