エレノーラ 【2】
少しして、私が落ち着いたのを確認したマリーナは私を抱きしめるのをやめ、ベッドの近くの椅子に座った。
それからマリーナが私に教えてくれたのは、今までの経緯だった。
私が侯爵家で意識を失ったあと、マリーナは私を抱えて逃げ出してくれた。
そして、今私が居るのは、助けるために力を貸してくれた協力者なる屋敷らしい。
それが誰なのかはマリーナは教えてくれなかったが、この屋敷には商会の皆もいることは教えてくれた。
そこまでの話をマリーナは非常に機嫌の良さそうに話してくれた。
もちろん私も商会の皆がここにいるに喜んでいた。
だが、マリーナがにこやかだったのはそこまでだった。
「……一つ、エレノーラ様には大事なお話があります」
そう切り出した時のマリーナの顔に浮かんでいたのは、悲痛そうな表情だった。
一瞬マリーナは言い淀むが、覚悟を決めたように口を開く。
「その、エレノーラ様の今のお身体の話ですが……お医者様曰く、決して良いとは言えないそうです」
そうしてマリーナが話してくれた私の身体の状態は、想像以上に酷いものだった。
魔法医の見立ていわく、今の私は身体を動かすために必要とされる内蔵が過負荷で半分動かない状態らしい。
その上、栄養状態が悪かったこともあり、身体にほとんどエネルギーがなくなっている。
起きた時、私が身体を起こせなかったのも当然。
それどころか、本来ならばこの状態で動けていたことも異常であったらしい。
「……迎えに来るのが遅れてしまって、本当に申し訳ありません!」
そう私に教えてくれたマリーナの顔に浮かんでいたのは強い罪悪感だった。
マリーナは、私の身体がこのようになったのを強く気にかけてくれていて──が、当の本人である私はそこまで自分の症状を気にしてはいなかった。
確かに今の状態は不便ではある。
頭は動かないのは、今まで問題解決のために必死に考えてきた私にとって気持ちの悪い感覚だった。
しかし、今一番ほしかったものをてにした私には、そんなこと些細な問題でしかなかった。
少し話を聞いただけでどうしようもない眠気が襲う身体に必死に力を入れて、私は腕をあげる。
「……エレノーラ様?」
そして私が触れたのは、マリーナの頬だった。
驚くマリーナへと、私は力ない笑みを浮かべる。
「迎えに来てくれて、ありがとう」
それは、私の言いたいことの十分の一も表せていない言葉だった。
だが、私のその言葉を受けたエレノーラの頬を大粒の涙がこぼれていくのを見て、マリーナに気持ちが伝わったことを私は理解する。
そしてその光景を最後に、私の意識は眠気におおわれていった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます