第27話 辺境伯視点

 元は由緒正しき公爵家であったにも関わらず、今の侯爵家は様々な問題を抱えている。

 にも関わらず、権限だけはそれなりのものを抱えている。

 そんな侯爵家は、ほかの貴族達にとって何としてでも関わりたくない相手でしかない。

 その貴族達を必死に引きとどめていたのが、エレノーラに対する恩義だった。


 だとしたら、エレノーラがいなくなれば貴族達がどんな行動をとるかなど、考えるまでもない。


「まさかそんなことさえ思いつかない訳ではだろうに、侯爵家には一体どんな狙いがある……?」


 だからこそ、私は気づかない。

 ……侯爵家は、エレノーラという人間がどれだけ凄まじい人間なのか知らないことに。


「……まあいい。どうせ侯爵家のことだ。大したことを考えていないに違いない。そんなことよりもやるべきことをしなければ」


 少しの思考の後、そう割り切った私は紙を取り出し、手紙を書き出す。


 それは、他の貴族達にエレノーラの逃亡を知らせるためのものだった。


 こんな手紙を出すことがなくとも、他の貴族達にはいずれ情報は伝わっていくだろう。

 だが、少しでもその期間が早まるかもしれない。

 それだけのために、私はエレノーラと交流のあった貴族達に出来る限り手紙を書く。


「……何も恩返しが出来んかったのだから、これぐらいはしないとな」


 ふと思い出すのは、始めてエレノーラが辺境に来た時の記憶。

 あの時私は、エレノーラに対して勝手な偏見を抱いていた。

 彼女は貴族社会で言われるような強欲な人間なのだろうと。

 そんな態度であったにも関わらず、エレノーラは辺境の問題を解決してくれた。


 彼女にいつか恩を返さなければならない、そう強く私が思ったのはその時だった。

 いつか、辺境に与えてくれたのもを返さねばならないと。


 ……にも関わらず、私はこの2年間エレノーラに何も返すことが出来なかった。


 私に出来たのはせめて、ソーラスに警告出来ただけ。

 それ以上侯爵家に関わることなんて何も出来なかった。

 エレノーラが侯爵夫人である以上、侯爵家と敵対することさえできなかったのだ。


 あの時以上に、辺境伯の立場でいたことを恨んだことなど私にはない。


 ──だが、そんな日々がようやく動き出した。


 必死に手紙を書く私の口には、いつの間にか笑みが浮かんでいた……。

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