22鱗目:プール!竜娘!

 むぅ……やっぱり違和感が……

 いや今の状態の方が普通なんだけど………この姿になってからずっとあったのが無くなったからなぁ…………


 ガタゴトと揺れる魔改造された荷台の中で、僕は灰色の髪の毛から少し飛び出している小さい角を触っていた。


「やっぱり気になる?」


「うん。ちょっと頭が軽すぎるというか……」


「仕方ないよー。片っぽで1.5キロとかあったんだから。でもあんまり触るのはやめとこうね?」


「はーい」


 触って生えかけてるのがポロッと行くのも嫌だしね。


 千紗お姉ちゃんに言われた通り、僕は角を触るのをやめる。

 そして1つ大きな欠伸をしてふと今どこに向かってるのか聞いてない事に気付く。


「千紗お姉ちゃん」


「ん?なーにー鈴ちゃん」


「なんの迷いもなく乗って来たけど、今僕達どこに行ってるの?また体育館?」


「んー体育館では無いねー。まぁ着いてからのお楽しみって事で。そうだなぁ、ちょっと早いけどこれからの時期的にはぴったりかな?」


「これからの時期?」


 今が確か6月序盤でしょ?

 何かイベント…………んー……そもそも僕自体イベントに疎いから何があるのか分からん。


 僕は真剣に何があるのだろうと顎に手を当てて首を傾げながら難しい顔をして考える。

 そしてそんな様子の僕を見て微笑ましげに千紗お姉ちゃんは笑顔を浮かべるのだった。


 ーーーーーーーーーー


「ねぇ千紗お姉ちゃん。それに叶田さん」


「なにー?鈴ちゃん」


「鈴香ちゃんどうかしたー?」


「えーっと、前にも1回こんなことあった気がするんだけど」


 トラックから降りた後、僕は別車両に居た叶田さんに目を隠され、千紗お姉ちゃんに手を引かれていた。


「んー?あー!歓迎会の時か!」


「懐かしいー。そういやあの時もこうやって私が手を引いてたね」


「懐かしいって……まだほんの1ヶ月ちょっとくらい前だよ千紗お姉ちゃん」


「それくらい色々あったって事だよ鈴香ちゃん!」


「そうそう!叶田ちゃんが言う通りだよ鈴ちゃん」


 まぁ確かに色々ありまくり過ぎて僕もはるか昔の事みたいに思いかけてたけどね。本当に色々あったもんなぁ…………


 なんとなく感慨深い思いに耽りながら目を隠されたまま暫く手を引っ張られていると、ようやく目的地に着いたらしく足を止めた千紗お姉ちゃんにぶつかってしまう。


「んむっ?!千紗お姉ちゃん着いたの?」


「着いたよー、それじゃあ叶田ちゃん」


「はーい!いくよぉ……さん、にぃー、いちっ、じゃんっ!」


 千紗お姉ちゃんの呼び掛けで叶田さんがカウントダウンを始め、掛け声と共に僕の目を覆ってた手がどかされる。

 眩しくて思わず閉じた目をゆっくりと開けるとそこには……


「ん……お?おぉ……おぉぉぉおーーー!」


 通常のサイズよりはるかに大きいプールが目の前に広がっていた。

 プールの水面がキラキラと光を反射してくる。そんな光景にウキウキとした気持ちが湧いてきた僕は────


「凄いでしょ鈴ちゃん!……鈴ちゃん?鈴ちゃん!?ストップストップ!せめて洋服は脱がなきゃ!」


「あ!だめだ!鈴香ちゃん馬鹿力過ぎて抑えれない!陣内くんにリーダー手伝って!」


「お、おう!お前らも来てくれ!」


 目をキラキラさせ鼻息荒く飛び込もうとした結果、この場に居た人全員に取っ組みつかれる。

 しかしそれでも僕を抑えきることが出来ず、皆でプールにドボンしたのだった。


 ーーーーーーーーーー


「という訳で鈴香が興奮のあまり暴走したが、今日はいつも文句一つ言わず検査だけでなく色々手伝ったりしてくれる鈴香の息抜きがメインだ」


 まさか僕の息抜きだったなんて……いや嬉しいけどね、嬉しいけどさ。このどデカいプール貸し切って水張るだけで一体いくらかかったんだろう……


 びしょ濡れながらもキチッと並んでいる僕達の前で、三浦先生は今日プールに来た目的をそう説明する。


「だが一応は鈴香の能力調査という名目だからな、ちょちょっと計測やら実験やらはやる。だが、その後は勿論お前らも自由時間だ!」


「「「「「おぉー!」」」」」


「そういう事だから、各自水着に着替える為に一旦解散!」


「んじゃ鈴香はこれだけどっかに付けてくれればいいから、後は好きに泳ぎまくっていいぞ」


「あ、はい分かりました。それでこれなんです?」


「マーカー」


「え?」


「マーカー」


「はい?」


「あそこに置いてある速度計で速度を図る為のマーカー」


「いや詳しい説明は要らないですけど…………あ!これがさっき言ってた名目のってやつですか」


 何となく三浦先生が何の為にマーカーやら速度計を用意したかを察した僕は、手に持たされたブレスレットの様なマーカーをマジマジと眺める。


「まぁそういう事だ、頼んだぞ」


「はーい」


「さて……」


「?」


 さて?


 三浦先生のさてという言葉に僕が首を傾げていると背後に2つの気配が近づいて来るのを感じる。

 そして次の瞬間──────


「それじゃあ天霧、叶田、後は任せた」


「「はーい♪」」


「んみゃっ?!ふ、ふたりとも?!あ……あれ?さっきと逆みたいな気が……ちょっと待って……千紗お姉ちゃん?叶田さん?ちょっ!あぁぁぁぁぁ………………」


 唐突に後ろから二人に腕を捕まれた僕は尻尾をピンッと立てて驚いた後、自分の状況を理解したものの、抵抗する間もなく僕は声だけを残して引きずられるように二人に連れていかれたのだった。

 そして数分後、僕は連れてこられた女子更衣室の端っこにて……


「さて、さっさと着替えちゃおっか」


「だねー」


 今僕は女の子だ、だからここにいるのは性別的に一切問題はない。ないんだけど………………


「いーよっ…………と」


「うわぁー……相変わらず大きいねぇ……」


「うるさいなぁ……私だって好きで大きい訳じゃないし」


「そこのお姉さん、ちょっとおじさんといい事しよか」


「あっ!ちょっと!まっ!こらっ!叶田ちゃん揉みしだかないでっ!」


 目の前でそういうのは辞めてもらえるかなぁ!?


 シャツだけやスカートだけを脱いだ半裸の状態でそんなやり取りをする二人を前に、僕はドキドキさせられていた。


 確かに検査の後女子更衣室で着替えてたよ?着替えてたけどさぁ!毎回誰も居ないから別段気にならなかっただけで他の人も一緒にってなると話が違うじゃん?!

 というか……


「持つものは持たざる者の気持ちなど分からぬのだよ!鈴香ちゃんもそう思うよね!?」


 やっぱり千紗お姉ちゃんのでっかいなぁ……いくつくらいあるんだろ。


「鈴香ちゃん?」


「鈴ちゃんどうかしたー?」


「はにゃっ?!な、なに!?ってわぁぁ!」


「うわわっ!鈴香ちゃんどうしたの!?」


「叶田さんこそ服!服着て!」


 ほぼ目の前まで来ていた下着姿の叶田さんを見て、僕は翼で自分を覆い顔を真っ赤にして服を着るように頼む。


「でも今からプールだよ?」


「あっ…………」


 そう言う叶田さんと千紗お姉ちゃんをよく見ると、下着だと思ってたのはどうやら水着だったようだった。多分だが着替えたというより、元から下に着て来たのだろう。


「後着替えてないのは鈴ちゃんだけだけど、大丈夫?」


「えっと、その…………誰かと一緒に着替えるのは………」


「でも女子更衣室で着替えるのって初めてじゃ………あ、もしかして今まで着替える時更衣室に誰も居なかった?」


 こくこくと僕が頷いてるのを翼の隙間から見ていたのか、叶田さんから考え込むような雰囲気を感じる。


「鈴香ちゃんももう慣れたものだと思ってたけどそれなら仕方ないね。でもまぁ…………」


「ふぇ?」


「鈴ちゃんも早い所お着替えしなきゃだから、ね?」


 ポンと肩に手を置かれ、僕はゆっくりと後ろを振り向く。

 するとそこにはどうやって後ろに回り込んだのか、物凄くいい笑顔を浮かべた千紗お姉ちゃんが立っていた。


 ーーーーーーーーーー


「うぅぅぅぅぅぅぅ……………………」


「いいよー!すっごい可愛いよ鈴ちゃんー!!」


「うんうん!あーもうそのモジモジしてるのがまたすっごい可愛いーー!!」


 うぅぅ……こんなのヒラヒラが着いてるだけで下着とほとんど変わらないじゃんかぁ…………

 なんで女の人はこれ着て平気で人前にでれるの?


 無事千紗お姉ちゃん達に服を脱がされ着替えさせられた僕は、若葉色の布地にリボンやフリルが着いた水着という、子供用のビキニ的な奴を着せられていた。

 そしてそんな様子の僕を見た千紗お姉ちゃんと叶田さんは、かわいいかわいいと大盛り上がりし、挙句の果てに写真まで撮ろうと────


「写真はだめっ!」


 千紗お姉ちゃんがいつの間にか取り出していたカメラを僕は奪い取り、千紗お姉ちゃんに強くダメと言う。


「えー!いいじゃん鈴ちゃん、お姉ちゃんとの思い出撮ろうよー!」


「ダメったらダメっ!」


「どうしてなの鈴香ちゃん?」


「か、叶田さんまで……えと…その………だっ……だって…その…………」


「「その?」」


「は…恥ずかしいし…………」


「「………………」」


「ちっ、千紗お姉ちゃん……?叶田さん……?」


 顔を真っ赤にして小さな声で何とか理由を言った僕は、千紗お姉ちゃん達が一言も喋らないのが不安になり、ちらっと目だけで二人をを見上げる。

 すると千紗お姉ちゃん達は…………


「「はぐぁっ!」」


 謎の断末魔を上げて床に倒れ込み、痙攣を起こした。


「千紗お姉ちゃん?!叶田さんも!?だっ、大丈夫?」


「大丈夫よ鈴ちゃん…………ちょっと可愛いを過剰摂取しちゃっただけで………………」


「可愛いを過剰摂取!?」


 なにそれ?!


「暫くすれば……復活するから……大丈夫…………」


「そ、そうなの……?よかった……」


 そもそも可愛いって過剰摂取になるものなの?


 僕はそんな疑問を浮かべつつも復活するならよかったとほっとしていた。


「さて鈴ちゃん!」


「復活はやっ!」


 ほっとしていたのもつかの間、まだ伸びてる叶田さんの横で千紗お姉ちゃんが元気よく立ち上がる。


「それはいつも鈴ちゃんといるからよ!というのは置いといてそろそろプール行きましょうか!」


「───!うんっ!いこっ!」


 色々あったがようやく千紗お姉ちゃんにプールに行くと言われ、僕はぱぁっと満面の笑みを浮かべる。

 そしてテンション高く元気よく、そして勢いも良く返事をすると2人が水着の上に羽織ってる服の裾をつかみ───


「あっ、鈴ちゃ────」


「ちょっとまだウチ復活して────」


「レッツゴー!」


「「あぁぁぁぁぁぁ……」」


 更衣室に来る時とは真逆の状態でプールへと走って行ったのだった。

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