第30話 ソーラス視点

「ふざけるな! 今まで私がどれだけ……!」


 アイーダとソイラが逃げ出したということに、私は怒りを抑えることが出来なかった。

 傍にあった机を叩きつけ、怒声をあげる。


「絶対に許さない!」


 今思い出せば、エレノーラが逃げ出すきっかけもあの愛人二人だった。

 それでも私は許してやったのに、今さら侯爵家から逃げ出すのか!

 使用人達から怯えの視線を向けられていることさえ気にとめず、私は怒りを露わにする。


「当主様!」


 そんな中響いた、私を諌める声に視線をやると、そこにいたのはカーシャだった。


 その姿を目にした私の中、さらなる怒りが膨れ上がる。

 辺境伯の言っていた不正、それに少なくともカーシャが関わっていることは私も理解している。

 だからこそ、未だ我が物顔をしてこの場にいるその姿を目にする度、強い怒りを私は覚える。

 だが、その怒りを抑え私は口を開く。


「……なんだ、カーシャ」


 怒りを覚えない訳では無いし、いつか報いは受けさせると決めている。

 が、カーシャの実家が侯爵家に味方してくれる数少ない貴族で、今まだ公爵家とのごたごたが片付いていない状況では、彼女を冷遇することができない。


「落ち着いてください。まだ、手はあります」


 一方のカーシャも私のその思いに薄々気づいているはずだが、彼女はいつも通りに口を開く。

 その態度と、未だ状況が分からぬような言葉を告げるカーシャに、苛立ちを覚えた私は、その態度を隠すことなく口を開く。


「ふざけるな! そんなものがあれば私だって!」


「実家から今、今エレノーラ様の足跡を見つけたかもしれないと連絡が来ました」


「……は?」


 一瞬、カーシャの言葉を私は信じられなかった。

 言葉を告げることも出来ず、呆然と私はカーシャを見つめる。

 そんな私を安心させるよう頷き、カーシャは言葉を続ける。


「奥様さえ身柄を差押れば、貴族達の対応も変化しましょう。そうなれば、アイーダとソイラにも然るべき報いを受けさせることができます」


「そうか! よくやった!」


 ようやくこの状況から抜け出せるかもしれない。

 そんな希望を見つけ、私は笑う。


 エレノーラさえ戻れば、状況は大きく変わると。


「カーシャ、実家に命じていち早くエレノーラを見つけるようにしろ!」


「はい!」


 部屋を後にしたカーシャの姿を見ながら、私は声を上げて笑い始める。


「ふふ、ふはははは! とうとう見つけたぞエレノーラ!」


 これならば、カーシャに罰を与えるのも考えてやってもいい、そう思いながら……。

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