第16話 ソーラス視点
「……くそ! あの女、どこに行った!」
侍女にエレノーラが部屋にいないと告げられてから一時間後、私は疲れ果てた状態で自室の中座り込んでいた。
一時間の間、私達は屋敷の中だけではなく周辺も歩き回りエレノーラの探していた。
にも関わらず、私達はエレノーラを見つけることができなかった。
その時になって、ようやく私達は事態を理解し始めていた。
……そう、エレノーラが逃げ出したということを。
「ふざけるなよ……! なぜ、今逃げだした」
それは、今の状況では最悪の事態だった。
血の気が引いた顔で私はうめき声を漏らす。
たしかに私は、元公爵家だったソーマライズ家の当主で、立場で相手の公爵家に劣ることはない。
とはいえ、新公爵家当主が有能であるのは事実で、そんな相手との対決を前に逃げ出したエレノーラに怒りを抱く。
しかしこの場にいないエレノーラに怒りをぶつけることなんてできず、その怒りはこの場にいる人間に向けられることとなった。
「カーシャ! なぜエレノーラが逃げ出さないように見張りを立てなかった!」
私の怒声に、メイド長が肩を震わせる。
しかし、私はそんなこと気に止めることなくさらに叫ぶ。
「お前だって、ここからエレノーラが去ればどんな状況になるのか、理解出来ているだろう!」
「……申し訳ござい」
「謝罪している暇があるならば、すぐに動け! 早く伯爵家に連絡を入れろ!」
「は、はい!」
私の怒声に、カーシャは急ぎ足で部屋を後にする。
その後ろ姿を見ても、私の中で鬱憤が晴れることはなかった。
「戻ってきたら、自分が一体何をしたのかをあの女に思い知らせてやる!」
仄暗い憎しみの炎を胸に燃やし、私はそう呟く。
その時の私は、すぐにエレノーラが戻ってくることを疑っていなかった。
屋敷にほぼ軟禁状態で、問題を解決するときでさえカーシャに見張らせていたエレノーラには、実家以外逃げることがないと思い込んでいのだ。
が、その私の判断は誤りだった。
──数日後、伯爵家から届いた手紙に書かれていたのは、エレノーラは屋敷にいない旨だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます