第15話 旅立ちに、栄光あれ。
温かな午前の陽射しが道端の花を照らす。
可憐な桃色の花の横には、大きな影が3つ。
どっかり地面に座り込んだダンテたちは、ジュリオの広げた地図を見つめ、それぞれの『ついで』を整理していた。
ジュリオとハイリーは水を飲みながら。ダンテはネルプを頬張りながら。
それぞれリラックスした姿勢で話し込む。
「……てなわけで、かーちゃんのいる村はシエラート村って言ってな。西のちょっと山奥にある移民の村なんだ。100人もいないくらいの小さな集落でさ。100年に一度の大事な祭りが近々あるらしくて、かーちゃんが去年から手伝いに行ってるんだ」
地図の上をツンツンと指し示しながら、ジュリオはついでの目的地について説明した。
興味深そうに聞いていたハイリーが、子供のように瞳を輝かせる。
「お祭りですか!いいですねぇ!」
「まー、俺も詳しいことは知らんけど。神様に食べ物や踊りを納めたり、村を飾り付けたり、新しい巫女を発表したり、いろいろ催し物があるらしい」
「エルシーリアさんは料理の担当だっけ?」
「おう。つーかお前、未だにかーちゃんは名前呼びなんだな」
ダンテは肩をすくめて返事とした。
なにせ、ジュリオの母・エルシーリアは『おばさん』と呼ぶにはあまりにも若々しく、美しすぎる。
その艶やかな銀髪と華奢で可憐な姿から、かつて村に来た詩人は『涼風の妖精』という二つ名を授けた。本人は恥ずかしがっていたが。
そんな成人目前の息子を持つ『涼風の妖精』がいるシエラート村を地図上で突っつくダンテ。
「それにしても、なあ。もしかして結構遠いんじゃないか?シエラート村」
「もしかしなくても遠いぜ。シエラート村」
ジュリオが茶化して答える。
しかし、ダンテが文句の言葉を漏らす前に、彼の口はニヤリとつり上がった。
「そこで俺から提案だ。当初の予定だとグラース町からクレム町へ行くはずだったが、それをグラース町からシエラート村へ、そしてそのまま西に突っ切ってエクリアル町から空経由でお城へ参上するのはどうよ?」
「エクリアル町……空……ああ!
「ご名答~。エクリアル町といえば
「確かに竜は早いって聞いたことあるな」
ダンテも何度か、空を掻き分けて飛ぶ竜を見たことがある。
村に竜騎手が村に来たとなれば、男子たちはこぞって竜を見に行き、話を聞きに行ったものだ。
時に人類の敵として、時に友として、相棒として。知能も姿も様々な竜の存在は、村にいた頃から憧れていた。その大きな翼と硬質に輝く鱗には、何度も心トキメかされた。
そこでハッとしたダンテは、ジュリオの方を勢いよく振り向く。それに気がついたジュリオがグッと親指を立てた。
そうだ。竜に憧れない男子なんているわけがない。
この案なら効率よく移動できる『ついでに』竜に乗ることができる。
「いいな、その案……。すごくいいな!」
「なー、いいだろ?よし決まりっ」
突然乗り気になったダンテに驚いた様子のハイリーを置き去りにし、男子2人は軽快に拳を合わせた。
「よし!じゃー、最終確認な」
「経路としては、グラース町からシエラート村へ向かい、エクリアル町から竜で王都パドフルィ城へ向かうと」
「道中では『ついでに』マチルダさんの弟さんである、ロニーさんを捜索しますね。町中で聞き込みなどをしてみましょうか」
「で、シエラート村に『ついでに』寄って。かーちゃんに村のこと話して」
「竜で移動して、城で話すこと話した『ついでに』図書館で聖剣の手懸かりを探すと」
3人は互いに目を合わせ、頷きあった。
桃色の花に被さっていた大きな影はようやく立ち上がり、花はやっと陽射しを浴びることができた。
満足気に揺れる花を置いて、勇者一行はのんびりと歩み始める。
「では、ついでのついでに聖剣を私に……」
「あげないからね!?」
若者たちの悲鳴と笑い声が、暖かな栄光の旅路に木霊した。
勇者一行の旅はこれからだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます