11sec 立ち塞がるメイド騎士
「チコリスさまぁぁああああ!チコリスさまはご無事ですかぁ!!」
「ハニースっ!!!」
ハニースの呼びかけにチコリスが答える。
ハニースはチコリスをその視界に捉えるとすぐさま駆け付け、ウガルザードからチコリスをかばう位置に立ち塞がった。そこに至るまでの俊敏な動きは、先ほど廊下で出会った時とはまるで違いキビキビと洗練されていた。
「チコリスさまっ!お怪我はっ!?お怪我はありませんかっ!?」
「わたしは大丈夫よ、でもお父様とイットキが攻撃されて――。」
ハニースはチコリスの言葉を受けてさっと周囲を見渡すと、
「安心してください、チコリスさま。貴女様の敵はお付きの私が必ずや払って見せます。」
そう言って構えると、未だうめくウガルザードを睨みつけた。
ハニースは腰に差した剣は抜かず、代わりに手に小さな投擲用のナイフを数本握っている。さっきウガルザードを攻撃したのもあのナイフだろう。ハニースはナイフを構えたまま距離を測っているのかじりじりと距離を詰めていく。
カラァンと高い金属音が床を転がった。ウガルザードが手首に刺さったナイフを投げ捨てたらしい。
「まだ……、まだ動けるものがいたとは……。貴様、何者だ!メイド風情が私に傷をつけてタダで済むとは思っていまいなっ!!?」
「メイド風情とは失敬ですぅ。メイドを馬鹿にすると神罰が下りますよ。わたしはチコリス姫の護衛にして王国騎士団所属の騎士、ハニース・ブレンダ・ストリークス。」
「騎士だと・・?私がいない間に王国騎士団は子供まで団員にするようになっていたとは嘆かわしい。やはりこの国は任せてはおけない、チコリス姫を渡して頂こうか。」
ウガルザードは手首から流れる血を気にも留めずハニースへと手を向け、ハニースの圧力から逃げるよう徐々に後ろへ下がっていく。
十数秒もたっぷり睨み合った後、ハニースが手に持ったナイフを弾丸のように放ちウガルザードへ向かって駆けだした。
「はぁぁぁあああ!!」
気合の声と共にハニースはナイフの後を追うようにしてウガルザードへと一気に迫る。だがウガルザードは両の手に黒い光を宿し、素手のまま左手でナイフを弾くと右手を前に突き出し迎撃の構えを整える。互いの距離が一メートルを切った時その右手からイットキが二度も受けた黒い魔力弾が放たれ、ひらりと身をかわしたハニースの残像に突き刺さる。ハニースは弾と交差するようにウガルザードの右手の下に潜り込み、腰に吊るした鞘から腰だめに剣を抜き放ち、遠心力を乗せてウガルザードへ右切り払いを放った。
「せぇいやああああ!!」
だがハニースの渾身の剣撃は、ウガルザードがとっさに脱ぎ捨て盾に使った黒いローブを空しく切り裂く。
ローブを失ったウガルザードは床を転がるようにして必死に飛びのきハニースから再度距離を取るが、立ち上がった彼の顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
「ハッハッハッハ!!これさえあれば今のように近づくことはできんぞ!!この石は命の結晶!!呪いだけではなく、魔導士の魔力を増幅し通常では考えられない弾幕を張ることだってできる!!騎士ごっこに興じる娘子をひねることなど造作もない!!」
ウガルザードが高く掲げた左手にはいびつな形をした大きな黒水晶、先ほど床に落ちたはずの千人分の命を込めた呪いの石が握られていた。
(続)
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