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「私もご一緒する予定でしたけれど先月懐妊が分かりましたので取り止めましたの。

 …もしかして陛下ご存知ありませんでした?」


 ルシウスから漂う不穏な空気に気が付きアンジェリカが怖々尋ねる。


 ルシウスは何も答えないが背後から何やらどす黒いモヤが溢れ出ていた。


 アンジェリカはあの義姉…と思いながら目線を逸らし空を見上げる。


「…あー陛下。

 あの2人なら大丈夫ですわよ。

 10年どうにもならなかった2人ですもの。

 今更どうこうなりませんわ。

 相手はあの天然馬鹿とフラグクラッシャーですわよ。」


「…分かってるよ。

 あの天然馬鹿っぷりとフラグの叩き折りっぷりは私が1番良く分かってるからね。」


 アンジェリカの慰めにルシウスは哀愁を漂わせながら答える。


 アンジェリカは地雷を踏み抜いてしまった事に気が付き何とか慰めようとするが言葉が出てこない。


 義姉のやらかしっぷりは噂には聞いているのだ。


 そのやらかしの最大の被害者はルシウスなのである。


 噂が事実ならもうドンマイとしか言えない。


「…あっああ陛下、私、聖女様とお茶会の約束がございますの!

 失礼致しますわね!」


 結局アンジェリカは逃げる事を選んだ。


 ルシウスも肩を落としながら返事を返し執務室に戻って行く。


 その背中に対し憐れみを覚えるほど悲しい背中であった。


 残された少年少女はその背中を黙って見送る。


「…なあ、王妃様と陛下って仲悪いのか?」


 1人の少年が冷めてしまった紅茶を口に含みながらポツリと呟いた。


 他の子供達は困った顔をしてお互い顔を見合わせていたが茶色いくせっ毛の少年が口を開く。


「父上は仲が悪いわけじゃないって言っていたよ。

 母上曰く『キャロルさんが手強すぎるだけ』らしい。」


「手強すぎる?」


「僕もよく分からないけど母上と王妃様は昔からの友人らしいから色々知ってるんじゃないかな。」


 少年の言葉にピンクゴールドの髪をした少女がおずおずと口を開いた。


「…私お母様に以前聞いたのだけれど、王妃様が結婚式の口付けの時に陛下にエルボーを叩き込んだって本当なのかしら。」


「…いやさすがにそれは無いだろ。」


「あっでもその話俺も聞いた事ある。

 何か教会内が物凄い空気になったって聞いた。」


 何人かの子供が自分も聞いた、自分もと声を上げる。


 結局少年少女達には王妃と国王が仲が良いのか悪いのかは分からなかった。

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