36

「…なぁキャロ、ほんとに、ほんとーに大丈夫だよな?」


 次の日の日暮れ前レオンが顔を青ざめて震えていた。


「…多分。」


「多分じゃダメだからな?

 俺まだ死にたくないからな?」


「…頑張ります。」


 キャロルだって死にたくないがルシウスに告げられた作戦を思うと不安しかない。


 今キャロルはレオンを後ろに乗せ馬の手綱を握っていた。


 天敵のあの馬だったが今はもうこいつに命をかけるしかない。


 生きて終われたらリンゴをやろう。


 だから本気で気張ってくれ。


 馬も張り詰めた空気を感じたのか前方を睨み付けている。


 吐きそうな程の緊張感の中、遠くの空で鷹が鳴いた。


 開始の合図だ。


 覚悟を決めたのかレオンが吠える。


「お前に命預けたからな!

 行くぞキャロ!」


 キャロルは無言で頷き横腹を蹴ると馬をマンティコアの群れに向かって走らせた。


 頭の中にルシウスの言葉が響く。


(いいかい?

 マンティコアの群れに近付いたら最後尾に必ず1番小さいマンティコアがいるのが分かるはずだよ。)


 レオンが後ろで立ち上がる気配がした。


 ギリギリと音を立てて弓を引く。



(そのマンティコアの首の付け根に矢を撃つんだ。

 いいかいレオン、必ず一撃で仕留めるんだよ。)


 縄を括り付けられた矢が一直線にマンティコアの首に突き刺さった。


(そのままキャロは真っ直ぐ草原まで馬を飛ばすんだ。

 振り向かないで。)


 キャロルは前かがみになり馬に鞭を打ち込む。


 体中に枝が当たり頬を血が伝うが構わず走らせた。


 背後からマンティコアの怒号が聞こえる。


 振り向かずにただただ前へ馬を走らせる。


(マンティコアは群れの仲間、特に子供を大切にするから子供が引き摺られて行けば必ず追ってくるはずだから。)


 森を抜けるとレオンが再び立ち上がった。


 矢筒から新しい矢を取り出し再び構える。


(マンティコアは割と知能がある。

 隠れる場所のない草原に出たら罠を警戒して追いかけるのを一旦辞めようとするはずだ。)


 レオンが矢を放つ。


 先頭のマンティコアの右目に突き刺さった。


 マンティコアは吼えると怒り狂って突進してくる。


「キャロ!

 右から7本だ!」


「ウィンド!!!」


 キャロは振り返らず怒鳴るように詠唱を唱える。


「よし!

 次は左から10数本!」


 レオンの声に合わせてとにかく詠唱を唱え続ける。


 ー毒針が5秒以上途切れた時、それが合図だよ。


「キャロ!

 毒針が途切れた!!」


 ー後は死に物狂いで走るんだ。

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