第11話 ジョブ:新入部員(仮)
学校の旧校舎と七不思議は遥か昔から友達関係。
新校舎の特徴が生徒の賑わう活気あふれる場所なら、旧校舎の特徴は不気味さと懐かしさが佇む独特な雰囲気だろう。
「うおっ!」
小さな物音がする度に肩を震わせる。
幽霊の類を信じているわけでは無いが、怖くないかと聞かれれば別問題。
想定してない場所からの音には恐怖と驚きを覚えてしまう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」
クスっと笑い、栗色の三つ編みを揺らす少女、
天然童顔低身長巨乳娘という、詰めるだけ詰め込んだ彼女からの無慈悲な真実は時に心を抉る。
「こっちの校舎来るの初めてだから、あまり落ち着かなくて……」
チクタクチクタク心臓の音。
人気の無い廊下にボッチの声が木霊する。
「あぁ、そうですね。物置と文化部の部室が幾つか有るくらいですからね」
俺らが通う霧野高校の新校舎と旧校舎はコの字型に建設された。
生徒が旧校舎を訪れる理由は二つ。
一つ、学校祭などの行事に使用する物品を取りに来るとき。
一つ、旧校舎を根城とする文化部が部活動をするとき。
「あ、うちの部活は運動部じゃないですからね」
よって、一般生徒があまり立ち寄らない場所なのだ。
ボッチも例外ではない。
「一条君って、神奈さんといるか一人でいるかのどっちかですよね?」
「そうだな」
「独りの人って、こういう雰囲気の所が好きなんだと思っていました!」
彼女に悪意は無い。
純粋無垢な好奇心が言の葉を風に乗せて伝えているだけ。
決してボッチを偏見な目で見てなどいない。
「……俺はお化けとか苦手なんだ。旧校舎って言ったら、幽霊とか妖怪の棲み処としては定番だろ?」
「え!? そ、そうなんですか!?」
白川は急に周囲を見渡す。
首振りに釣られて巨大な双丘がブルンブルンッと波を生んだ。
思わず視線が誘導される。
「い、いや、この校舎にいるってのは聞いたことが無いが」
「あ、そうなんですか? もぅ、驚かさないくださいよ」
安心したのか、大きな深呼吸一つして再び歩き出す。
確かにこの学校の七不思議は聞いたことが無い。
入学してそろそろ二ヶ月。
情報通のリア充が学校の噂話について仕入れていてもおかしくない。
「さぁ、着きましたよ」
鼻を刺す木の香り。
白川は木目の荒い扉の前に立つ。
「ここが部室?」
「そうです!」
元気な声は俺の不安を取り除いてくれない。
中にどんな人がいるのか。
彼女はどんな部活に所属しているのか。
己が触れていい空間なのか。
「あ、最初に言っておきますね」
「ん?」
「部員の先輩なんですけど、ほんのちょっとだけ変人さん……じゃなくて、個性的な方がいらっしゃるので、心の準備だけはしておいてください」
カモフラージュした表現でも個性的。
彼女の脳内ではこれ以上の褒め言葉は見つける事が出来ない。
純粋さとは時に真実を残酷に伝えるものだ。
「準備は良いですか? では、一条君――」
メッキの剥がれたドアノブがゆっくりと回される。
示されるのは新世界への道。新たな関係に触れるための片道切符。
「私たちは貴方を歓迎します!」
また一歩、
戻る事が出来ないと知った上で。
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