第22話 それぞれの動向
トーナメント前のこの時期。
この時期はどこからともなく、教師陣への不正な金の受け渡しが多くなる時期だ。
生徒が来ないようなこの場所でコソコソと動いている少年、ロイ・ブランはそんな現場を押さえ、教師の弱みを握ろうとしていた。
「どこかに美味しいネタは無いですかねーっと……」
「おい、そこで何をしている。この辺りに生徒が来る部屋は無いと思うぞ」
そんな風に張り切っていたロイだが、彼は早速誰かに見つかってしまった。
その声の主はシルヴィ先生、彼はその厳しい指導から過去に何人もの生徒を退学させたという噂が流れている。生徒からは“赤鬼教師”と呼ばれ、大いに恐れられていた。
それはロイとて例外では無く、冷や汗を流しながら必死に言い訳の言葉を探していた。
「あーっと、いや……ちょっと迷子になってしまいまして……」
「そうか、生徒寮は向こうだ。帰り道には気をつけろよ」
「うぃーっす……」
ロイは自身がおかしい言動を取っていた事は自覚していたが、それでも見逃された事に喜んだ。
そしてそこから立ち去ろうとした時……
「キャロル先生……? 」
シルヴィ先生が現れた方向にある部屋、その中で本を手にしているキャロル先生を見つけた。
だがロイは特に何をするでも無く、すぐに視線を外した。あの様子ではこちらに気付かないだろうし、気付かれても面倒な事になるだけだからだ。
引き続き職員室周りを適当にほっつき歩いていると、今度は会議室横の休憩室で青髪の男性と茶髪の二人……恐らくCクラス担任のレダ・アラウィと事務員のダニー・ラコトラを見つけた。
――不用心に扉も閉めないで、これは見てくれってことですねぇ?
もし彼らが急に部屋から出て来たはかち合ってしまい、言い訳が出来なくなる。多少声が聞き取りにくいものの、ロイは少し離れたところから二人の話を聞く事にした。
「フフフ……今年もDクラスの生徒は少ない、我々の勝利は確実……」
「そうですね、アラウィ先生。そして私達は……」
「えぇ、分かっています。我々は第二王子を担ぎ上げる為に……」
「アンドレイ様にとっては小さな障害でしょうが、避けれる物は避けるべきです。例えどんな手を使おうとも……」
アラウィはラコトラにから金を受け取り、ニンマリしている。
この発言はアンドレイ王子を侮るような不敬な言葉であり、憲兵辺りにバレたら捕まりかねない発言だ。
――アラウィ先生は金好き……か。良い情報が手に入ったな。
「アンドレイ王子を担ぎ上げる……か」
そこから先はただの雑談だった為、ロイは切りの良い所まで聞いて逃げた。
ロイが角を一つ曲がって影一つ見えなくなった頃、アラウィとラコトラの二人は部屋を出た。周囲に人影が無かった事を確認し、盗み聞きはされていないと安心した両名は何事もなく去って行く。
まさか話を聞かれていたとは一切思う事無く……
――――――――――――――――――――
ギルバートとロイ、そしてエミリーがカラスと竜の隠れ家からギルドに向かっていた頃。
ギルバード達とはまた別のチームも、その面々が寮の食堂に集まっていた。
一人目は自信気な顔をさせた貴族の坊っちゃんといった印象を受ける少年。
二人目は前髪を目が隠れるほど伸ばし、内気な印象を受ける少年。
三人目は活発な印象を受けるも何故か影の薄い、黒目黒髪の少年というメンバーだ。
しばらくは全員がお互いを探るように静かだったが、一人目の少年が耐えかねたかのように口を開いた。
「ファルティス・テフィラーだ、君達も名前位告げたらどうだ? 」
「ラシム……です。その……かっ、家名はない……です、はい」
「タツヤだ、家名もあるにはあるけど……爺さんが言わないほうが良いって言ってたんで言わないぜ」
すると他の二人もそれに続き促され、それぞれが自己紹介を始めた。
彼らは皆話し初めの踏ん切りがつかなかっただけらしく、全員の挨拶が終わる頃にはそれなりに会話を弾ませていた。
「早速だが、私が司令役……リーダーで構わないか? 」
「構いませんよ。僕が他人に命令するなんて図々しいですし、どうせ僕なんかが良い指示を出せる訳ありませんから……」
「暗っ!! もう少し明るく行こうぜ? ……まぁ、俺もそんな戦術とか知らないからあんたがリーダーで異論無いぜ」
「分かった、協力感謝する。私は戦闘が得意ではないが、確実な司令は出して見せる。皆は何が出来る? 」
「ごめんなさい、僕は争いごとも苦手で……」
「あー、俺も実は戦うのはそんなに得意じゃないんだ……」
「なるほど、戦力はあまり無いか……」
「酷っ!! 直球で言うか? 普通……」
「何、問題は無い。戦闘が得意でも得意で無くても……元々戦力を高める訓練はする予定だったからな」
そう言い放ったファルに対し、ラシムとタツヤの二人はキョトンと見つめるだけだった……
――――――――――――――――――――
所は変わり職員室。
大半の教師はそれぞれで仲を深める為、
そんな静かな職員室に居る数少ない赤髪の教師……シルヴィは自分に充てがわれた席で考え事をしていた。
「やぁ、シルヴィ。
「ルイ・ギレン……Sクラス担任の上に、第二王子のクラスを受け持つエリート担任が何の用だ? 」
考え事をしていたシルヴィの元へ、ルイ・ギレンと呼ばれた金髪の男が声をかけた。
考え事の邪魔をされたシルヴィはやや不機嫌になりながらも、しっかりと返事はした。
「全く、せめて“先生”とか付けないの? 仮にも先輩だよ? 」
「『俺にそんな硬い態度は必要ない』と言ったのは貴様の方だぞ」
「そんな事な……いや、あったかも? いやいや、それより。キャロル先生の説得の件だよ。いつもなら無駄にある金でコロッと落としてたじゃないか」
「あれは本気の目だった、だから無粋な真似はせずに応援したくなっただけだ」
「ふ~ん、なら彼女には期待をしても良いのかな? 」
「勝手にしろ」
「ははっ、手厳しいなぁ……」
そうした二人の会話が終わると職員室は再び静粛に包まれた。
まるで嵐の前のように……
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