140字蟹5 いつもの彼女と思いたかった
あの時見た彼女は壁に沿って歩きながらうわ言のように蟹……と呟いていた。その顔があまりにも鬼気迫っていたので声をかけることができなかったのだけれど、次の日学校で会った彼女にそんな雰囲気は欠片もなくただ普通。
「おいしいクレープ屋さん見つけたんだけどさ」
なんて言ってきて、
「マジ? 行きたいね」
って返す。
普通だ。私と彼女のいつもの空気。
「昨日B8地区にいた?」
「いたけど」
「……見なかった?」
「何を」
「蟹」
ぞわり。私は思わずごめんちょっとトイレと言って廊下に出たけど廊下には
「蟹……」
「見つけた」
笑顔で蟹の大群に駆け込んだ彼女の体が小さくなり、変化して、
「蟹……」
ふらふらと家に帰ると今日のご飯は蟹チャーハンで、
「蟹……」
チャーハンはとてもおいしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます