第22話

「まったく…面白そうなことをやってんじゃないの。なぁ、兄弟。」

「来るのが遅いんだよっ、ブラザー。」

なんてこった…これは非常にまずい事態だ。

ボルトの隣に立っている男には見覚えがある。

俺達よりもさらに大きな体をした、山のような男。

「それで…こいつらが例の…なんだっけな?」

「美樹様のことを攫った奴らだよ。まったく、兄弟は何にも覚えてないんだな。」

まさかここでこいつが援軍に来るなんて。

「そうそう、美樹な。そんで、こいつら…殺してもいいんだっけ?」

物騒なことを言いやがって、それでもお前らはヒーローなのか。

ってそんなことを言っている場合じゃない。

どうにかこの状況を打破する考えを練らなくては。

「どうすんだい、リーダー。このままじゃ、まずいと思うよ。」

「分かってる。ボルトのことは諦めてここからすぐにずらかるぞ。ノーネーム、彼奴らがこっちに来れないように炎で道を塞げっ。」

風花は俺が指示を出すよりも早く、奴らの前を炎で燃やした。

これで少しは時間が稼げるといいが…。

「へぇ…彼奴と同じ力が使えんのかい…珍しい。」

奴らは余裕な態度で炎を物ともせずにこちらへと迫ってくる。

くそっ、これじゃ足止めにもならないか。

「…ここは僕がこいつらを引き止めるっ、だから君達は逃げるんだっ!!!」

「馬鹿野郎っ、一人で挑んでも勝てるわけないだろっ!!!大人しくここから逃げるんだっ。」

「けど、どうやって彼奴らから逃げるんだい。」

「それは………なっ!?」

さらに最悪な事態が俺たちを襲う。

俺達が逃げようとしていた方向からゆっくりとこちらへ歩いてくる男の姿が見える。

あの男は…俺の憎むべき相手。

「どうしてここに…。」

男は俺達の前に立つと立ち止まる。

「ストーン、そしてボルト。よくやった、あとは俺に任せてくれ。」

男は俺達の後ろにいる二人へと言葉を向ける。

だが、後ろの二人がそれで納得するわけがない。

「はぁ、何言ってんだよ。せっかく楽しめそうだってのに大将一人で楽しむ気かよっ。そんなの「私の言うことが聞けないのか…ストーン。」

ストーンは男の言葉に言葉をつまらせ、頭を掻いていた。

「…ったく、こえーな。ボルト…行くぞ。」

そう言うとストーンは俺達を横目でチラッとみると鼻で笑い。

そして、何もせずに通り過ぎて行った。

「何が目的だ…俺達を相手にするつもりなら彼奴らは残しておいた方が良かったんじゃないか。」

「お前らのような小物、私一人で相手をするには大分、物足りないぐらいだ。」

こいつの余裕の態度に腹がたつが、こいつの言っていることは確かに合っている。

今の俺達三人でこいつと戦った所できっとこいつには勝てない。

悔しいが今はどうにかして逃げる方法を考えなければ。

「何が望みだ…俺達の前に姿を現したってことは…何か話があってきたのだろう。」

「話なんてあるわけないだろっ、僕たちを倒しにここにきたんだ…そうなんだろっ。」

そう叫ぶスピードを男は鋭い目つきで睨みをいれた。

「いいや、その男の言う通り、話があって来たんだ。お前達に頼みたいことがあってな。」

頼みたいことだと…。

「お前達は美樹を私の元から連れ去ろうとしているのだろう。それをやめろと言いに来たんだ。」

「ふざけるなっ、あの子を利用しようとしてるくせに何を言っているんだっ。」

「利用だと…違うな。彼女は自分の意思で私の協力をしている。それを邪魔しているのはお前達の方だ。」

何をふざけたことを。

美樹が自分からこいつらに協力しているだと…。

そんなことがあるわけない。

「嘘をつくなよ…。美樹と会わせろ、そして彼女の言葉で俺達に説明しろ。」

「そう言うと思っていたよ。」

男はどこかに合図を送る。

すると目の前に美樹の姿が現れた。

だが、美樹の体は少しだけ透けており、どうやら映像を映し出しているようだった。

「美樹っ。」

「おじさん…。」

「お前は今どこにいるんだ。場所を言えっ。」

「それは出来ないよ。私はもうおじさんの元へは帰らないから。私はやらなきゃいけないことを見つけたの。お母さんのためにも。」

「何を言ってるんだ…お母さんのためにだと?」

「うん。あのね、もしかするとお母さんが取り戻せるかもしれないんだよ。あの事故で亡くなったお母さんが…だから美樹はお母さんを救い出すの。だから…もう、おじさん達の元へは帰らない。もう美樹のことは放っておいて。」

美樹はそう言うと姿を消した。

何をふざけたことを言っているんだ。

未来が…未来が取り戻せるって…そんなことあるわけないはずなのに。

「今のが彼女の本心だ。理解したのならもう、我々に邪魔をしないでくれ。それにお前も未来を取り戻したいのだろう?なぁ、夏樹よ。」

「気安く俺の名を呼ぶんじゃねぇ。未来は死んだんだよ…あの時、お前が未来を助けなかったから…俺はあの時にお前に助けを求めたんだ。それなのに。」

「そのことについては私も後悔しているよ。だが、安心しろ、全てを取り戻せる。」

こいつの胡散臭い言葉を信じることなんて出来るわけがかぬ、俺はすぐに奴へ銃を向ける。

「美樹を返しやがれっ、今すぐにっ。」

「…残念だが、それは出来ない。それにそんなおもちゃで私がどうこうできるとでも思っていないだろ?だったら、大人しく言うことを聞いてくれ。美樹や未来のためにも。」

「お前が気安く未来の名を呼ぶんじゃねぇっ、大体、お前は未来のことを知らないだろうがっ!!!」

「いや…知っているさ。彼女のことをな。」

「はっ?」

こいつが未来のことを知っているだと。

何を言っているんだ。

こいつと未来のどこに関わりが…。

「夏樹っ!!!」

次の瞬間、奴は一瞬の隙をつき、俺の体を地面へと押しつぶす。

なんとか逃げようともがくが動くことができない。

「くっ…はな…せっ!!!」

「お前はどうやら、協力をしてくれないみたいだからな。こんなことはしたくなかったが…。」

「夏樹を離せっ!!!!!!」

風花は両手に炎を纏わせ、男に向かって殴りかかろうとしていた。

だが、それを横目で見た男は俺の体を持ち上げると風花の前へと向ける。

風花はそれに気づくとすぐに立ち止まり、攻撃をやめ、距離を取った。

「こんなものでどうにかできるとは思わないけどっ、仕方ないよね。ごめんよ、リーダーっ。」

今度はスピードスターが男の後頭部に向けて、どこからか持ち出した鉄パイプを振りかぶっていた。

だが、それも男は軽々と受け止めるとスピードを風花に向けて投げ飛ばす。

「きゃっ!?」

風花とスピードは地面に倒れ、その隙に男はスピードの体を蹴り飛ばし、風花の頭を踏みつけた。

「ぐっ…やめ…ろ…。」

「やめてほしいか…ならば、私の言うことを聞いてくれ。そうすれば、これ以上、お前の仲間が傷つくことはないだろう。」

もう何も思いつかない。

ここは奴の言う通りにするしかなかった。

「わかっ…た。美樹やお前達に手を出すのを…やめる。だから、そいつを…解放してやってくれ。」

圧倒的な力を前に俺は屈した。

こいつには勝てることができないと心のどこかでそう感じてしまった。

「そうか…ならば、今、楽にしてやろう。」

男はそう言うと俺の頭から手を離し、風花の頭を踏むのをやめる。

「大丈夫…か?」

「えぇ…。」

気がつけば男のそばにはもう一人、仲間が立っている。

いつのまにか仲間が駆けつけていたようだ。

「マインド……のために…の記憶を…しろ。」

「……た。」

一体、何をするつもりだ。

記憶と言っていたが…。

意識が朦朧としているために奴らの言葉があまり聞き取ることができない。

するともう一人の仲間が俺達の目の前まで歩いてくるのが見えた。

どうにか体を動かして抵抗をしたかったが、そんな力は残っていない。

男の仲間は俺達の前に来ると膝をつき、俺の頭に手を乗せる。

(安心しなさい、私は味方よ。)

そう頭の中に声が聞こえた時だった、急激な睡魔に襲われ、瞼がゆっくりと閉じていく。

少しでも仲間の顔を覚えておこうと顔を横に向け、目線を向けるが、仲間の顔は見ることができずに俺は静かに目を閉じた。

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