蟹のいる日常3『ハッピー蟹ウィン』

「ハッピーハロウィン!」

「え?」

「ハロウィンだよハロウィン」

「テンション高いな」

 ハサミを振りながらはしゃぐ蟹を前に男はため息をつく。

「楽しみだったんでしょ?」

「なんでわかる……」

「なんてったって僕は君の蟹だからね! 蟹はパートナーのことは何でもわかるんだよ!」

「プライバシーはないのか……」

「あるよ、知られたくないことはわからない。でも君は……誰かとハロウィンをしたかったんだろう?」

「む」

 男は一寸沈黙をした。

「大丈夫、今年のハロウィンは僕がいるからね。仮装でもお菓子でも何でもありさ!」

「仮装なんて用意してないぞ」

「ここに蟹版ヴァンパイアなりきりセットがありまーす」

「蟹版?」

「まあ、普通のヴァンパイアなりきりセットなんですけどね」

「あ、そう……」

「人間の分も蟹の分もセットであるってこと」

「へえ……」

「蟹が生け贄役ね」

「!?」

「ヴァンパイアといえば生け贄の人間とセットでしょ。それを蟹がやるっていう倒錯したシチュエーションがなんたらかんたら」

「いや意味がわからない」

「まあ着て着て」

「めんどくさい……」

「じゃあ、ほい」

 蟹がハサミを振ると、ぽんという音を立てて男の服がヴァンパイア風のものに変わった。

「えっどういう」

「蟹パワー」

「こんなところで使うなよ」

「どうせ使うんなら楽しいことに使いたいでしょお~」

「それはそうだが……」

 よいしょよいしょとなりきりセットを着る蟹。

「自分の着替えはパワー使わないのか」

「気分」

「気分か……」

 蟹はすぐに着替え終わり、いつの間にやらテーブルの上に用意されていたお菓子のバスケットを持ち、さあ行こうと男を誘った。

「どこに?」

「蟹神社」

「へえ……」

「蟹パワーでドアトゥードアだから」

「マジか……」

 るんるんと蟹が先行し、ゆっくりと、だが少し軽めの足取りで男が後を追う。

 その姿がドアに消え、

 室内を月明かりが照らす。

 今日はハロウィン。

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