第15話 ガンボ村の変化
私達は洞窟内にコボルトやゴーレムが残っていないか確認し、コボルトの死体を燃やしてから村へと帰った。
冒険者ギルドでは魔物の死体は持ち帰る時や緊急時を除き、魔物が寄ってこないように燃やして埋めるのが義務付けられているからな。
ちなみにコバルトゴーレムはアイテムボックスに入れてある。
「なんだこりゃ?!」
「嘘だろ……?」
私達が帰った先で見たものは、変わり果てたガンボ村の姿だった。
『ごしゅじーん、おかえりー』『ーーん!』『みてみてーすごいの作ったよー』『ーーん、ん』『かっこいいでしょー』『ーーん!』
ガンボ村を囲む“壁上”からピンとエメトの集団が手を振っている。
「城壁?」
「どちらかというと砦だな……」
『ピン兄もエメ兄も凄いでござる!』
私達がコボルト退治に行っていた数時間程の間に、ガンボ村の周りには、そこそこの高さがある石壁と堀が作られていたのだ。
「二人ともよく無事に帰ってきた」
「おかえり。コボルトは退治できたのか?」
近付いてみると、村の入口に村長さんと門番のジウロさんが立っており、私達を出迎えてくれた。
しかし、今はそれより聞きたいことがある。
「村長さん、報告……の前にこの壁がなんなのか教えてもらっていいか?」
「むっ? トンボ殿が従魔に指示を出して作らせたのではないのか?」
「えっ? ……あっ! 村の防備を固めてってそういう……」
ピンとエメトは私の出した『村の防備を固めて』という指示を、自分達なりに解釈した結果この壁と堀を作ったらしい。
ピンとエメトは普段から箱庭の管理で川を作ったり、山を作ったりしている。
つまり生粋の職人である。
そりゃあ、見張りとか見回りじゃなくて、壁を作ろうって発想になるか。
「いやぁ木の柵の外側にズラリと並んだ時は、何する気だって警戒したが。アースゴーレムがブロック作って、スライムがどんどん積み上げて壁と堀を同時に作っちまったんだ! しかもただ積んでいる様に見えて、しっかりくっついてるんだぜ!」
「うむ! しかも堀には近くの川から水まで通していただいた。水が川から出入りしているからその内、壁の上から釣りを楽しむ事もできるかもしれん。釣りきちサンペと呼ばれた儂の腕が鳴るわい!」
興奮気味に力説してくれたジウロさんと村長さん。
エメトの《土操作》で堀を掘った土でブロックを作って、ピンが《成分変換》で接着剤みたいになって、接着しながら積み上げたのか。
なんかギルド登録の時に、冗談半分で言った特技が真実味を帯びてきたな。
あと村長の名前ってサンペなの?
「それで壁ができていたのか。はじめは何事かと思ったぞ村長」
「これだけ立派な壁と堀があれば、次にコボルト共が来ても追い返せるぞ。今は入口に大きな扉を作るかどうか、ジウロと話し合っていたのだ」
ピンとエメトは木の柵を基準にして村を囲んだらしく、入口は木の柵でできた簡素な扉のままだった。
なんにせよ、迷惑そうにはなってなくてよかったよ。
「あー、とりあえず依頼の報告いいっすか、村長さん」
「おお、そうでしたなお願いします」
「はい、コボルト退治は無事完了。本来なら討伐証明としてコボルトの尻尾を切り取ってくるらしいけど、ザトシさんがいたんでそこは省きました」
「ええ、これだけの力を持った従魔を従えておるのです。信じましょう」
実際はコバルトゴーレムが出たりで大変だったけどな。
ってそうだコバルトといえば。
「村長さん、コボルトの中にコボルトアルケミストがいて、コバルトゴーレムを作っていたんだけど」
「なんと、コバルトゴーレム?! よく無事で……ああ成る程、追加報酬ですな? 確かにこれだけ立派な壁と堀を作り、コボルトだけでなくコバルトゴーレムも退治していただいたのですから当然ですな。時間は掛かるでしょうが必ずお支払いします。しかし、今すぐの支払いは待って頂けないでしょうか?」
「いやいや、金欠の村から追加報酬取るほどがめつくないから……違くて、コボルトの巣があった場所からミスリルが見つかったって話っす」
コボルトの殲滅確認の為に入った洞窟で、コバルトに変質される前のミスリルが見つかったのだ。
大量のつるはしも落ちていたので、コボルトは洞窟内で発掘作業をしていたと思われる。
つまり、あの洞窟には。
「ミスリルの鉱床が存在している」
「ミ、ミスリルの鉱床?!」
私がポーチからバスケットボールサイズのミスリル鉱を取り出して見せると、村長の目が驚愕に見開かれた。
帰りがけにザトシさんから聞いた話だと、魔法銀ことミスリルは、希少金属で高値で取引されているらしい。
鉄より硬く、羽根のように軽い、魔力の伝導率の良い金属。
そんな謳い文句ができるほどミスリルは良質な金属で、冒険者の武器防具、魔法の媒体、魔道具の部品と、幅広く使えるものらしい。
それなのに希少なんて、そりゃ高値がつくわ。
「あれをどうするかは村長さんや領主様次第だけど、ミスリルの鉱床が近くにある村なら、領主様も援助してくれるかもしれないし、この村がミスリルの産地になる可能性もある」
ザトシさんが言うには、ここの領主様は領民思いの人らしいから。
当面の税金の免除とか、採掘支援ぐらいしてくれるだろう。
コボルトに奪われた物は戻らないけど、新しくやり直すチャンスには変えられるはずだ。
私がそうであったように。
「村長。悪意ある冒険者なら、コボルトの仕業に見せかけて洞窟で俺を殺して、ミスリルの存在を隠したまま独り占め。なんてこともできただろうに……トンボさんは一言『よかったな』って言ってくれたんだぜ?」
「トンボ殿……ありがとうございます!」
「ぐっ、美談みたいに言われると恥ずかしいんだけど……」
そんな恐ろしい事考えつかなかっただけだし。
まぁ、考えついてもやらないけどさ。
「そうだ村長さん、退治したコバルトゴーレムは私が持ち帰ってもいいかな? 今マジックバックに入ってるんだけど」
「もちろんです! それと持ってきていただいたミスリル鉱石もそのままお持ちください」
村長さんはコバルトゴーレムだけでなく、サンプルとして持ち帰ったミスリル鉱石までくれるという。
「いいの?」
「鉱床があるのならその何倍ものミスリルが掘れましょう。それに採掘をしていない鉱床で採れた鉱石は発見者の物ですから、トンボ殿が持ち帰るのは当然の権利です」
そうなんだ。ならもらっておこう。
「報告は以上。問題なければ依頼達成のサインください」
「はい、わかりました。では今夜の寝床と夕食の用意をいたしますので、明日の朝には渡せるようにしましょう」
「あー、すんません。同居人に泊まりって伝えてないので、すぐに帰るつもりっす」
じゃないとまたセヨンが心配するからな。
今日中に帰れるようにコボルト退治にもさっさと行ったんだから。
「今からですと街に着く頃には門が閉まっているのでは?」
「うちの子なら間に合いますんで」
『頑張って走るでござる』
「そういえば、トンボ殿の従魔達は優秀でしたな。ではすぐにサインを書きましょう」
コタローが一吠えすると村長さんは納得してくれた。
依頼票を手に村長は一度自分の家に戻っていった。
「トンボさん、今回は色々世話になった。依頼を受けてくれたのがあんたでよかったよ」
「たまたま耳に届いただけだから。ザトシさんが村の事を思ってギルドで訴え続けなかったら、私は知らずに過ごしていたよ」
「それでも、その訴えを聞いてくれたのはトンボさんだ。本当にありがとう!」
ザトシさんが深々と私に向けて頭を下げてきた。
私はただ、届かなかった無念さを知ってるから、届いた限りは助けるだけ。
そこに正義感とか義務感なんてない。
それでも、お礼を言われると嬉しいものだ。
「村の皆もはじめは驚いていたけど、壁が完成した途端に安心した顔をしていたよ。うちのお袋なんて壁を拝んでたぜ?」
「そっちのお礼はピンとエメトに言ってくれ」
「それもそうか、チビ達よ村を代表して礼を言うぜ、ありがとうな! そっちの狼もはじめ槍を向けて悪かったな」
『ぼくほめられた!』『ーーん!』『許してやるでござる』
集まってきたピンとエメトの集団が、ジウロさんを取り囲みながら飛び跳ねて、偉そうに言いながらも尻尾を振りまくるコタローがその顔をベロベロ舐めはじめた。
「ぶわ! お、おい! 舐めんなぷっ!」
「はっはっは! よかったなジウロ、村の救世主達に気に入られたぞ!」
ザトシさんがおどけたように言って大笑いしはじめた。
二人のやりとりを見て、改めてこの依頼を受けてよかったと感じた。
少なくともこの人達が笑顔でいられるのなら、やった甲斐があったと言うものだ。
ジウロさんの顔がコタローのよだれでベトベトになった頃、村長さんが戻ってきた。
「お待たせしました。依頼達成のサイン書かせていただきました」
「ありがとございます。また何かあれば冒険者ギルドまで……」
「はい、トンボ殿を指名させていただきます」
依頼票を受け取り挨拶をする。
おお、なんかお得意様ができた気分。
こうしてみると、また討伐依頼を受けてもいいかなって思う。
「ピン、エメト、帰るから戻れー」
『『『はーい、じうろまたねー』』』『『『ーーん!』』』
ピンとエメトの分体がジウロさんに手を振り、挨拶しながらポーチの中に戻っていく。
トンボ玉を取り込んだオリジナル分体(分体なのにオリジナルとは変な表現だけど)は箱庭には戻らずポーチに収まるだけ。
「コタローもそろそろ行くぞ!」
『承知したでござる!』
コタローもジウロさんを舐めるのを止めて私の側で伏せの姿勢を取る。
私はその背に乗りザトシさん達に顔を向けた。
「また遊びに来るよ!」
「次は妻と娘も紹介しよう」
「トンボさんならいつでも歓迎するぜ!」
「コボルトの件並びに壁と堀、そしてミスリル鉱床の件、本当にありがとうございました。トンボ殿はこの村の救世主です」
「行くぞコタロー!」
私の言葉でコタローが走り出す。
ガンボ村はすぐに見えなくなった。
そういえば結局村の中には入ってないな。
良い人ばっかりだったし、次は時間を作って行くのもいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます