第2話 古い街

 友だちが夫婦が新婚旅行でイギリスに行ったんだけどさ、旅先で喧嘩したらしいの。ありがちだよね。旦那さん、拗ねちゃって。ホテルから出たくないって、いい歳こいてダダを捏ねるもんだから、友だちは面倒くさくなっちゃって、じゃあ一人で遊んでくるからって港に行ったんだって。そしたら、ちょうどアヴァロン行の船が出るところだっていうから、これが乗りかかった船かなんて思って、飛び乗ったんだって。

 肝心のアヴァロンまで行くには時間が足りなかったし、そもそも行きの船しか航路がないって船長さんが言ったもんだから、終着まで乗るのはさすがに止めにして、次の港で降りて戻ることにしたんだって。当てつけのつもりで、向こうに一泊くらいしたって、別に構わなかったなんて言ってたけど、本当にそんなことしちゃったら成田離婚だったよね。

 次の港っていうのが、なんて名前だったのかは忘れちゃったそうなんだけど、小さいけれどいい感じの島だったって。古い街で、それが正真正銘の古いまんま残ってたらしくって、鉄筋コンクリートなんて見当たらない。みんな継ぎの当たった、古めかしい、もう映画の衣装でしか見なくなっちゃったような装束で、本当に生活を送ってたらしくってさ。しかも別に観光戦略上のなんとかとか、保護区だから規制がだとか、そういうのじゃなくって、みんな自発的にそういう風にしてたんだって。感心しちゃうよね。

 イギリスって料理がマズいって言うけど、その街でごちそうになったスープは忘れられないくらい美味しかったって、友だちはうっとりしてた。やっぱり産業革命がダメだったんだ。産業革命がここまで届かなかったから、私たちは家でゆっくり料理ができるんだって、お食事処のお母さんが言ってたらしいよ。アヴァロンの王様の御威光が行き届いているから、なにも困ることなんてないし、私たちは幸せだよって。

 で、友だちなんだけど、なんだか安らいじゃったらしくって、いつか旦那とも来たいなって思ったら、喧嘩なんてどうでもよくなっちゃったらしくって、古い街のおかげさまで、あの人らも来週の木曜日で結婚三十周年だって。私も行ってみたいな。

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