字句の海に沈む

新吉

第1話 九時の空に浮く

おはよう

みんなで口々に言い合って

そんな元気な声がおさまって

みんなが教室におさまって

授業が始まる

窓の外にはぷかぷか雲が浮いている

あれは何に見えるかしら

ぼーっと窓の外を見ていれば

あっという間に空想の世界へ

くじらぐもに乗って

空へ飛んでいく


ハッと気づいたら底は空で

私は空を飛んでいる

ぷかぷかと空中に浮いて

下の世界を見ている

ふわふわとした浮遊感の中

自分が自分でなくなっていく

くじらはどこに行った?

私はひとりでに空に浮かんでいる

落ちる気はしない

こんなことができるなら最初からやってよ

チャリンコで通った道を上から眺める


しだいにみんながやってくる

こんな早々と長々といるのは私くらい

みんな退屈してくると

狭い教室から抜け出てくる

抜け出てきても

みんなはやることがいっぱい

部活やバイト、ご飯にカラオケ

悲しい夢を見ている子もいる

ぐっすり眠って夢を見ない子もいる

私はそれを眺めている


校庭の上

教室の外

今日の天気は曇りのち晴れ

日誌にきっとそう書かれるだろう

今日学校から抜け出した夢人の数なんて

そんなものを書く欄はない


日直が休み時間に黒板を消す

ポンポンはしない

あれ顔にかかるから

ガーっと黒板消しを掃除する機械の音

ガバーッと私は机の上から頭を起こす



「ちょっと、大丈夫?」


「空から落ちた」


「落ちる前に起きた?」


「いや海に沈んだ」


「ヤバ、パァンってなった?」


「ううん、ブクブクって真っ暗になって起きた、あービックリした溺れて死ぬかと思った」

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