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「そもそも今夜は夜会が開かれるんだぞ?

 旅行よりもまずそっちに頭を回せ。」


「それは分かってるって。

 ちゃんと準備もしてあるから安心しろってば。」


 そうなのだ。


 今夜は年度終わりと言う事で婚約者候補のお披露目も兼ねて夜会が開かれるのである。


 領地に貴族連中が帰る前の今年度最後の夜会だ。


「そういやキャロルは兄ちゃんに許可貰えたのか?」


「大丈夫らしいですよ。

 だから3時過ぎには兄のメイド達が来てくれて着替えるみたいです。」


「あっそれなら良かったな!」


 選考会に追われていたキャロルに夜会の事を伝えられずレオンはキャロルの兄であるクリスにエスコートを頼んでもしダメなら自分がしようかと言ってくれていたのだ。


 正直に言うならば側近としてルシウスの傍に居なければならない為エスコートをするのは色々アウトだったのだが。


「ドレスなんかは殿下に手配して頂いたみたいで…。

 何から何まで申し訳ございません。」


「いや選考会で時間がないのは分かっていたからね。

 当然の事をしたまでだよ。」


 ルシウスがニッコリと微笑む。


 その笑顔の裏に何かが隠れているような気がしないでもないが素直に礼を述べるべきだろう。


 実際夜会の話を聞いた時には既に手遅れの時期だったのだから。


 週始めの時点で令嬢達が帰省したのもこの夜会の為の最後の準備という意味が大きいと聞いている。


 みんな気合いが入っているのだ。


「ダンスは1曲は必須だけど大丈夫か?

 ちゃんと覚えたか?」


「…まっなるようにしかなりませんよ。」


 リアムに何度か教えて貰ったがそもそも高いヒールを履いて動く事自体初めてだった為踊れるとは口が避けても言えない。



「キャロルが踊るのはワルツだし私がリードすれば問題ないよ。

 リアムは心配しすぎだよ?」


 ルシウスに苦笑いで言われリアムはいやしかし、と言葉を濁す。


 あれだけキャロルに踏まれれば言葉を濁すのも仕方がないと言えるだろう。


 リアムは身をもって経験したのである。


 逆に何故ルシウスが楽しそうなのかが分からない。


「ダンス終わったらさ、一緒にご飯食べようぜ!

 この夜会で出す料理も全部俺が決めたんだぞ!」


 レオンは次期宰相として任された夜会に自信があるのか胸を張っている。


 料理に1番こだわっていたと聞いているので色々と心配ではあるが。

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