第52話 アルフォート視点
「嘘、なんでこんな……」
呆然としたアイーダの口から、隠しきれない悲嘆が込められた言葉が漏れる。
一方のソイラは私に、半ば悲鳴のような声で叫ぶ。
「あ、ありえない! こんなのソーラス様に請求した額よりも多いじゃない! なんで!」
「自分よりも身分の高い令嬢を虐げておいて、ソーラスと同じわけがないだろう」
ソイラに私は淡々と告げた。
当たり前だが、この貴族社会において身分は絶対だ。
ソーラスの庇護がなくなった今、アイーダとソイラがエレノーラを虐げたことは、許されないことなのだ。
それにそもそも、私がアイーダとソイラに交わした侯爵家の罪を二人に問わないというのは、無駄な約束でしかなかった。
何せ、使用人達とは違い身分の低い愛人でしかないアイーダとソイラが、侯爵家の数々の悪行に手を貸していたとは普通は考えられない。
故に、約束関係なくアイーダとソイラは侯爵家の罪に問われることはないのだ。
最初から、私にアイーダとソイラと対等な約束をするつもりなどなかったのだ。
……とはいえ、決して私は最初からアイーダとソイラを破滅させようと動いていたわけではなかった。
ただ単純に、アイーダとソイラは最初から私と対等の立場になかった、それだけの話なのだ。
私の元に実家から送られてきた時点で、アイーダもソイラも、もう貴族ではなかった。
つまり強引な手段、いわゆる拷問などで強引に口を割らせたとしても、問題はなかっただろう。
が、私はあえてアイーダとソイラが素直に口を割るのを待った。
あえて、取引という形をとることでアイーダとソイラが自主的に全てを話す形をとったのだ。
それは私にとって、アイーダとソイラに対する情けのつもりだった。
アイーダとソイラは、ソーラスに唆されただけの馬鹿で、これ以上何か裁く必要はないという思いからの。
もっとも、エレノーラに対する慰謝料に関しては、免除することはしなかったが、それも無茶な金額を要求するつもりはなかった。
細々と働いていても、充分に返すことができる金額でことを終わらすつもりであった。
──その私の思いを覆したのは、アイーダとソイラ自身だった。
「これも全てお前達の自業自得だろう?」
そう言って私はバルトに目で指示して、一枚の封筒を取り出す。
それは貴族が貴族に手紙を出す時に使われる便覧。
その宛先に書かれていたのは、エレノーラの実家である伯爵家の名義で、その送り主はアイーダとソイラだった。
それを見た瞬間、アイーダとソイラの顔からは血の気が低くことになった。
「……っ!」
「それは……!」
懇願するような二人の視線を無視し、私はその封筒の中から手紙を取り出す。
「……教えてくれないか? どうすれば、これだけ厚顔無恥な頼みができる?」
……その手紙に書かれていたのは、エレノーラが伯爵家に戻ってくれば、実家から追い出された慰謝料を要求するという文面だった。
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