第8話

信じられないほど図太いって…酷い言われようだ。

私だって寝たくて眠っていたわけではないのに。

けど、私が寝ている間にそんなことがあったなんて。

どうしてあの時、誰も教えてくれなかったのだろう。

違う…か、教えてくれなかったんじゃない。

私が聞こうとしなかっただけ。

あの時の私は酷くツンツンしていたから。

まぁ、それにもちゃんと理由があったんだけど。

今、思うともう少しあの人のことを最初から信用していれば…こんなことにはならなかったのかも。

私とあの人は終わった後にこうして後悔をすることが多かった。

要するに二人とも素直じゃないんだ。

ママはそんなことがなかったのかもしれない。

会ったことは一度もないけど、きっと仏のような人なんだろうな。

…それにしても本当に遅すぎる。

もう約束の時間からだいぶ経っているし、本当に時間にルーズなんだから。

「待たせて悪かったな。」

やっときたみたい。

声の主は遅れているくせに慌てた様子はなく、平然としていた。

その態度に私は少しだけいらっとしてしまう。

「まったく…何をしてたの?」

「…徹夜で準備してたんだよ…お前のせいだな。」

顔を上げると眠たそうな顔をしているジョウが立っている。

なるほど…私のせいで遅れたのか。

「それでみんなの方は?」

「準備できているってさ。あとは私達だけだな。……それよりも本当に…やるのか?こんなことを彼奴は「分かってるよ。あの人のことは美樹が一番分かってるんだからさ。ただ、やっぱりこのままは悔しいから、だからあの人の代わりに美樹がやるの。」

やられっぱなしじゃ、終われない。

あの人ならこういうだろう。

「…はぁ…彼奴にバレたら私は確実に殺されるだろうな。お前のことを守れと言われたのに、今ではこうして、お前の言うことを聞いて馬鹿なことをしようとしてるんだから。」

「大丈夫だよ。もし、怒られたら全部美樹がやったって言うからさ。まぁそれでも何発かは殴られるかもね。」

「怖いこと言わないでくれよ。それよりもそれ…彼奴のものだろう?どうしてお前が?」

それとはきっと日記のことを言っているのだろう。

「ん?あの人は自分のことをあんまり話してくれなかったでしょ。だから、こうして美樹が知ろうとしてるの。あの人のしたことを。」

「…まったく…これじゃ説教どころの騒ぎじゃないな。」

「本当にね、でもねこれ結構面白いんだよ。無駄にカッコつけたこととか書いてあるし、きっと中二病だったのかもね。」

「いや、彼奴は絶対に中二病だよ。だって銃に名前つけたり、隠れて鏡の前でコスチュームを着て立ってるところを見たことがあるからな。」

「本当に?」

「ああ、本当だ。」

そんなことをしていたなんて。

これは絶対にからかってやらなきゃ行けない。

「他にもさ、なんか面白い話はないの?」

「…いっぱいあるぞ、それも話し終えることの出来ないほどにな。…まぁでもその話は全てを終わらせてからにしようか。全てが終わった後の楽しみに取っておこう。」

「そうだね…。でもまだ作戦開始まで時間があるから、もう少しだけ、日記を読んでてもいいかな?」

ジョウは優しく頷くと私の隣に座り、一緒に日記を読み始めた。



「それでこれからどうするつもりだ?奴らには正体がバレているのだろう。」

「いや、彼奴らは俺があの事故で死んだと思っているはずだ。あの時、俺のことを襲ってきた男がそう仲間に伝えていたからな。だからこのまま俺は彼奴らに死んだと思わせるさ。昨日の出来事で確信したんだ。彼奴らは何かを始めようとしているってな。」

「…何かを…か。それにこの子が巻き込まれている訳だな。」

ジョウと俺の目線の先には美樹がベッドで横になっている。

相変わらず、呑気によだれを垂らしながらアホヅラで美樹は眠っていた。

「本当にお前は…この子について何も知らないのか?」

「………。」

美樹については何も知らないわけでは無い。

知っていることはあるにはあるがそれは別にジョウへ話すことではなかった。

「まぁ何にせよ。この子を取り戻すことはできたんだ。後は、この子が眼を覚ますのを待つだけだな。」

美樹はあれから2日は眠ったままだった。

ジョウに検査をしてもらったが特に異常は無いとのことだが。

それでも少しは心配をしていた。

俺にもまだ多少は人の心が残っていたようだ。

「そうだ、お前に紹介しなければならない人物がいる。ついて着てくれ。」

ジョウはそう言うと立ち上がり、先を歩いていく。

このまま美樹を一人で残すのには気が引けたがここに残っていても俺にできることはなかった。

部屋を出てまたあの気が狂いそうなほど真っ白な廊下を歩いていくと大きなモニターのある部屋へと移動する。

そこには部屋の中だというのに俺と似たようなコスチュームとマスクを身につけた変人が腕を組んで壁にもたれていた。

「見覚えがあるだろ?こいつはあの時、お前を逃がすために呼んだ助っ人だ。名を…。「私に名はありません。」

「……あっああ、そうだったな。…見ての通り、少し変わったやつだが、腕は確かだ。これからも色々と手伝ってくれるらしい。」

名無しは俺のことをジロジロ見ると鼻で笑う。

身長は大体、160ほどだろうか、あの時、男だと思っていたが…もしかするとこいつは女なのかもしれない。

「私は貴方達と目的が同じだから一緒に戦うだけです。貴方達とは親しむ気はありませんので。」

こいつの性格がめんどくさい性格なのはわかった。

「目的が同じだからか…ならお前もヒーローを捕まえようと?」

「ふふふっ…ヒーローを捕まえる?何をバカなことを。私はヒーローを誰一人として生かしておく気はありません。私の目的は彼奴らを一人残らず殺すこと。貴方達はまさか、そんな考えで戦っているのですか?だとしたら笑えますね。」

めんどくさいうえにムカつく野郎だったか。

「俺は殺しはしないと決めているんでな。例え、それがどんな悪党でもだ。」

「そんな考えで彼らとどこまでやれるか見ものですね。」

俺は絶対に殺しはしない。

死んでしまえばそれで終わりだ、罪を償わせることができない。

死んで楽にさせるぐらいなら生きて苦痛を与える方がいい。

それが俺の考え方だった。

「お前が何と言おうとも俺は殺しはしない。例え、甘くても笑われてもその考えだけは変えん。」

「奴らは殺す気できますよ?それでもですか?」

「ああ、それでも…だ。」

「それならば……目の前で大切な人が死んでも…ですか?」

一瞬、頭の中である女性が浮かんできた。

「…もちろん。」

「……ふんっ。」

彼女は俺のことをまた鼻で笑う。

呆れてはいるが出て行こうとはしないってことは協力はしてくれるみたいだ。

「それで…これからどうするんだ?奴らのことを狙うのか?」

「ああ、当たり前だろ。奴らは俺達のことを狙っているんだ。ああやって嘘までついてな。」

俺の指先ではテレビのニュースが流れていた。

そこにはフェザーやストーンが俺達のことをヴィラン呼ばわりしており、注意を呼びかけている。

本名はバラしてはいないようだが、美樹が俺達に誘拐された女の子だと言っている。

「笑えるな…これで私達は全国で指名手配されるヴィランだ。」

「言いたい奴らには言わせておけばいい。俺達は彼奴ら市民のために戦うわけじゃないからな。」

俺は正義のために戦うんじゃない。

自分自身のために戦うのだ。

周りの声なんて関係ない。

「それで…これからどうするんだ?」

「奴らと戦うにはまだまだ情報が足りん。奴らのメンバー、それから能力についてなんかがな。」

「…一人ずつしらみつぶしに相手すれば良いではないのですか?相手を一人に絞れば私達二人でも彼奴らの一人を「それは間違ってる。彼奴らは並大抵のトラブルをたったの一人で解決できるんだ。だから彼奴らはヒーローって呼ばれてるんだよ。俺やお前が例え、二人がかりで襲いかかったとしても俺達が勝てる勝算なんてものは分からないだろう。お前がどれだけ戦えるかは分からないが、俺はまだそこまで戦うことができない。要するに俺が足手まといになる。」

「そんなに自分のことをはっきりと足手まといって言った人は貴方が初めてですよ。」

「そりゃそうだろう。みんなくだらない見栄を張るのが好きだからな。俺は自分が弱いことを知っている。だから、こうして戦う前に作戦を考えているんだ。事前に備えておけば、ある程度は力の無さをカバーできるからな。」

俺は奴らほどの力なんて持っていない。

真正面から挑めば必ず、負ける。

だが、弱い人間にもそれなりの覚悟というものはある。

「つまり、貴方は奴らに頭脳で勝つと…?」

「まぁそうなるな。けど、自惚れているわけじゃない。奴らの中には俺よりも賢い奴なんて沢山いるだろうしな。ただ、そんな奴が相手でも俺は絶対に諦めない。」

「…貴方の覚悟は伝わりました。…私もできる限りは…協力をすることにします。そこで…私の力を知っといてほしい。だから、今からお手合わせ願えますか?」

彼女の力を知るにはその方が良いのかもしれないと思った俺は頷くと移動する彼女の後をついて行った。

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