第36話
「これから…どうするんだ…。」
「………。」
「お前はまだ彼奴らと戦うつもりなのか。」
もちろん、そのつもりだが…本当にそれでいいのか…と思う自分がいた。
俺達には戦うための武器もなければ、仲間もいない。
もう俺達には何も残ってはいなかった。
だが、このまま諦めてしまえば、未来が奴らに囚われたままになる。
そんなこと……俺にはできないことも分かってる。
ただ、この先はこいつらを巻き込みたくはなかった。
きっと奴らと戦う道を俺が選べば、彼女達は死んでしまう。
だったら、ここで彼女達と別れるべきなのかもしれない。
「もう…終わりにしよう。ジョウ、お前に「嫌だね…お前の考えてることは私には分かる。どうせ、私に美樹のことを任せ、一人で奴らと戦うとか言いたいのだろう。」
ジョウには俺の考えが分かっていたようだ。
それもそうか、ジョウとは随分と長くつるんでいたからな。
「お前の言う通りだよ。ここからは俺一人で奴らと戦う。もうこれ以上…誰にも傷ついて欲しくないんだ。だから…お前は元の生活に戻れ。」
「勝手なことを言わないでくれっ!!!」
今までで聞いたことのないほどの大きな声でジョウは叫んだ。
俺はジョウの気迫に圧倒され言いかけていた言葉を飲み込む。
「何が誰にも傷ついて欲しくないだ…そんなの…私だって同じなんだぞっ、お前に…夏樹に傷ついて欲しくない…。お前は私にとって大切な…人なんだ。ずっと一人でいた私を助けてくれたお前に…死んで欲しくなんかないっ!!!」
彼女は泣いていた。
今までで俺はジョウの涙を見たことがない。
それなのに彼奴は俺のために涙を流してくれていた。
「だから…もうやめよう…。もういいじゃないか…奴らは美樹がいなければ何もできないんだ。このまま美樹と私と三人で何処か遠くへ逃げて一緒に暮らそうよ…夏樹…。」
「それは…出来ない。俺は未来を…彼奴を助けたいんだ。ずっと…彼奴は一人で助けを待ってる。彼奴を助けることができるのは俺なんだ。俺がやらなくちゃいけない。だから…俺はやめられない。」
「っ…!?どうしても行くって言うんだな…だったら、私は夏樹を止める…彼奴らのところへなんか行かせない。私は絶対にここを退かないから。」
ジョウはそう言うと俺の体を掴み、壁へと押しやった。
彼女の力はとても弱々しく、少しでも力を入れてしまえば、彼女をどかすことができるほどの力だ。
だけど、俺には彼女を無理矢理、引き剥がすことができずにいた。
彼女は本気で俺のことを止めてくれているんだ。
行かせたくない、死なせたくないと彼女の心が俺の心を止めている。
それほどまでに彼女は俺のことを大事に考えてくれていたのかもしれない。
「ジョウ、そこを退いてくれ。」
「どかないっ…絶対にどかないから…。」
彼女の覚悟が心に響く。
「ジョウ…すまない…。それでも…俺は行かなきゃダメなんだ。」
彼女の覚悟はわかった、だがいつまでもこのままではいられない。
彼女が俺のためにこんなにまで覚悟を決めてくれたんだ。
「だ…めっ。」
俺はジョウを優しく引き剥がすと歩いて行く。
ジョウの手がゆっくりと俺の方へと伸びて来た。
だが、俺は彼女の手を払いのけ歩いていく。
「どうしてもいくのなら……そこの…ケースを…持ってくといい…。唯一…私が完成させることができた…武器だ。それを持って行くのなら…約束してほしい…絶対に生きて…帰ってきてまた会うことをっ。」
「……約束はできん…だが、善処する。」
机の上に置かれたアタッシュケースを持つと俺はジョウの前から立ち去った。
外にある車へと乗り込もうとするとあることに気づく。
鍵をかけていたはずの車に鍵がかかっておらず、車の中を外から見るが中には人影は見えなかった。
俺は車の後ろへ回り、トランクを開ける。
「はぁ…美樹…降りろ。」
トランクの中には膝を抱え、うずくまった状態の美樹が隠れていた。
「おじさん…お父さんのところへ行くんでしょ。それなら美樹も…。」
「ダメだ、お前はジョウと一緒にいろ。今回は俺が一人でやる。」
俺はそう言うと美樹の腕を掴み、車の外へと引きずり出した。
「おじさんの邪魔にはならないようにするから…だから美樹もついて行くっ。」
「そうか、だったら邪魔にならないようにジョウの元にいろ。」
「いやだっ、私だって戦えるっ。」
「いい加減にしろっ!!!お前なんか来たところで足手まといにしかならないんだっ!!!だから、大人しく…ジョウといろ。」
美樹はそれでもついて来ようとする。
彼女もジョウと同じように覚悟を決めているのだろう。
だが、連れて行くわけには行かない。
彼女は俺達にとっての最後の希望なんだ。
彼女が捕まれば全てが水の泡になる。
それだけはあってはならないことだ。
「……美樹だって…役にたてるよ…。」
「…ああ、分かってる。だが、それでも俺一人で行く。美樹、分かってくれ。」
俺はそう言うと運転席へと乗り込む。
バックミラーで美樹の姿を確認すると美樹は車へは乗り込まずに涙を流しながら何かを喋っていた。
「絶対に帰って来てよっ!!!」
「……。」
俺は車のエンジンをかけ、アクセルを踏みつける。
いよいよだ…いよいよ、未来を助けることができる。
武器はジョウから託されたものと銃火器だけ。
これで勝てるかどうかはやってみないと分からない。
今の俺はあの時とは違う。
超人薬で力を得た。
これで彼奴とも対等に戦えるはずだ。
問題は奴の元にストーンとボルトがいること。
あの二人の相手をした後にインビンシブルと戦わなきゃならないことだけか。
体力を少しでも残しておきたい、その為にはどうにか奴らに見つからずにインビンシブルの元までたどり着く方法を考えなければ。
そうして、俺は奴の元へと向かって行く。
きっとこれが俺にとっての最後の戦いになると分かっていた。
もう、失うものは何もない。
この命の炎が燃え尽きるまで…抗うだけだ。
「夏樹…聞こえるか。」
突然、車のスピーカーから声が聞こえた。
この声はジョウのものだ。
「私はお前に話してないことがある。」
「話していないこと…。」
「最初に謝っておく…本当にすまない。」
ジョウはそう言うと何をしでかしたのかを説明し始めた。
その話を俺は信じたくはなかったが嘘には聞こえない。
俺は間違っていなかったんだ。
「ジョウ、話してくれて感謝する。俺はお前を責める気は無い。お前は何も知らずに利用されていただけだ。お前は悪く無いよ。」
スピーカーからは鼻のすする音が聞こえた。
彼奴は最後に俺に真実を話してくれた。
それだけでも俺には十分だ。
ジョウの話を聞き、彼奴を…インビンシブルを許すことなどできなくなった。
絶対に今日で全てを終わらせる。
これ以上、奴の好きにはさせない。
俺は静かに心の中でそう誓った。
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