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「…キャロルを怖がって屋敷のメイドに避けられだした時。


 塔に来て漸く仲良くしてくれるかもって期待したのに食事が扉の前に置かれるだけだった時。


 夜が怖くて朝まで震えてた時。


 1人が寂しくて動く植物を作った時。


 魔術師に魔力量を褒められて嬉しくてずっと魔術を練習した時。


 けど魔女なんて呼ばれて余計に避けられる様になった時。


 魔導具を作りながら魔術が暴発して死にかけながら1人で良いって決めた時。」




 ルシウスがキャロルをそっと抱き締める。






 キャロルの頬を何かが流れ落ちた。




 止めたくても止まらない。





 いく筋もの熱い水滴が頬を滑る。



「…私やレオンが初めて来て戸惑った事。



 初めての友達にどうしたら良いか分からなかった事。



 慣れてくると来ない日は何となく扉と時計を見てた事。



 過去から戻ってレオンに心配されて無視しながらも胸が傷んでた事。



 私が目を覚まさないって聞いて夜に何度も私の部屋に行こうとして躊躇ってた事。


 全部、全部見てた。」


 喉の奥が震えて嗚咽が漏れる。


 ダムが決壊したかの様にボロボロと涙が次から次へと溢れ出す。


 ルシウスは優しくキャロルの背中を撫でた。


「だから私はキャロルを助けたいと思ったんだ。

 キャロルの目から見た世界を一緒に見てもっと沢山の綺麗な物を見て欲しいと思えたんだよ。


 …ずっと生きていて欲しいってそう思った。」


 ルシウスはキャロルに顔を上げさせる。


 ボロボロと止まらない涙を指で拭う。


「だからかな。

 こんな所でもキャロルの為に生きる事は苦痛じゃなかったんだよ。

 世界中を恨んでいた筈なのにキャロルに1番近い場所でキャロルの味方でいられる事に私は自分の存在する意味を見つけられたんだ。

 私が生きている事を許された様な気がした。

 …ありがとうキャロル。」


 キャロルはぶんぶんと首を横に振る。


 お礼を言うのは自分だ。




 ーずっと守ってくれてありがとうと。


 ー過去も現在もずっと味方でいてくれてありがとうと。



 なのに言葉が出てこない。


 嗚咽まじりの言葉にならない声しか紡ぐ事が出来ないのだ。


 ルシウスがポンポンとキャロルの頭を撫でる。


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