24秒勇者 ~24秒で一日が終わる世界で時の勇者になりました。
中谷Φ(なかたにファイ)
1sec 少女チコリス
―――起きて、起きてってばっ!
――――――1秒
誰だよウルサイなー。お母さん?お姉ちゃん?あと5分…3分でいいから寝かせて・・・。
――――――2秒
―――今日の時間がなくなっちゃう!はやく起きてっ!
――――――3秒
「う、うーん・・・。」
早瀬一時(ハヤセイットキ)は、まだ半覚醒状態の体に目覚めの号令をかけ、重い腕で目をこする。
――――――5秒
何かがいつもと違う。まどろむ頭で感じた違和感で、イットキは雷に打たれたようにがばりと身を起こした。
――――――7秒
「ここ・・・、どこ・・・?」
イットキが目覚めた部屋は勝手知りたる自分の部屋ではない。
豪華な装飾の施された家具が所狭しと並べられた小さな部屋。はめ込み式の窓には美しいレースのカーテンがかかり、床に敷かれた柔らかい絨毯は、心地よい肌触りをイットキに伝えてくる。
そして、見覚えのない薄桃色の髪の少女がイットキのすぐそばに、ぺたんと座り込んでいた。
――――――10秒
目覚めたイットキを見てしばし呆然としていた彼女は気を取り戻すと、何かに追い立てられるかのような勢いで言った。
「お願い、時間がないのっ。貴方の名前を聞かせてっ。」
――――――15秒。
唐突に名前を聞いてきた少女は、切羽詰まっているのか頬を真っ赤に染め、何かにすがる様な、祈るような顔をしている。
かわいい女の子にそんな必死にお願いされては断れる男なんていやしない。
イットキは本能的に、あるいは脊髄反射的に、返事を返す。
「僕はイットキ。早瀬一時。」
――――――18秒。
「いっとき・・・、はやせいっとき・・・」
彼女は一文字一文字を確認するようにイットキの名前を繰り返す。
――――――20秒。
「ありがとう・・・、イットキさん。わたしはチコリス。貴方の名前は忘れない・・・、だからイットキ、貴方も忘れないで…。」
――――――22秒。
忘れるものか。こんな泣きそうな顔の少女を忘れることなんてできるはずがない…。
チコリス・・・チコリス・・・忘れないから泣かないで。
イットキは心の中で彼女の名を繰り返す。
――――――23秒。
目覚めたばかりなのに急激な眠りを感じる。とても起きていられない。
意識が遠のいていく中イットキは彼女の名を呼んだ。
「チコ・・・り・・・」
――――――24秒。
イットキの意識は闇の中へと溶けて行った。
(続く)
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