蟹のいる日常『終わらぬ夏』
無限に同じ「ひと夏」が繰り返される日常、それを僕は地獄だと思った。それでもいいと君は言う。
なぜなら「君」は「僕」だからさ――
◆
「もしかして」
「ループしてるのか」
「してないよー物語の中じゃあるまいし」
「なんだよ蟹、驚かすなよ……」
「でも同じ夏が繰り返されはしてるね」
「なあ毎度思うがこういうのってなんで毎回夏なんだ」
「エモいからでしょ」
「エモいから……」
「だって君、今この夏楽しいって思ってるでしょ?」
◆
「楽しい夏なんてあったかなぁ」
「蟹なのに?」
「蟹がみんなハッピーなお祭り蟹とは限らないでしょ、ダウナーな蟹だっているんだよ」
「そうか」
「僕はダウナーな方」
「そうか……」
「ダウナーな蟹は一緒に絶望してしまうってよく言われたよ……」
「大丈夫だって、な、俺がいるから」
「うん……」
◆
「一度だからこそ美しい」
「なんだ蟹いきなり」
「ループしてる僕らを鑑みて世界に抗議してるんだよ」
「抗議したところでどうなる」
「考えを変えてくれるかもしれないでしょ!」
「馬鹿お前そんな」
「わかんないよ蟹だって世界みたいなものだもん!」
「そうなの?」
「そうだよぉ」
「マジか……」
◆
「蟹ぃ俺はお前が世界で一番……」
「あー酔っちゃって恥ずかしいことばっか言ってる」
「世界で一番蟹……」
「えっ」
「そういう扱いしてる……」
「えっ意味わかんない」
「蟹ぃ俺はお前が……」
「ちょっと!」
◆
「ねー世界で一番蟹って何?」
「何ってお前、そんなこと聞くお前が何だよ」
「この前君が言ってたんだよ!」
「えっ俺そんなこと言ってたか? 全く思い出せない……」
「あーこれだから全く人間は困るね……」
「超越者みたいな物言いやめろよ」
「だって概念だもーん」
◆
「無限に同じ夏が続くならよお」
「何」
「いや、別にこの夏が永遠に続いたって俺はいいなーと思った」
「えっいいの」
「いいよ」
「じゃあもう、無理して抜ける必要もないんだね……」
「無理して抜けようとしてたの?」
「してたよ、僕はダウナー蟹だから」
「それ関係ある?」
「あるよぉ! ダウナー蟹は無駄に頑張るんだよ」
「気付いてやれずすまない」
「急に真面目になるのやめて」
「ま、とりあえず冷やしうどんでも食おうぜ」
「……そうだね」
夏は終わらない。
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