最終話

雄一「…えっ?」


青い男「…それ、何処で気付いたんです?」


黒い男「マーラの言った…」


マーラ『…楯突くのに力を使っている…何故だ…?

そもそも貴様の唱えた祝詞のりとですら、では我には通用せん…!』


黒い男「あの言葉 "真逆"って言ってたのがな…

それって、マーラには効かない行動をしてたって事だ

つまり、祝詞を唱える際に意味を込めるが、その意味が我欲がよくに捕らわれていたとしたら、勿論もちろんマーラには効かない

その我欲とはつまり、! …そういった意思だったんじゃないかとオレは思ってる

それはマーラと同じ煩悩だ それじゃマーラは斃せない」


青い男「そうか…」


納得するが、心の中では白の男の価値がどんどん下がっていた。


黒い男「それと、中之が無事だった事」


青い男「…それが…何の関係が在るんです?」


黒い男「そもそも本人が顕現させていたのなら、その身を滅ぼす煩悩もろともオレがマーラをブッタ斬った時点で消滅してなきゃおかしい ところが何故か生き残ってた

それは、あくまで中之性欲が増幅させられただけで、増幅元マーラが居なくなれば元に戻るって言うなら、それは元凶が何処かにいるって事だ

昨日謝りたいとかで此処に来た時、座らせた椅子に不動の咒符を張り巡らしてた

結果は"アウト"だった

見事にしてたよ」


雄一「そんなところで…!」


自分の全く思いも付かない眼の付け所に驚愕してしまう。


青い男「そう…ですか」


ああ、そうか という、雄一とは違う、何故か、安堵した様な…納得した様な…そんなカンジだった。


青い男「でも…昨日おれのところにも連絡来ましたよ 話したいって」


黒い男「?! マジか…!」


珍しく驚きながらも身を乗り出し、聞いた。


青い男「ええ…謝罪って言ってましたけど… でも、いつもの様な覇気は確かに無かったですね…それでも言ってる事は相も変わらず傲慢でしたが…なんか、

『アイツ余計な事協会の人間に言ったんじゃねーか?』

とか…変な憶測言ってました」


憤りを込めつつも、告げ口の様でバツが悪く、申し訳なさそうにそう述べる。


雄一「それは…ヒドイ…」


黒い男「…はぁ~ん…そう…」


どうしようもねーな


そう思いながら答える。


黒い男「だが…多分もう無理だろう 何も出来ない あの人は…」


そう言って視線を逸らし、中空をながめる。


青い男「え…? どういう…」


黒い男「あの人の"傲慢"は祓ったからな …もう、今まで以上に"力"は出せない筈だ」


雄一「それって…? つまり?」


全く解らず疑問を口にする。


黒い男「…つまり、白の男あの人は、昔から"傲慢"を糧に"力"を得ていた それこそ、実家である四国に戻って、現状維持のバイアスが掛かり、自己愛が強くなり、閉鎖された環境が更に傲慢さを加速させた

だが、"傲慢"のバランスが崩れ、自身に"大罪"を顕現させてしまった… 度を超えた傲慢さが表面化したのも、その影響だろうと思う」


青い男「そして、その"大罪"が、にも伝播した…」


中之を思い出しつつ続ける。


黒い男「そういう事

そして半身も奪ってやった …あの人は、もうこれから何も出来ない

もうこれから"狩り"も出来ない "力"を使う事も出来ない ましてや調停なんて出来よう筈もない…」


淡々と、そして冷淡に言う。


雄一「『奢れる者は久しからず』…」


的を射た言葉だった。


黒い男「…自業自得だ もっと…昔に本人が気付いていれば良かったんだ」


そう、思う。


でも、


―無理だな―


と、思う。


そんな事が出来る人じゃない。


三度も裏切られたのだから。


もう、信じる事など、到底出来なかった。


雄一「あ、その…ここにある、、""ていうのは…?」


ノートPCの画面を指差しながら問う。


黒い男「七つの大罪では傲慢の象徴は孔雀だ その形でズッと白の男あの人の側にいたんだろうな」


雄一「ああ…! そういう…!」


そこまで話し終わると、タイミング良く雄一の携帯が鳴った。


携帯を確認し、二人に告げる。


雄一「…工場から助けた生存者の女性達は全員無事だそうです

クリストフ先生から連絡がありました 一部意識が未だ戻っていないのと、後日ケアが必要ですが、概ね無事です 手術も済んでます

あのアイドル三人組、『愛称TANHA_タンハーである弓島春香』も無事だそうです」


黒い男「…そうか」


少しだけ、安堵する。


人を、助けられた という事に。


それだけが、今回の充足感を得られた事だった。


雄一「あの… クリストフさんとはどんな関係なんですか?」


安堵のついでか、さっきの事があったからか、顔色を伺う様に思っていた疑問を問うてくる。


黒い男「ん? ああ…十四年前に一緒に闘ったんだ アイツはバチカンお抱えの魔術師でな、初めて会った時は、アイツ十四だったけかな …バチカンなのに魔術…禁忌だろ おまけにガキだし」


懐かしむ様に言う。


雄一「そうなんですか…?」


青い男「それは…おれも知らなかった」


二人のリアクションには驚きが混じっていた。


黒い男「あの後、バチカンに戻って、イギリス戻ってその後医学を学ぶっつってオックスフォード行って、日本戻ってきて…今じゃ医者とか… 解らないモンだな」


それは懐古だった。


雄一「そうだったんですね…」


青い男「へぇ~…」


黒い男「ま、そんなカンジだ 怪我に関しては、アイツのトコに行った方が良い」


雄一「わかりました」


青い男「了解です」


黒い男「それじゃ、今回は、こんな所か

二人とも、今日は以上だ」


そう言い、ノートPCを閉じ、立ち上がる。


青い男「あの…」


そう言って椅子から立ち上がる


黒い男「なんだ?」


珍しくも言い辛そうにしている様を視て、聞き返してしまう。


青い男「大丈夫なんですか…? その…一応…十年以上の付き合いの先輩だったんだし…おれはともかく…」


雄一「そうですよ…大丈夫ですか…?」


気遣いが解った。


叱責した後故あとゆえに気まずそうな緊張感が在ったが。


黒い男「ああ…問題は無い それに…白の男あの人は、もう何も出来ない あの人の今の"理力"じゃ、浄化や祓いの儀なんてもう無理だ

それに…オレは気にしてない

…というより、オレよりお前等は自分の心配をしろ」


とは言ってみるものの、その気遣いは有り難かった。


孤独ではないと感じさせてくれたから。


だが、今は自分よりもこの二人が心配だった。


言われた通り、自分達の事を心配せねばならない現状に、二人は、中々対応出来なかった。


重苦しい空気の中、会議は終わった。


夏が、やってこようとしていた。








―賢シラ振リテ邪ト変ジルモノ―



―完―






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