第7話 従魔のステータス


 冒険者ギルドを出た私は、薬草採取の為に森へ出る事に。




 街の門で門番に挨拶して、出来立てのカードを見せる。


 奇しくもこの前の門番と同じ人だった。




「はい問題なし! それにしても冒険者になったんだな。まぁマーダーグリズリーをやっつけちまうんなら、それが一番かもな」




 どうやら門番の方も私を覚えていたらしく、気さくな感じで話し掛けてくる。


 敬語もいらないそうなので、私も普段通りに話す事にした。




「安全第一でいくから薬草採取だけどな」


「はははっ、安全第一か! 門番長くやってると、行ったっきり帰って来ない冒険者もいるからな。それでいいさ。そういえば遠い国から来たらしいが、ギルドカードの使い方は知っているか?」




 門番はそう言って私の手にあるギルドカードを指差した。




「使い方? 身分証以外にも何かあんの?」


「やっぱり知らなかったか。ギルドカードを持って“ステータスオープン”って言ってみな」


「? ステータスオープン」




 私がそう言うと、ギルドカードの表面に文字が浮かび上がった。


 それは私のステータスだった。






○トンボ 人間・女 15歳




 職業・冒険者 (テイマー)




 スキル


 《壁魔法lv2》《従魔術lv1》《交渉術lv1》《精神耐性lv4》《状態異常無効》




 称号


 なし






 これがギルドカードに写ったステータスだ。




 スキルに《従魔術》と《交渉術》が追加されている。


 《従魔術》はピンとエメトをペットにしたからで、《交渉術》は昨日買い物した時に値切りまくっていたのが原因か。


 地味に《壁魔法》のレベルも上がってる。




 前に見た時にあった《魔法技能習得不可》とか、称号の《転生者》は、閲覧不可って付いていたから写らないみたいだ。


 これはありがたい。




「おお! ステータスが見れた!」


「はははっ、ギルドカードにはそんな機能もあるんだ。この国じゃ常識だから、ギルドでは説明がなかったんだろう」


「成る程、これは便利な機能だ。教えてくれてありがとう」


「いいってことよ。門は日が沈んだら閉める決まりだから、それまでに帰ってくるんだぞ? 気を付けてな!」


「おう、いってきます」






ーーー




 森に来た私は、風のよく吹く場所を探して歩いていた。


 なんでも薬草は風のよく吹く場所に群生しているらしい。


 というのも、薬草は魔草の一種だからだ。




 魔草というのは、一つの属性の魔力が濃い場所に生える植物が、突然変異して別の植物に変わったものを指している。


 薬草は普通の草が風の魔力の影響で変異したものだ。


 だから薬草は、風の魔力が濃い森によく生えるんだとか。


 そんな生態だから栽培は難しく、冒険者が取りに行く必要があるのだ。


 と、冒険者の依頼で簡単なのは何かと聞いた時に、セヨンが教えてくれた。




「ピンとエメトも、風が吹いている場所を見つけたら教えてくれ」


『まかせてー!』『ーーん!』




 二匹とも良い返事だ。




「それにしても、ギルドカードの所為で私の壁魔法『ステータスボード』がいらない子になっちゃったよな」




 どっちもステータスを見る事ができるもので、役割が被っているのだ。


 ステータスボードなら閲覧不可のスキルや称号も見れるけど、元々自分しか見れないものが見れてもなぁ。


 しかし、そこでふと疑問が浮かぶ。




 本当に自分のステータスしか見れないのか?




 検証してみようか。




「壁魔法『ステータスボード』」




 私は肩にいるピンを手に乗せて、虫眼鏡で観察するように、作り出したボードをピンに向けて覗き込んだ。






○ピンドット ウォーターエレメントスライム(分体)・無性 0歳




 職業・トンボの従魔




 スキル


 《水操作lv4》《火属性耐性lv2》《物理無効》《成分変換》《分体》




 称号


 《水の管理者》《箱庭の住人》






 覗き込んだ先に、ピンのステータスが写った。


 見れちまった。




 あれ? ウォーターエレメントスライム?


 スライムの正式名称ってそんななの?


 それとも水の管理者になったからか?


 うーん、後者っぽいな。




 しかもピンは生まれたばっかりなのに、《水操作》スキルが既にレベル4にまで上がっている。


 本体が箱庭で水の管理をしているから、分体にも影響がでているのかな?


 《成分変換》ってのはなんだ?




「なぁピン、《成分変換》ってどんなスキルかわかるか?」


『あのねー、“どく”とか“さん”になれるんだー』




 どく……毒! それに酸って……《成分変換》は身体の成分を別のものに変換するってことか?


 ピンって実は暗殺者タイプだったんだな。




「それ見せてもらってもいいか?」


『いいよー!』




 ピンは元気に返事をすると、体の一部を触手のように伸ばして近くの岩に触れた。




『えい!』




 岩に触れた部分を酸に変換したらしく、岩がジュワジュワと煙を吹き出しながら溶けていく。


 やがてピンの触手は岩を貫通して反対側に突き抜けた。


 ええー! マジかよ!




『やったー!』




 ピンは無邪気に喜んでいるが、これは恐ろしい力だ。


 しかも酸だけじゃなくて、別のものにもなれるんだろ?




『ーーん』


「ん? エメトも見てほしいのか?」


『ーーん!』


「いいぞ、見てやる」




 ピンの恐ろしさを目の当たりにしていると、エメトが自分も見てほしいと私にアピールしてきた。


 私はピンを肩に戻して、今度はエメトを手に乗せてステータスボードを向けた。






○エメト アースエレメントゴーレム(分体)・無性 0歳




 職業・トンボの従魔




 スキル


 《土操作lv4》《水属性耐性lv2》《物理無効》《怪力》《分体》




 称号


 《土の管理者》《箱庭の住人》






 エメトにもエレメントの文字がある。


 やっぱり管理者になったから変化したみたいだな。




 エメトの《土操作》も既にレベル4。


 箱庭の開拓は進んでいるだろうか?




 二匹とも《物理無効》があるけど、分体には核がないからか? 


 ぶっちゃけ水の塊と土の塊だからな。




「エメト、《怪力》ってどれぐらいの力が出る?」


『ーーん? ん!』




 私が質問すると、エメトは地面に飛び下りて先程ピンが穴を開けた岩に歩み寄った。岩は自販機位の大きさだ。


 その岩にエメトが抱きつくようにくっついた。




『ーーんんん!』


「……は?」




 エメトが気合いの入った念話を発した途端、エメトに押されて土を抉りながら岩が動いた。


 エメトは小さめのぬいぐるみサイズなのに、私より大きな岩を動かしたのだ。


 《怪力》ヤベー! エメトスゲー!




『ーーん』




 1メートルほど岩を動かしたエメトは満足そうに頷いた。




 あれ? 私の従魔強すぎ?


 なんか二匹ともとんでもないんですが。




 そして私のステータスボードが、他人のステータスを覗く事ができると確認できた。


 そして二匹のステータスを見て、その有用性に気付いた。




 ステータスを覗けるという事は、戦闘や交渉においてのアドバンテージを握れるという事だ。




 二匹のような《物理無効》を持っているのがわかっていれば、最初から魔法で攻撃できるし、称号や職業を見れば、相手が何者かも即座にわかるのだ。


 これは凄い魔法だ。




 ただ同時に、知られるとやっかいな魔法でもある。


 私自身が狙われる可能性もある。


 色々と利用できそうだからな。




 街にはメガネを掛けている人もいたから、伊達メガネを用意してレンズ部分にステータスボードを張れば、気付かれずに使えるか。




 街に戻ったらそれも用意しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る