第11話

「かったりぃなぁ…………」

「ほら元気だして!あと三日で夏休みなんだから!!」


朝からだるそうな平均身長より少し高めの青年と青年の胸の辺りに頭が来る少女が学校へと歩いて投稿していた。


「面倒臭いものは面倒臭いんだ、入ったはいいがテストよりも勉強よりも何よりも高校の奴らが辛いと思うことになるとは」

「ほらほら、そんな事言ってると幸せが逃げて行っちゃうよー」

「幸せなんて俺の中にはねぇよ…………」

「幸せは君の奥深くにあるものなのだ!!」


第三者が見れば何言ってんだこいつら、と思うであろうがこれがアキである宏幸とサツキである美沙希の日常である。


と、そんな事を話しているといつの間にか学校の正門についていた二人は、いつも正門に立っている宏幸と同じクラスの風紀委員の副委員長である加藤綾かとうあやに服装調査をされる。


「ワイシャツのボタンは第二まで閉めてあるか?」

「へいへい勿論」

「朝からだらしない態度だな、シャキッとしろシャキッと」

「へ〜い」


宏幸は綾に注意され、嫌々ながらも猫背気味だった姿勢を正しヒラヒラと手を振って美沙希とそそくさと校舎へと入っていった。




「おはよう宏幸」

「おう、おはよう」


教室に入り席に着くと友人の佐藤圭太さとうけいたが話しかけてきた。


「んでぇ?どうだった?」

「どうだったって?」

「TPOだよTPO」

「ん、まぁ面白いぞ」

「お前のそのテンションで言われると本当に楽しいのかわからねぇなおい…………まぁ俺は今日ギアとソフトが届くからやって見りゃいい話なんだがな」


圭太はそう笑いながら言うと朝のホームルームが始まる前に自席へと戻って行った。


さて、今日のTPOのために頑張るか。




~~~




「なぁ、宏幸」

「なんだ?」

「シャケの開き直りって名前にするのとケイオスどっちが」

「まだケイオスのがマシだろ 」


学校が終わり、ケイオスと共に下校をしていると圭太がおかしな質問をしてきたため即答してやる。


「よし、ならシャケにしよっと」

「何故じゃ?!」

「え?そっちの方が面白そうだから、それにこれならみんなが覚えやすいだろ?」

「そうではあるが…………」

「良いね!!けいも一緒にパーティー組んでやる?」


圭太の発言に宏幸は人差し指でこめかみを掻きながら答えていると後ろから美沙希が乱入してきた。


「お前他にパーティーいるんじゃないのか?」

「ん〜?明日からみんなでやることになってるから今日はこの三人で狩ろうよ」

「いいねいいね!!宏幸、やろうぜ!!」

「はぁ、お前らのテンションに付いてけないわ」

「「ゲームやってると人が変わったように明るくなるくせに」」

「う、うるせぇ。早く帰ってTPOすんぞ」


そんな調子で各自家に帰るとギアを起動しTPOへとダイブする。


現実の身体の感覚が薄れていき、どんどんとアキとしての感覚が強くなってくる。


この感覚ちょっと好きだな。


アバターとリンクしながら宏幸は口をつりあげニッとわらうと完全にリンクを終えたのを確認する。


よーし、問題なく動く。


視界の端に映るNOWLORDINGという文字を一瞥し、だだっ広い白い空間をぴょん助ぴょん助と縦横無尽に飛びまわる。


「いっやっほう!!」


何故かこの空間は身体の動きが恐ろしく良く、ゲームでのステータス以上の動きができる。


ここは何用の空間なのだろうか、まぁ良くあるロード待ちの空間って答えが妥当かもしれないけども。


「やぁ、こんにちはアキさん」

「お前は、確かメフィストフェレスだったか」

「おや、可愛らしい姿とは違って男らしい喋り方ですねぇ」

「運営の悪魔さんよ、俺は中身は男なんだがバグでこうなっちまってな」


俺は肩を竦めメフィストフェレスに言うと、メフィストフェレスは仮面を取り外し顔を露見させるとこの前の嘲笑うような笑みとは違いどこか親しみのある笑みを浮かべていた。


「それはそれは、失礼しました。ですが、一度決めたアバターはこちらからであろうと干渉が出来ないのです」


メフィストフェレスはそう言うとわざとらしく肩を竦め首を傾げる。


「それなら仕方ないが」

「で・す・が、貴方は創造神様と似ていて面白そうな方だ。私はとても、そうとても興味を持ちましてね?」


メフィストフェレスはわざとらしく台詞を口からペラペラと吐き出すとこの前の燕尾服に何故かついているマントを翻し、懐から何やら黒い書物をとりだした。


「ふふ、これは絶対に使ってはならない禁断の書物、これをあなたに差しあげてみることにしましょう」

「いや、いらん。そんな物騒なもの押し付けてくるな」

「おっと、辛辣ですね。それでこそ私の見込んだプレイヤーだ」


メフィストフェレスはそう言うと今度は気味の悪い笑顔を浮かべ、その書物をアキ目掛けて投げ付ける。


「ふっ!」


それをまだ身体に慣れていないながらも避ける。


「おや、意外と出来る方でしたか?」

「これは一体なんのイベントなんだろうな」

「うーむ、イベント、ですか。それならこういった方がいいですね。『負けイベント』ですよ」


━━パチン


メフィストフェレスが気味の悪い笑顔のまま指を鳴らすと禁断の書物が彼の後ろに円を描くように十何冊と出現した。


「さぁ、アキさん、大人しくこれを受け取りなさい」

「そんな見るからに危ないやつ受け取るバカがどこにいるんだよ!!」


アキはそう叫ぶと踵を返し駆け出し、メフィストフェレスから一気に距離を離す━━



「おやぁ、お忘れですか?私は運営ですよ?」



━━はずだったのだがいつの間にかメフィストフェレスは目の前に瞬間移動しこちらを嘲笑ってくる。



「んぁ?!卑怯だろ!!」

「卑怯じゃないですよ、運営ですので」

「シッ!!」


嘲笑い完全に油断しているであろうメフィストフェレスに飛び膝蹴りを入れようと跳ぶが、メフィストフェレスはわかっていたようにゆったりと半歩動く事で膝蹴りを避ける。

そしてそのままアキの足を掴み数度回転し、その勢いでアキを空高くまでほおり投げその進行方向のはるか先に瞬間移動をする。


「くっそがぁ!!」

「お見事です、とても初心者とは思えない戦いぶりです。ですが、あなたと私では積み上げたものが違う」


メフィストフェレスはそう一言漏らすとアキに書物をぶつける。




その後、アキはあの街へと立っていた。

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