蟹のいる日常『夏じゃないみたいな蟹』

「夏が夏じゃないよ」

「何言ってるんだお前」

「だから~、夏なのに夏じゃないみたいな感じするってこと。いつもなら梅雨だぞ~!? おかしいよ」

「蟹も普通の感性持ってるんだな」

「え!」

 蟹がびっくりしたかのように目をぱちぱちさせる。いやぱちぱちしてるよ怖っ。

「普通の感性に合わせてあげてるんだけど」

「ああ、蟹ならそう言うと思った」

「そうでしょそうでしょ~。えへへへへ」

「褒めてないんだが」

「褒めてないの!? 普通の感性嫌!?」

「テレビみたいで嫌」

「じゃあ戻すか~。雨が無いと川が枯れるからいやだよね! 僕たち蟹としては困ってしまうよ」

「俺は別に……」

「じゃあ合わせるか~。雨があってもなくても僕たちは万年部屋の中だし、ぶっちゃけ関係無いよね」

「いや……作物作る人とかが困るだろ。ひいては俺たちの食い物の値上げに繋がるんだから」

 蟹ははにこ! と笑う。

「よくできました」

「えっ」

「そういう満点回答をきみは求められてきたんだね。……僕といるときぐらい正直に生きていいんだよ」

 優しい声。

「ダメだろ。何でも正直に言ってたら駄目な奴になってしまう」

「真面目だねえ」

「真面目だよ。だから生きにくい」

「古語~ネットで馬鹿にされるやつ」

「やめろちくちく言葉~」

「ちくちく!」

「ぐわー!」

「ふふ」

「何だこのやり取り」

「蟹と同居人のやり取りで~す」

「……ふふ」

「ふふふ!」

 そうやって、今日も更けてゆく。

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