第20話
冷や汗が額を伝い顎からポタリと滴り落ちる。
やばいやばい超怖い!!頭おかしいだろこのクエスト!!
後ろから迫り来る三体のドラゴンを前に、片手に勇者と思われる少女を抱えながらセキトバを操るアキは恐怖を感じていた。
既に時間稼ぎとして呼び出したほね太郎と黒馬はやられゲートの向こうへと戻っていってしまっていた。
唯一の救いと言えば奴らは羽を持っておらず超スピードでこちらに迫ってくることがない事だ。
「プレイヤーさん達みんなどいてぇ!!そして逃げて!!超逃げて!!」
「は?ちょっと待てなんだあれ!!」
「おいおい逃げられるわけぐぇ!?」
「あ、これ死んだぁっはぁ!」
アキの忠告も虚しく緊急クエストに向かっていたプレイヤー達はいとも簡単に踏み潰されていく。
まずいまずいまずい!!ドラゴンのが速いのか距離が徐々に縮まって来てる!!
「あ、あの……私の事はいいので━━」
「ちょいとシャラップ、今解決法考えてるから!!」
怯えながら何かを言ってきた少女を強制的に黙らせると、アキは解決策を見出そうとそこまで賢くない頭をフル回転させる。
ここは少女を逃がして俺が囮になるか?いや、ほね太郎達が秒殺されたんだ、そんなのが三体同時とか俺も秒殺されるに決まってる。
ここはサツキとシャケに連絡してドラゴンの足止め用に大量の人を集めてもらうか?それだと間に合わなさそうだし、ああぁぁぁもうどうすりゃいいんだよ!!
「やけくそだぁぁ!!『サモンマスケルトン』!!『サモンスケルトン』!!」
考えるのが面倒になったアキはドラゴンの背に向けてスケルトンを召喚し始めた。
「ふぅ、ふぅ、気持ち悪い…………」
「魔力の使いすぎです!!今はあの森に向かってひたすらに走りましょう!!」
アキはスケルトンを召喚していると気分が悪くなり、口を押さえふらふらとし今にも落馬しそうになる。
それを見た少女は手網をアキから奪い取ると身体に回していたアキの手をしっかりと握りセキトバを操り始める。
「うぐ、ごめん、一応助ける側なのに助けられる側に回っちゃったな」
「いえ!!あの時助けてくださらなかったら私は今生きていません、互いに助け助けられ今があるんです。だから、一緒に生きて喜びましょう!!」
流石勇者様、良いキャラしてやがる…………こりゃあ気に入ってしまったな。
勇者ちゃんよ、絶対に死なせてやらねぇぞ。
だがどうすれば…………あぁ、あれがあったな、正直賭けだがやってみるしかない。
「よし、ある程度良くなった。少女よ、ちゃんとにその手を掴んでいてくれよ?」
「へ?」
「ヒポグリフに食われたのも無駄じゃなかったかもな。『サモンスケルトン』」
アキはアイテムボックスに入っていたヒポグリフの羽根を投げ捨てそれに向けサモンスケルトンを発動させる。
すると空中にゲートが開き、セキトバと同サイズのヒポグリフが現れた。
「よっし!上手くいった!!行くぞ!!」
アキはヒポグリフスケルトンを召喚出来たことに小さくガッツポーズを決めると少女を抱えセキトバから飛び上がった。
え?こんなものが召喚できるならセキトバ討伐なんてしないで最初からこれを使えばいいだろって?そんなことしたらつまらないじゃないか。今は一大事だから別だが。
「さぁヒポグリフ君、取り敢えずあのドラゴンから離れてくれ!!」
「ヒ、ヒポグリフ?!」
アキが命令するとヒポグリフスケルトンは耳をつんざくような高音を発すると、力強く街へ向け羽ばたき始めた。
「う、嘘っ、飛んでる、私達飛んでる!!」
「こいつがちゃんと出てくるか心配だったけど上手くいって良かった」
「凄いですね!!私空を飛ぶのが夢だったんですよ!!」
ドラゴンから離れられた二人は完全に安心しきった様子で会話を始めていた。
「それは良かった、そうだ、君名前はなんて言うの?」
「あ、すみません、私はミザリィと言います」
「ミザリィか、可愛い名前だな。俺の名前はアキ、見ての通りネクロマンサーだよ」
「アキさん、先程は助けてくださりありがとうございます!!」
あぁもうこの子ええ子やなぁ…………サツキよりもヒロイン度高いぞ。
いや、サツキはヒロイン度0だったな。
ミザリィのいい子さ具合いと可愛さにジイィンと来ていると下でまた先程の轟音が響いて来た。
「下で戦いが始まったみたいだな」
「あぁ!!また冒険者さんが!!」
「大丈夫、プレイヤーは死んでも死なないから」
「え?プレイヤー?死なない?」
うーん、どう説明したものかね。
多分この子
もしメフィストフェレスとやらが本当の悪魔で運営が本物の神だったら、このゲームはもう一つの世界って事も…………考え過ぎか。
「うーんとね、俺達プレイヤーって言うのはいくら死んでも神様のいたずらで生き返るんだよ」
「そうなんですか?!」
「そうそう、神様のいたずらかは分からないけどね。実際俺なんか二回モンスターに食われて死んでるから」
「うっ、それは辛かったですね……」
なんにこんの子超いい子じゃないの、不気味がると思ったら心配してくれるとか聖女か?いや勇者だ。
━━バキャッ
「はっ?」
「へっ?」
突如として下から突き上がって来た熱線と嫌な音に情けない声を漏らす。
潤滑油の切れた機械のような動きで首を動かし熱線の上がってきた方を見ると、ヒポグリフの翼が消し飛んでいた。
「落ちたな (確信)」
「えぇっ?!」
次の瞬間、嫌な浮遊感と下から吹き付ける風に襲われた。
「ミザリィ、ちゃんと捕まっとけよ!!」
「はっ、はいいぃ!!」
どんどんと地面が迫り来る中、俺はしっかりとミザリィを抱きしめヒポグリフから飛び降りるタイミングを見計らう。
「…………ここ!!」
地面から数メートルの所でヒポグリフを踏みつけ無理やり上へと上がり落下の速度を緩めると、背中に大盾を背負い自らの身体を下にして着地をする。
「ごっはっ!!」
「あ、アキさん!?」
「大丈夫、こう見えても頑丈だから……」
俺の上で心配してくれるミザリィに笑顔でそう返すとズキズキと痛む身体を無理やり起こす。
うん痛い、だが痛いだけだ。
高さで言ったらビルの三階から飛び降りた感じだが全身が痛い程度で済んでいるのに驚きだ。
ビルの三階からの飛び降りは十分死ぬ確率はあるがこの様子だと十階くらいから飛び降りてもギリギリ生き残れそうだな。
「あら、死ななかったのね。面倒ねぇ……これじゃあ私が殺らなきゃいけないじゃない」
「?!」
俺が回復ポーションを飲んでいると森の奥から女口調の野太い声が聞こえて来た。
「誰だ」
「あらん?あなたがスケルトン達を使役してた子ね?」
「だから何だ、ミザリィを殺そうってんならさせねぇぞ?」
角の生えたオカマらしき人物が森の奥から出くると同時にアキは両手を鳴らし、スケルトンブラザーズを召喚すると大盾を構える。
「ふふ、良いわねぇ、そういう子どぁい好き」
「『サモンセキトバ』ミザリィ、そいつに乗って街まで行ってくれ」
「で、でも!!」
「さっき言ったろ?だから行け!!」
俺の怒号にミザリィは苦虫を噛み潰したような顔をし、セキトバに跨る。
「よしミザリィ良い子だ、死んでも生きても街で会おうぜ?」
「はい、必ず、必ず私のところに来てくださいね?」
「当たり前だ」
ミザリィはアキの言葉を聞き終えるとセキトバの手網をしっかりと握る。
「セキトバ、頼んだ」
「させないわよ!!」
「『タウント』!!」
オカマが鞭を取りだし攻撃モーションに入った瞬間アキがタウントを発動させ、ターゲットをアキに固定させ攻撃がアキに向けて放たれる。
「残念だったな?格好つけたのに台無しにされちゃ困るんでね?」
「あらあらっ、やる気ぃ?良いわよぉ?ふふふふふ、私の鞭の前で踊りなさい♡」
「だーれがてめぇの前で踊ってやるかドブスナマズ男」
「ブチゴロス!!」
さぁ、めいっぱい時間稼ぎさせてもらうぞ。
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