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 カロンにまた船に乗せて貰い、馬を連れ地上に戻る。


 地上に出ると薄らと太陽が覗き夜明けを迎えていた。


 中では時間の感覚がなかったがいつの間にか朝になっていたらしい。


 焚き火を作りそれを皆で囲む。


「…なあ殿下。」


 レオンがルシウスに作って貰った鴨肉のシチューを食べながら口を開く。


「ん?

 なんだい?」


「これ見ろよ。」


 レオンが生ゴミを埋める為に掘った穴を指差す。


 その穴は底の方が薄ら色が変わっていた。


 土に水が滲んでいる?


 この枯れ果てた土地で?


 ルシウスも理解したのか優しく笑う。


「早く街に行って農作業を手伝わなくちゃね。

 申し訳ないけどみんなも協力してね?」


「もちろんですよ殿下。」


 リアムの返事にキャロルとレオンも共に頷いた。


 この死んだ土地が蘇るのだ。


 レオン達はきっと成功した。


 きっとこの街は必ず復活出来る。


「よし、じゃあ食事が終わったら街に行ってみようね。

 …みんなありがとう。

 もう少し手伝ってね。」


 ルシウスの言葉に3人は力強く頷いたのだった。





「アースクエイク。」


 地面に手を着き詠唱を唱える。


 本来は地震を起こし地面を割る術だが、揺れが起き始めた所で魔力量を調節し地面が隆起する程度に抑えた。


 目の前には一直線に畝が伸びている。


「はい皆さーん!

 籠に入った種を撒いて下さいねー!

 キャロル、次は隣頼むな!」


「了解です。」


 キャロルは今枯れ果てていた土地の畑作りを手伝っていた。


 顎から汗が滴り落ちる。


 朝からずっとこの作業だ。


 魔力の細かい調整しながらの作業は中々に骨が折れる。


 遺跡から急いで街に戻ると川に突然水が復活したとお祭り騒ぎになっていた。


 ルシウスがバヌツス領主の元へ行き、芽が出ないからと諦めていた穀物や野菜の種を受け取り住民を集めた。


 死にそうだった住民達も川に水が戻ったからか目に光が宿りしまい込んでいた農具を持ち寄り畑作りに精を出している。


 リアムは湧き出した井戸から水を汲み出し住民とバケツリレーの要領で畑に水を撒いていた。


 ルシウスはバヌツス領主と共に生産の目処が立ち返済能力があるからという理由で、国庫からの貸付の申請をする様に指示を出す。


 バヌツス領主だと言うおじさんは川の水を見ては泣き、漁師が獲った魚を見ては泣き、ルシウスの出した書類を見ては泣きとどれだけ泣けるのかと思う程泣きっぱなしである。


 今まで本当に長い間苦労していたのだろう。


 まだ40代だと聞いたが皺や白髪でより老けて見える。


 その全てに苦労が滲み出ていた。


 今は服が汚れるのも構う事なく土を手で掘り湿った土を握り締めて背中を震わせている。


 作業中の住民が時々やって来ては領主の肩を叩き励まして去って行く。


 慕われていたのだとよく分かった。


 キャロルもチラリとその様子を見てからまた地面に手を着き魔力を流す。


 肩も腰も痛いが何故か心は軽い。


「はいキャロルお疲れ様。」


 ルシウスが魚肉の入ったスープを差し出している。


 今朝から魚も突然採れるようになった為大量に買取り農作業者の為の食事支援に回した様だ。


 牧草が育てばきっと次は動物達も飼えるようになるだろう。


 この街が復活する様子が目に見える様である。


 キャロルは魚の旨味が染みたスープを飲み干しまた地面に手を着けたのだった。

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