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 帰り道は呆気ない位何も起こらなかった。


 昨日までの3日間が嘘の様に街に辿り着く。


 ギルドで毒針の毒液の有無について多少揉めたりもしたが、計画通り3人共ブロンズに上がりテストさえ合格すればシルバーランクになれる程の得点も稼げた。


 マンティコアの犬歯も高値で買い取って貰えみんなで分けても静流の遺跡に余裕で行ける位の資金が手に入った。


 魔石も充分すぎる位手に入れた。


 馬屋に行って荷物を受け取り駅に向かう。


 …計画通りなのだ。


 完璧すぎる位計画通り。


 なのに何故心が弾まないんだろう。


 駅のホームで列車を待ちながら首を傾げる。




「なぁキャロル。」


 レオンに唐突に話しかけられる。


 …あぁそうだ。


 キャロと言う名前も終わったのだ。


「なんですか?」


「…すげえ楽しかったな。」


 ポツリと呟かれたその言葉がストンと胸に収まる。


 そうだ。


 自分は楽しかったのだ。


 終わるのが勿体ないと思ってしまう程に。


「…私も楽しかったです。」


 キャロルの返事にレオンがニカッと笑う。


「次はどうする?」


「…へ?」


「へ?じゃなくて。

 次は静流の遺跡行くんだろ?

 でも先にテスト受けてシルバーランクにしておくか?

 毎月1回しか試験日がないって言ってたし迷うよなー。」


「…一緒に行くんですか?」


「当たり前だろ!

 俺達パーティーだろ?

 あっこの際パーティー名決めちまうか!」


 今度こそナイトブラックドラゴンとかどうよ!とレオンが騒ぐ。


「んでさ、静流の遺跡の次はさ黒曜海の海底神殿とか行こうぜ!

 あーでも幻獣の森も捨て難いよなあ。」


 その言葉にじんわり胸が温かくなる。


 この感情を何と呼ぶのかは分からないが。


「私は黒龍が住んでるって噂のヘルト山に行ってみたいけどね。」


「殿下、ヘルト山はゴールドランクからしか入れませんよ。

 他の所でランク上げしてからにしましょう。」


 ルシウスとリアムも当たり前の様に話に混じってくる。


「そうなんだ?

 じゃあ静流の遺跡でも頑張らなきゃね。

 でもパーティー名はレオン以外で決めたいかな。」


「なんでだよ!」


「キャロル嬢も静流の遺跡の次の候補を探しとくんだぞ。

 あとまともなパーティー名も。」


「リアムまで言うか!」


 何となく3人の顔が見れなくて鞄の紐を握り締め下を向いた。


 次が楽しみだなんて生まれて初めての事だった。

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