嫌な予感
「ねえ、ラプラシアン?
実は今私ね、
あなたに相談したいことがあるんだけど……、
時間は大丈夫?」
「いいけど……、
どうしたのお姉ちゃん?
改待って」
「今日ね、デルタさんに聞いたんだけど、
ナブラ君が入院したんだって!」
「ナブラが入院!?」
「ナブラ、どこか悪いの!?
病名とか聞いてる?」
「それがね、原因不明の病気らしいのよ。
だから、退院の目処はたたないらしいわ……」
「それは大変じゃん!
休日だからってこうしちゃいられないよ!
さっそくナブラのところに…………。
ところでお姉ちゃん?
もしかしてその相談って言うのは……、
お姉ちゃんもお見舞いでナブラ達の世界に行きたいってこと!?」
「そうなの。
私も一緒に行っても……」
「駄目!!」
「ラプラシアン?
あなたが私を心配してくれる気持ちはわかるけど、このペンダントをつけていくから」
「危険すぎるよ!
そのペンダントはこの世界でつけてるから
安全が確認されているんだよ。
時間の流れが1500倍近くも違うあっちの世界で正常に使える保証なんてどこにも無いんだよ?」
「ごめんなさい……」
「ボクも言い過ぎたよ。
お姉ちゃんが謝る必要無いよ。
ところで、
今日デルタ宛に量子メールを送って病院までの行き方を聞いておくよ。
返事があったら、
出来れば今週中にはナブラのお見舞いに行ってくるつもり。
お姉ちゃんだけに留守番させてごめんね」
「私のことを考えてのことでしょ?
仕方無いわ」
「お姉ちゃんありがとう」
量子メール。
それは、
物理法則の違う未知の宇宙間であっても
送った瞬間に返事がもらえる確実な通信手段
……なハズだったが、
デルタやナブラからの返信は一週間経っても来な
かった。
「嫌な予感がする……。
ねえ、お姉ちゃん?
ボクは今からナブラ達の様子をみに
行って来るよ。
帰るまでご飯はいらないから……」
「ちょっとラプラシアン?
今日はあなたも今から学校じゃない?
学校はどうするの?」
「ごめんお姉ちゃん。
今行かなきゃ手遅れになる気がするんだ。
だから、急で迷惑かけちゃうけど、
今から行って来るよ!」
「もー!!
こういう時ってどんなに説得してもあなたの意志は変わらないでしょ?
わかったわ。
気を付けて行ってきて」
「了解!
行って来るね、お姉ちゃん」
ラプラシアンは自分が首にかけているペンダント石の同心円状の光の一部を屈折させた。
そうやって懐中電灯のように全て前方に向けた光の中に駆け足で飛び込んでいった。
駆け足だからだったのだろうか?
彼の持つ光の能力によるものなのだろうか?
ラプラシアンは異界へのトンネルを拍子抜けする程あっという間に駆け抜けてしまっていた。
「ここがナブラ達の世界か……」
ラプラシアンの目の前には、
人工的に整備され出来たような自然の景色が広がっていた。
人工的に感じるのは、自然から発せられるはずの音が全く聞こえないからだろう。
「ビューン!!」
街に道は無く、既に大小数台の乗り物がラプラシアンの体をすり抜け過ぎ去っていた。
「これは何かな?」
ラプラシアンは自分の視界の右上にARの半透明のボタンを見つけ、押してみた。
すると、自然の景色は一変。
ごみごみした大都会に、見上げると首が痛くなりそうな程の摩天楼が続いていた。
「科学技術が発達しているんだな……。
でもどうしてだろう?
あの海岸線やあの丘とか……。
ボクの住む世界とどことなく似てる気がする。
気のせいかな?
ところで……、
さっきから少し耳がじんじんするな。
ペンダントの石が目まぐるしく回り働いていた。
ラプラシアンは、三半規管が慣れるまではそこでじっとしておくことにした。
『ビー! ビー! ビー!』
「なんだ?今の警告音は?」
ラプラシアンは気になって、警告音のする方に走って向かってみた。
大きくワーニングと書かれた半透明のAR標識が目印になり、その場所はすぐにみつけることができた。
「あれ? ねえ君、もしかして?」
「…………」
その少年はワーニングのAR標識の下の
透明な壁に激しく叩いて何やら抗議している様だ。
急いでるのか、全くラプラシアンに気が付かない。
「ねえ?
君は今入院してるはずのナブラじゃない?」
「ああ、そこに誰かいたんだ。
そうだよ……、
ってラプラシアン!
どうしてここに!?」
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