―第二話―

十九



―午後11時50分―


―裏 男坂前―


男坂を上ろうと階段の前まで来た途端、急激な地響きが起きた。


雄一「うわっ…!」


轟音と共に急に地面から触手の様なモノが現れ、男坂の階段を砕いた。


雄一「ぅうっ…! あぁ…コレじゃ進めない…!」


そう感じた時、何かが聞こえた気がした。

鐘の鳴る音だった。

しかもそれは、自分の服の中からする…


雄一「なんだ…? コレが…?」


それは、ポケットに入っていた利剣の欠片かけらから聞こえていた。


雄一「コレって…もしかすると…」


そう言って、女坂の方に目をくばせた。



―午後11時52分―


―女坂 利剣前―


崩れた利剣モニュメントの前に立ち、ポケットから取り出した"利剣の欠片"を見遣り。


雄一「コレ…だよな…?」


そう呟くと同時に欠片が輝く。


雄一「な…!? なに…?!」


眩しさに眼をおおそむける。

眼を見開いた時には、完全な利剣が在った。


雄一「え?! …は?! こん…!」


有り得ない出来事に軽くパニクる。

だが、そもそも此処数日の自分には不可思議な事ばかりだ。

しかし、そう思いはするが心は納得出来ない。

だって不可思議だもの!!!!

心の中でごちる。

意味の無いツッコミ。


??「…聴こえるか…! 誰か…!」


利剣から声と鐘の音が聴こえる。


雄一「!ハイ…! 聴こえます…! 誰ですか?!」


驚きつつも、反射的に反応してしまう。


??「我は矜羯羅童子こんがらどうじよ! そっちはどうなっている?!」


雄一「こん…?! ハイ?!」


見知らぬ言葉を聞き、困惑した音が出た。


矜羯羅「我が複製した利剣の欠片が、急に力を宿したものだから…お前は誰だ?」


雄一「え… あ、僕は多群雄一といいまして―…」


急に聞かれかしこまってしまった。


矜羯羅「! …お前が! ということは―…!」


その名を聞いた途端、警戒のこもった声が出た。


雄一「え?! イヤ、あの! 僕はどーにかしたいんですっ!」


その緊張感が伝わったのか、強張った返答をしてしまった。


矜羯羅「…何? では、お前は…」


雄一「イヤ…! それより僕、鐘鳴らしに行かなきゃならなくて…!」


矜羯羅「お…! そうか…! なら、


さらっと信じ、直ぐ様意識を切り替える。


雄一「コレを…?」


こんな欠片を? 何の効果が現れるやも解らず、半信半疑でその

手の中の薄く輝く"利剣の欠片"をに向けた。


矜羯羅「その"欠片"に不動明王様の"力"を注ぐ!」


その言葉と共に、手の中の"欠片"が輝き、宙に浮く。


雄一「ウソ…!」


何度も見慣れた筈の出来事、それでも驚きの声が出てしまう自分は普通なのだ。

感じながらもそう思ってしまう。


矜羯羅「ナウマク・サマンダ・バサラダン・カン遍く金剛尊に帰命致す!」


矜羯羅がそう唱えると、一層と欠片が輝き、そのまぶしさに眼を覆う。

眼を再び見開いた時には、金色こんじきに輝く、小さなが眼前に浮いていた。

何やら、小さな棒状のモノに巻き付いて動いている。


雄一「え…コレ…」


思わず拍子抜けた声が出る。

浮いているし、不可思議ではあるが、なんというか…マスコットの様だ。


矜羯羅「その御仁おんにと共に行くが良い 鐘は一度鳴らせば良い

恐らく邪魔が入るだろうが、お前を護って下さる」


雄一「え…御仁て…」


その敬称けいしょうに思わず驚き、返してしまう。

とてもこの小ちゃいのに、そんな力が在る様には視得みえない。

しかし、そんな戸惑うこちらの事情は無視し、矜羯羅が続ける。


矜羯羅「早く行け!新年を迎える前に鳴らさねばならん!」


雄一「え!あ、ハイハイ!」


かされ、その事を思い出し、意識を切り替え、鐘楼堂しょうろうどうへと走り出す。

一緒に付いてくる、この小さい龍の様なモノと。

ふと向かった時に、この生き物をどう呼べばいいか聞かないのを後悔した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る