002  イレギュラー・ワールドⅡ

「弱すぎるのよ。勝負ごとに関しては九割近い確率で負けてんのよ」


「でも、逆に言えば一割はどこかで勝っているって事なんだよね。全てが弱いわけじゃ……」


「まぁ————、それはそうだけど簡単に言えば宝くじに当たるくらいの確率だから」


「それでも宝くじに当たったら、幸運を持っているって事でしょ?」


「アホ」


 嬉しそうに言う少女に呆れ果てている少女が、口の中に卵焼きを入れながら、


「あいつが今までクジで当たった試しなんてないよ」


 少女は最後の一口を食べ終わると、蓋をして、風呂敷を包むと立ち上がった。


「それよりも今度のマーク式のテスト、海斗とは違う回答すれば、合格できるよ」


「それは確かに……」


 そう言われて納得する。


「おい、そこは納得するな、愛歌‼」


 海斗は振り向いて、おしとやかな少女に文句を言った。


「おーい、俺も食い終わったからさっさと戻るぞ‼」


 イラッ‼


 海斗は、いつの間にかパンを平らげている男にイライラが爆発した。


「海斗、昼休みは後二十分もないからね」


「大門君、先に行ってるね」


 と、次々に屋上から姿を消した。

 運命というものには、あまりいい事は無い。

 誰にでもある事だが、人生、いつどこで、誰が、何をするのか、そんな事は神様でも分からない。

 そう————


「ねぇ、良かったの? 一人にしても……」


「いいんじゃないの? 今日のあいつはおかしかったし」


「いつも通りだ。いつも通り‼」


 心配する愛歌に二人は能天気な回答をする。


「だとしても少し酷いよ! なんだか、後味が悪いというか……」


「あんたは優しすぎんのよ。あの男のどこがいいんだか……」


「何言ってるの、涼ちゃん‼」


「さぁ、なんて言ったかな?」


「アホ……」


 余計な事を言う少女に愛歌は、頬を膨らませながら怒った。

 それを聞いていた少年は、額に手を当てて言葉を漏らす。


「そもそも学校内で人気のあるあんたが、小学校の頃からあの男の事を思っているっていうのに……あの男は鈍感よね」


「別にいいんじゃないのか? もし、付き合うことになったとしたらいつか殺されてしまうぞ」


「それもそうね。この学校、馬鹿しかいないから……」


 少年少女たちは、自分たちの教室へと戻って行く。


 一方————

 屋上に取り残された海斗は、自分が買ってきたパンを食べながら屋上に設置されてある貯水タンクの上に寝転がっていた。


「————ったく……空はいつも通り青くて太陽サンサンだな……」


 心地よい風が流れ込んでくる。しかし、なんだかおかしい。


「……? 少し寒いな? でも、雨は降ってないし————」


 海斗は、起き上がって周りを見渡すと、


 ————えっ?


 海斗は驚いた。

 そこには大きな鎌を持った少女が宙に浮いていた。


「嘘だろ……」


 目を何回も擦って自分の目が節穴か、何度も見返す。


「見間違いがねぇ……」


 自分でも驚いている。人間が空に浮いているなんてあり得るわけがない。それに大きな鎌。まるで悪魔みたいな少女だ。

 海斗を見もくれず、ただ遠くの空を眺めている。腰まで伸びた黒髪は風によって宙を舞い。一言で言うならば『華麗』だ。

 少女は、ゆっくりと空から落ちてくる。まるで、あの飛行石の映画のようだ。


 トンッ……。


「はぁ……眠い……」


 と、少女は大きな欠伸をする。

 すると、近くにいる海斗に気がつく。


「ん? お前、こんな所で何をしている?」


「それはこっちの台詞だ! お、お前、一体どこから現れた‼」


 海斗は、飛び起きて大声で叫ぶ。


「そもそも人間が宙に浮くわけがないだろ‼ も、もしかして宇宙人なのか? いや、しかし、人間の形をしているが……」


「はぁ?」


 少女は、首を傾げる。

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