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 うひゃひゃぐひゃひゃと2人は笑いながら夜の王都を歩く。


「おーいそろそろ子供は家帰れよ?」


「は~~い!」


 街の自警団に声をかけられるが2人は完全なる酔っ払いであった。


 千鳥足の手本とも言える足取りで王宮にえっちらおっちら辿り着く。


「あ~俺そう言えばキャロルの所に書類とか置きっぱなしだわ~。」


「そう言えばそうですね~ヒック。」


「もういっそ殿下のベッド借りちゃお~。」


「どうぞどうぞ。」


 枕投げでもするかと話ながら何とか塔のてっぺんまで帰って来る。


「お帰り二人共。」




 キャロルは開けた扉を無言で閉めた。


「レオン~。

 ダメですわ。

 部屋に魔物がいます。」


「え~まじで~?!

 ん~じゃあ俺のとこで枕投げするかあ?」


「そうですね~。」


 キャロルとレオンが引き返そうとすると背後で扉が開く音がした。


「何をしてるんだい?」


 酔いが回った頭を必死で回転させる。


 しかし全く回らない。


 だって完全なる酔っ払いなのだから。


「あれ~?

 殿下だあ。

 キャロル魔物と殿下見間違えたのか~?」


 確かに似てるとレオンがけたけた笑う。


 酔っ払いに怖い物などない。


「殿下~。

 ベッド貸して~。」


「…貸すわけないでしょ。」


「ケチ臭いなあ~。

 じゃあ俺クッションで寝るからキャロル毛布貸して~。」


「いいですよ~。」


 キャロルはチェストまで張っていき冬用の毛布を引っ張り出す。


「どうぞどうぞ~。」


「お泊まり会みたいで楽しいな~。」


「ですねえ~。

 あっ寝酒にもう1杯いきますか~?」


「おっサービスいいなキャロル~。」


 キャロルが事務机の横から酒瓶を2本取り出す。


 しかしあっという間に酒瓶が手から消え失せた。


「…消えた?」


「酔っ払いはさっさと寝なさい。」


 ゆっくり振り向くとルシウスが酒瓶を持って立っている。


「ケチケチすんなよな~。」


「そうだそうだ~。」


 レオンが文句を言いキャロルもそれに便乗した。


 ルシウスが無言でレオンにつかつかと近付いて行き何かを耳元で囁いた。


 レオンの真っ赤だった顔が真っ青になりあっという間に毛布を被って横になってしまう。


「おっおやすみ二人共~。」


「裏切り者…。」


 キャロルが呟くと今度はルシウスがキャロルの方にやって来る。


 ヤバいのは分かるが酔っ払いの足ではソファーが遠い。


 あわあわと張って進むが敢え無く捕獲されてしまう。

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