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 まあ正直妹の気持ちだって分からん訳ではないのだ。


 入学式なのに空は生憎の雨模様。


 もし水が跳ねたりしたらこの真っ白な制服はさぞ目立つ事であろう。


 おろしたての制服を汚したくない気持ちは理解出来る。


 キャロルはチラリと妹に目をやった。


 皆の歩いて欲しいという圧力は感じているのであろう。


 ブスッとしながらもいじけた子供の様な顔をしている。


 キャロルは小さく溜息をついた。


「…アンジェリカ様。」


「…何です?」


「ちょっと失礼しますね。」


 キャロルがアンジェリカの足に手を翳すと何事かと怯えた表情をした。


 そんな無闇矢鱈に攻撃する趣味はない。


「…防水の魔術をかけました。

 効果は30分程ですが水を弾き汚れませんよ。」


「…。」


 黙って目を見開くアンジェリカにキャロルは手を差し出す。


「私、教室までの道が分からないんですよね。

 姉に教えて貰えません?」


 キャロルの言葉にアンジェリカは唇を噛み締めた。


 そして渋々と言った様にキャロルの手に自らの手を重ねる。


「…仕方ありませんわね。」


「ありがとうございます。

 では行きましょうか。」


 キャロルとアンジェリカが馬車から降りるとルシウス達も後に続く。


「では殿下、俺は馬車を止め次第追いかけますので。」


「うん。

 頼んだよリアム。」


 ルシウスの返事を聞くとリアムはパタンと馬車の扉を閉めた。


「…キャロル様、これ本当に水を弾くんでしょうね?」


「本当ですよ。

 何なら水溜まりに飛び込んで確かめたらいかがです?」


「しませんわよそんなはしたない事!

 …まあお礼を言っておきますわ。」


 アンジェリカはそう呟くと速足で前を歩くルシウスの元へ行ってしまう。


 あれが流行りのツンデレってやつだろうか。


 デレの割合が少な過ぎる様な気もするが。


「やっぱり俺思うんだ。」


「何をです?」


「ワインスト家って絶対変人しかいねえだろ。」


 レオンは相変わらず失礼だ。


 キャロルが軽く睨むがレオンはケラケラと笑っている。


「でも血が繋がってなくても変人ってすげえよな。

 ワインスト家に入ると自動的に変人になるのか?

 それとも変人がワインスト家に仲間入りするのか?」


「知りませんよそんな事。」


 キャロルはルシウスの腕をアグネス嬢と取り合いしている妹に視線を向ける。


「まあ妹が変人なのは同意ですが。」


「大丈夫だキャロル。

 変人レベルはお前の方がずば抜けてるぞ!」

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