157

「俺もハリー第二王子には1.2回しか会った事がないから分からないけど殿下ってぶっちゃけ実力的には規格外だろ?

 なんて言うか人間じゃないっつうの?

 だから実力でかなうわけがない。」


 キャロルはレオンの言葉に頷く。


 あの男を実力で超えろと言われても色々と無理難題に近いであろう。


 キャロルがハリー第二王子ならば確実にやさぐれる。


 実際キャロルも幼少期より王家並みの魔力量だなどと言われて調子に乗っていたが唯一得意な魔術でさえ奴に勝てる気がしない。


 キャロルだって何度も悔し涙を心の中で流したのだから。


「だから王妃様はこうやって殿下の功績をハリー第二王子の物にしてたまに発表するんだよ。

 普段はそうならないように報告書も俺達の誰かが直接提出しに行くんだが今回は皆バヌツスにいたろ?

 多分取られてハリー第二王子の名前で出されたんだろうな。

 しかもバヌツスは極東だから事実が届く可能性も低い。」


「今までもこんな事あったんですか?」


「あったあった。

 殿下が北の砦を防衛して帰って来たら既にハリー第二王子の手柄として凱旋パレードされてたり。

 殿下が新しい事業を発案して成功させたらハリー第二王子の手柄になってたとか、もう多種多様。」


「…それはそれは。」


 レオンは怒りが収まらないのかブツブツ言っているがキャロルはルシウスの顔を思い浮かべた。


 何度も殺されそうになり実力で自分を認めて貰う事も拒まれる。


 そしてどれだけ努力したとしても流れる血がそもそも認めて貰えない。


 それでも王太子として睡眠時間を削りながら執務をこなし、だが自分の死を幾人も望んでいる。


 実力で得た功績でさえ奪われる。


 とんだ悪夢だ。


 世界を恨みたくなっても仕方あるまい。


「…だから殺してなんて言ったのかな。」


 悪夢を終えるには目を醒ますしかない。


 その悪夢が現実ならば目を閉じるしかないのだ。


 キャロルは買った串焼きを1口齧る。


 やつがキャロルと街を歩いて串焼きを食べたりするのは楽しいと前に言ったのは毒殺を心配しなくて良いからなのかもしれない。


「ねえレオン。」


「ん?なんだ?」


「リアムと殿下に串焼き買って帰りましょうか。」


「おっそうだな!」


 キャロルには救うなんて高尚な事は出来ない。


 自分の事だって出来ていないのだから。


 ただ今日くらいは優しくしてやろうと串焼きを握りながら王宮を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る