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「…そういえばまだみんなとは会ってないのか?

 もう10年だ。

 そろそろもう良いだろ?」


 レオンがポツリと呟く。


 キャロルは黙ったまま麦酒を煽った。


「今じゃ立場が違いますから。

 気にせず押し掛けてくるのはレオン位ですよ。」


「違うだろ。

 みんなに黙っていなくなるからだろ?

 俺だってこっそり着いて行ったから居場所知ってるだけだしみんなには言うなって言うし…。

 せめて殿下が目覚めるまででも居たら」


「一平民が殿下に会うわけにいかないでしょ?

 …それに私は殿下の味方でいると言いながらその立場を捨てたんです。

 合わせる顔なんてありませんよ。」


 一気に飲み干し新しく麦酒をジョッキに注ぐ。


「じゃあ何で立場を捨てたりなんか」


「…嫌だったんですよ。

 魔力が切り札と言われていたのに私は魔力を失い、けれど殿下なら情けをかけて私を婚約者にするでしょうから。

 それに魔力皆無の私の子供に魔力が無ければまた同じ事が起こってしまう。

 私はもうあんな物見たくなかった。

 それだけです。」


 キャロルの言葉にレオンが俯く。




 あの日キャロルの処罰はキャロルの望みも踏まえた結果平民に下り王宮から去る事だった。


 処罰というよりただただキャロルの要求を叶えてもらっただけではあったが、魔力を失いずっと禁術の呪いに苦しんでいたからと陛下の恩情のお陰だ。


 王宮を出て10年。


 キャロルは手頃な森に住み着き薬を街に卸して生活していた。


 ごく偶にレオンが来るだけで他は庭を駆けずり回っている毛玉しかいない。


 いつの間にか魔女なんて渾名がついていたが何にも縛られないこの生活がキャロルは嫌いではなかった。




「…キャロルは殿下の命を救ったって扱いになってる。

 キャロルさえ望めばいつでも殿下に会えるんだぞ?

 俺が連れて忍び込む事だって出来る。

 なあ少しで良いから会ってくれないか?」


「…レオンは毎回それ言いますよね。」


 キャロルが溜息を着きながら言うとレオンは視線を彷徨わせる。


「もう10年断ってるんですからいい加減諦めてくれません?

 生存確認ならレオンで充分でしょう。」


「…10年諦めない奴がいるから頼み続けてんだってば。」


 キャロルはギロリとレオンを睨む。


「…皆に私の場所漏らしたらもう二度とレオンにも会いませんからね?」


「そりゃ分かってるって。

 だから密偵にも口止めしてるしずっと黙ってるんじゃねえか。

 脅され過ぎて最近は慣れっ子だわ。」

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