第21話 ソーラス視点
まるで想像もしていなかった事態に、一瞬私は固まる。
が、すぐに勝手な解釈をした私は、引きつった笑みを浮かべ口を開く。
「え、エレノーラの情報を教えて下さるのでしたか。慌ててしまい、申し訳ない」
手紙に書かれていた内容が「エレノーラに関する話」だったことを思い出し、私は少し冷静さを取り戻す。
身柄を捕えられなかったことは痛いが、手がかりがなくなった訳では無いと。
そう思い込んだ私は、再度辺境伯に真剣な目を向ける。
「それで、どんな情報を教えて下さるのですか?」
「……いえ、そんな情報は当家にはありません」
「──っ!」
だが、その私の言葉を辺境伯はあっさりと否定した。
「ふざけるな!」
……私があっさりと冷静さを失ったのは、その時だった。
辺境伯に対する恐れなどあっさりと忘れ、叫ぶ。
「態々足を運んだにも関わらず、エレノーラの身柄どころか情報が無いだと? 私を馬鹿にしているのか!」
「申し訳ありません」
「と、当主様、いくらなんでも……」
「カーシャ、お前は黙っておけ!」
淡々と辺境伯が頭を下げて謝罪するのをいいことに、宥めようとするカーシャを無視し、私はさらにヒートアップする。
エレノーラの情報が無いという事実に、私は怒りを抑えられない。
公爵家という圧倒的な存在に対する恐怖で、私の中からは冷静さを保つだけの余裕はもう無かったのだ。
「エレノーラについて何も分からぬなら、なぜ私をここに呼んだのだ! 私を馬鹿にするためか!」
だから私は、ここでその言葉を辺境伯に言うのが、どれだけ愚かなことか理解できなかった。
もう少し冷静であれば、私も気づくことが出来ただろう。
なぜ、自分がこの場に呼ばれた理由が、侯爵家にとって良い知らせでないという可能性を。
「……そういえば、まだお呼びした理由を言っておりませんでしたな」
「…………っ!」
その理由について言及するべきではなかった、そう私が気づいたのは全てが手遅れとなった時だった。
私の言葉に反応し、顔を上げた辺境伯の目はあまりにも冷ややかだった。
その目を受けて、私はようやく自分が誰に向かって口を聞いていたのかを思い出し、顔から血の気が引く。
そんな私にまるで意識を向けることなく、辺境伯は口を開く。
「実は昨日、エレノーラ夫人が侯爵家から姿を消したという話を耳にしましてな。その噂の真偽を確認するために侯爵家に足を運ぶつもりでした」
まあ、もう聞くまでもないことのようですがと、うそぶきながら辺境伯は、そばにいた執事から何らかの書類を受け取る。
そして、そのままその書類を私に渡す。
「エレノーラ様が姿を消したというのが本当ならば、私には侯爵家に果たす義理はもうない」
突き出されたその書類を、私は自然と受け取ってしまう。
「なっ!」
……呆然とその中身へと目を通した私は、そこに書かれていたことを目にし固まることとなった。
「次の交易限りで、侯爵家との関係を終わりにさせて頂こう」
──その書類に書かれていたのは、侯爵家と辺境伯との間の交易を廃止する旨だった。
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