005  イレギュラー・ワールドⅤ

 血だ。自分の体内に流れる血が、さっきの変な感触で流れているのだ。


「くっ……」


 海斗は、辺りを見渡すが姿が見えない。


「おい! 今のは何だ⁉」


 ————頬にかすり傷。もう、近くにいるの⁉


 少女は、より一層に警戒を高める。


「多分、かまいたちよ」


「かまいたち?」


「そうよ。私から離れないで‼」


 少女は、海斗の制服を引っぱり、自分の近くに身を寄せる。


 ドンッ‼


 すごい衝撃音がした。

 目の前には背の高い角を二本生やした鬼のような奴がいた。


 ————これが旧悪魔……。


「はぁ……」


 旧悪魔は、大きく息を吐いた。


「ちっ……かすっただけか……」


 ————身長は二、三メートルくらいの大柄な男?


 ————だが、流れてくるこの泥臭ったい気は何だ? 気持ち悪い。


 海斗は、目の前の悪魔を見て寒気が走る。


「コロス……邪魔な奴は……コロス……」


 一瞬で姿を消し、目の前に飛び掛かってくる。


 ドンッ‼


 鎌と大きな爪がぶつかり合う音がした。


「くっ……」


 少女は、防御に徹することが精一杯だった。


「おいっ‼ 俺は助けなくていいからしっかり戦え‼」


「馬鹿言わないで! お前をこのままほったらかしなんかできるわけがないでしょ!」


「しかし……」


「なめないでくれる? これでも新悪魔の端くれよ。旧型になんて負けるはずがないわ」


 少女が、旧悪魔を振り払う。

 そして、一定の距離を保ち、話を続ける。


「旧と新の違いって何なんだよ⁉ 旧悪魔は、そこまで強くはないんじゃないのか?」


 海斗が叫ぶ。


「————んなわけないでしょ! 旧悪魔といってもね、一応、悪魔だから強いに決まっているじゃない⁉」


「…………うそだろ…………」


「それに悪魔や神を倒せるのは、悪魔と神だけ。そして、奴の標的は私とお前よ」


「はぁああああああああ⁉」


 少女から言われて、海斗は再び大声を出して驚く。


 ドンッ‼


 再び二人の悪魔がぶつかり合う。

 少女は、向かってくる旧悪魔を振り払い、軽々と受け流す。


「つまり、邪魔者は片っ端から排除していくって事よ」


 少女は、戦いの中で説明をする。


「誰が黒幕なのか分かってもいないけど、今は目の前の敵を倒すのが先決よ‼」


 一方的に攻撃を受け、押されている少女は、耐えるのが辛そうに見えた。

 だが、旧悪魔は手を緩めない。


「ギャアアアアアアアアアア‼」


「くっ……」


 少女は、海斗に見せた技を使おうとしない。


「おい、早くさっきの技を使えよ‼」


「無理言わないで‼ 本気を出せば、お前にも影響が及ぶのよ! 軽々と出さるわけがないじゃない‼」


 ————俺がただ無力の人間だから敵を倒せないのか……。


 ————目の前で戦っている女の子を見ているだけで、ただ、応援しているだけなのか?


「カッコわりぃ……」


 海斗は呟いた。


「もう、見てられねぇえええええ‼」


 と、同時に海斗の首に掛けられていた御守りが光った。


 ドンッ‼


「⁉」


 パンッ‼


 何かが斬り落とされる音がした。

 少女が目を丸くする。


「ふぅ……」


 海斗は小さく息を吐いた。

 光の中から姿を現す。

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