第5話 致命的な弱点を発想の転換で補った小野寺勇吾の闘い方

「――さァ、一年生の部、一回戦第五試合が始まります。海音寺涼子リョウコ選手VS佐味寺さみでら二朗太ジロウタ選手との闘いが」


 ようやく気を取りなおした理子リコの実況に、試合会場が大歓声に湧き上がる。


「――優勝候補の双璧の一角と謳われるだけあって、この盛り上がりようは、もう一人の優勝候補が出場した第一試合に匹敵するものがあります。第四試合があまりにも盛り上がりに欠ける試合展開であっただけに、それが際立ちます。果たして、経歴や格式では同格の名門同士の対決はどちらに軍配が上がるか、これも必見です」

「――けっ、こっちの具体的な紹介はなしかよ」


 佐味寺二朗太ジロウタは吐き捨てるように不満をこぼす。


「――それもこれも、三郎太サブロウタがあんな無様な敗北を喫するから、こっちまで軽く見らるハメになっちまったんだ。まったく、不甲斐ない弟だぜ」

「――安心しろ。お前も不甲斐なく敗北するから」


 それを聞き取った海音寺涼子リョウコが、上から目線で宣言する。


「――なんだとっ?!」


 目をむく二朗太ジロウタに対して、涼子リョウコは侮蔑の眼差しで返す。


「――オトコがエラそうにふんぞり返る時代はもう終わりなんだよ。一周目時代や第二次幕末前の二周目時代までの歴史ではオトコが圧倒的にその名を残していたが、これからはちがう。オンナがオトコをひれ伏す女尊男卑の弱肉強食の時代が始まるんだ。このオレが先陣を切ることでな。それをこの武術トーナメントで証明してやるぜ」


 自信満々とはまさのこのことである。


「~~上等だ。てめェには浜崎寺のイジメを妨害した時の借りがあるからな。無手ではこっちの方の分が悪かったが、この得物なら分が悪いのはそっちの方だぜ」


 佐味寺二朗太ジロウタが憎悪にたぎらせた声で言い放つと、まだ青白色の穂を出してない光線槍レイ・スピアの端末孔を相手に向ける。

 それに対して、涼子リョウコは右手に持つ光線剣レイ・ソードをあらためて握りしめる。

 憎悪を込めるかのように、丹念に。


「――両者、おざなりながらも一礼すると、お互い異なる得物で構えます。佐味寺二朗太ジロウタ選手は中段で、海音寺涼子リョウコは――おっとォ、上段です。正眼ではありません。両手で光線剣レイ・ソードを持つ両腕を上げています。上段の構えです」


 理子リコが意表を突かれたような口調で実況する。


「――なめてますね。相手を」


 苦々しく解説したのは多田寺先生である。


「――剣術における上段の構えは、唐竹で攻撃する分には、振り上げる予備動作モーションが省けますので、その点では有利ですが、その代わり、それ以外の斬撃はできない上に隙だらけになるという、致命的な欠点を抱えた構えなのです。ゆえに、これは格段の実力差がなければ取れない構えなのです。ましてや、相手の得物がリーチ差のある槍では自殺行為に等しい。エリート士族の子女である海音寺選手が、この事を熟知していないはずがありません」

「――にも関わらず、海音寺選手はその構えを取った。彼女には自信があるのですよ。その構えでも槍相手に勝てる自信が」


 武野寺先生が自信を込めて断言する。


「~~ナメやがってェ~ッ」


 それを悟った二朗太ジロウタはうなり声を上げる。


(~~開始と同時にその隙だらけの胴体を貫いてやるぜ~~)


 殺人的な眼光でにらみながら、内心で決意する。

 ――そして、


「――始めっ!」


 審判が開始の合図を発する。

 と同時に、二朗太ジロウタ光線槍レイ・スピアを突き込む。

 無防備の相手に。

 出現した青白色の穂先が閃光となって涼子リョウコのみぞおちをつらぬく。

 ――よりも先に二朗太ジロウタが頭から床に叩き伏せられたっ!

 涼子リョウコが振り下ろした唐竹の斬撃によって。

 その青白色の刀身は相手の光線槍レイ・スピアなみに長かった。

 通常の長さではない、物干し竿のような長い刀身であった。


「……………………」


 二朗太ジロウタは白目を向いて痙攣している。

 気を失っているのは明らかであった。


「――ふん。口ほどにもねェぜ」


 涼子リョウコは鼻を鳴らして吐き捨てると、長大な青白い刀身を光線剣レイ・ソードの端末に収納し、倒れている相手に背を向ける。


「――それまで。勝者、海音寺涼子リョウコ選手」


 審判が勝者に手を声を上げた瞬間、試合会場に大歓声が沸き起こった。


「――なんという豪快な一撃でしょうかっ! 二朗太ジロウタ選手の光線槍レイ・スピアが海音寺選手の身体を突き通すよりも先に、刀身を通常の倍以上に伸ばして振り下ろした海音寺選手の光線剣レイ・ソードが、二朗太ジロウタ選手の脳天に直撃しましたァーッ! まさに、一撃必殺ですっ!」


 実況の理子リコが興奮に震えた声を上げる。


「――格段の実力差があればこその勝ち方です。これは――」


 ゲストの武野寺先生も、興奮を隠しきれない声調で解説するが、あまり具体的ではない。具体的に解説したのは多田寺先生である。


「――あそこまで光線剣レイ・ソードの刀身を伸長させ、且つ、一撃で相手を戦闘不能におちいらせるには、相当な精神エネルギーの量と、生半可な錬氣功では決してできない芸当です。その気になれば、光線槍レイ・スピアの刺突をはね返し、その衝撃で態勢を崩した隙に通常の剣の間合いに入り込むことだってできるでしょう。武野寺先生の言う通り、それだけの技量差があるのですから。槍と剣の性能差をものともしないほどの。むしろ、その方が効率的です。なのに、あえてそんな闘い方を選んだのは――」

「――誇示するためさ。オレの力を、ここにいる会場のヤツらに」


 と、海音寺涼子リョウコがつけ加えるように答える。控室に戻る途中のことである。


「――これまではオトコの膂力ちからの差を埋めるために技術を磨ざるを得なかったが、氣功術を会得した以上、そんなコセコセとした小手先の技術なんざもう要らねェ。錬氣功という氣功術の力でねじ伏せてやるぜ。オトコだろうがテメェだろうがなァ」


 最後のセリフは、控室の出入口の隣にたたずんでいる平崎院タエに対して言い捨てたものであった。

 涼子リョウコタエの傍と控室の出入口を通って室内に入った。

 両者とも終始視線を合わせぬまま。


「――錬氣功に氣功術のすべてを全振りしたというわけですか。わたくしとちがって――」


 タエのつぶやきは、むろん、涼子リョウコの耳には届かなかった。


「――フム、ニャかニャかやるニャ」


 傲然とした足取りで控室を歩く海音寺涼子リョウコを、猫田有芽ユメは遠巻きに眺めながらつぶやくが、あまり真面目に聴こえないのは、口調のせいだろうか。


「――なに上から目線で感心してるのよ。二回戦はあのオンナと闘わなければならないのよ。わかってるの、その現実」


 隣にいる鈴村アイが非難がましい目つきと口調で指摘する。


「――いやイヤ、その前に一回戦突破さえできるかどうかも怪しいやろが」


 さらにその隣にいる龍堂寺イサオが、 手を振ってツッコむ。


「――猫式武闘術かなんだか知らんやけど、そんなイロモノ武術、実戦で使えるわけあらへんやろが。ダメ元でネコパンチを教わった時点で中断して正解やったで。でないと、氣功術の会得すらままならへんかったわ」


 それを聞いた有芽ユメは憤慨する。


「――ニャにおォーっ! 猫式武闘術をバカにするニャ。ニャらば証明して見せるニャ。ネコパンチで相手を倒すことを」


 そして、二人の前で勝利宣言をする。


「――がんばってください。猫田さん」


 その横で、小野寺勇吾ユウゴが応援した。疑念や懸念も抱かずに。


「――さァ、一回戦第六試合、猫田有芽ユメVS佐味寺さみでら一朗太イチロウタの試合が始まります。両者開始線で対峙しております」


 理子リコが休むことなく実況する。


「――優勝候補の双璧には及ばないものの、鳴り物入りで武術トーナメントに参加した佐味寺三兄弟のうち、三男が浜崎寺ユイ選手に、次男が海音寺涼子リョウコ選手に、それぞれ敗北し、残るは長男となってしまいました。もしこれで猫田有芽ユメ選手に敗れるようなことになれば、佐味寺三兄弟はそろって一回戦で敗退することになります。しかも、一朗太イチロウタ選手の場合、平民相手に、です」

「――はっきり言って、名門が聞いてあきれますね」


 解説の晶が平然とこき下ろす。この三兄弟が、勇吾をイジメている例の女子三人組と同様、浜崎寺ユイをイジメている事実を知っている。ゆえに、そのユイに三兄弟の一人が負けたのは、大いに留飲を下げたものである。そして、もう一人も海音寺涼子リョウコに負けた。この上は、最後の一人も負けて欲しいものだと、内心で意地悪く思うのだった。


「――うるせェ、余計なお世話だ」


 佐味寺一朗太イチロウタは吐き捨てる。とはいえ、マジメな話、佐味寺家の長男として、この試合は絶対に負けられないのはたしかである。ましてや、相手が平民であればなおのこと。佐味寺家の一族は崖っぷちに追いつめられたといっても過言ではなかった。


「――構え」


 審判の指示にしたがい、一朗太イチロウタ光線槍レイ・スピアを中段に構える。

 それに対して、有芽ユメは素人目だと見慣れない独特の構えを取る。


「――空手でいうところの猫足立ちに似た構えですね」


 勇吾ユウゴが解説すると、


「――ちょっと待って。そういえば、猫田さんの武器はっ!?」


 アイが今更なことに気づく。


「――ちゃんと装備していますよ。両手の甲に、『光線爪レイ・クロー』を」


「――えっ!? そうなの? ユウちゃん」


「――光線剣レイ・ソード光線槍レイ・スピアと比較すると目立たない武器ですからね。光の爪を出さないと」

「――せやけど、リーチの長さじゃ、光線剣レイ・ソードよりも短いで。海音寺のように、通常よりも打撃部分を伸長させられるとは思えへんし」


 イサオが懸念をしめす。槍対爪は、過去の歴史をさかのぼっても滅多にお目にかかれない対戦構図ガードなので、どのくらいの比率の技量を要するかは皆目見当がつかないが、爪の方が有利でないのは、素人目でも明らかである。


「――始めっ!」


 審判が試合開始の号令をかけると、両者は同時にそれぞれの得物の端末から打撃部分となる青白色のそれを出現させる。


「――さァ、来るニャ」


 猫田有芽ユメは猫足立ちから色々な構えポーズを次々とせわしなく取りながら言い放つ。

 落ち着きがないとも言える。

 どの構えポーズも色々な動物に似せたものばかりだが、比率的にはネコのそれが半分を占めていた。

 両手の甲から三本の光爪が伸びているので、どれもおおげさに映る。


「~~ふざけやがってェ~ッ~~」


 それを見て、一朗太イチロウタは激怒のうなり声を上げる。


「――別にふざけてニャいニャ。大マジメニャ」


 有芽ユメは憤慨するが、


「~~その口調でしゃべっている時点でふざけてんだよっ!」


 もっともな理由なので、選手と観客の何人かはもっともらしくうなずく。もっとも、それで収まる猫田有芽ユメではない。


「――ニャによ、それっ! それじゃ、あたい自体がふざけた存在みたいじゃニャいかっ!」

「――だから最初っからそう言ってんだろうがっ!」


 うんざり気味の怒号を放った一朗太イチロウタは、それとともに光線槍レイ・スピアを相手に突き込む。これ以上は聞きたくはないと言わんばかりに。会話モードから不意打ち同然に戦闘モードへ移行したので、相手は対応できない――と思いきや、変な構えポーズから迅速に振るった光の爪で光線槍レイ・スピアを払いのける。


「――ちっ」


 一朗太イチロウタは払いのけられた光線槍レイ・スピアを元の中段に戻すと、次々とその刺突を相手に繰り出す。だが、今度は一撃も命中しない。変な構えポーズを次々と取りながら、その都度躱したり逸らしたりする。


「――おォーとっ! 猫田選手。一朗太イチロウタ選手の光線槍レイ・スピアの刺突をさばき続けます。それも、変な構えポーズで。はっきり言って、ふざけているようにしか見えませんが、なんだかんだで、たくみに凌いでいるとしかいいようがありません」


 理子リコが意外そうな口調で実況する。


「――だけど、凌ぐだけでは勝てないわ。このままでは捉まるのも時間の問題よ」


 武野寺先生がしかめっ面で解説するものの、


「――だから窺っているのよ。相手との距離を自分の間合いまで縮める隙を、冷静に」


 多田寺先生がつけ加えるようにそれを続ける。


「――くそっ! いい加減に――」


 一朗太イチロウタは苛立ちまぎれに言い捨てると、渾身の一突きを放つ。


「――今ニャッ!」


 それを見て、有芽ユメは相手の光線槍レイ・スピアの穂先に向かって突進する。

 大振りになる瞬間を待ってましたとばかりに。

 有芽ユメは青白色の穂を青白色の爪で跳ね上げると、突進の速度スピードを落とさずにやすやすと相手の懐に入り込む。むろん、この間合いでは槍は不利である。

 ――のだが、


「――甘いぜっ!」


 一朗太イチロウタが叫ぶと、跳ね上げられた光線槍レイ・スピアの勢いを殺さずに、むしろそれを利用して、そのまま穂とは反対の石突きの部分を相手の横っ面に叩き込む。

 ――前に光の爪で防がれてしまう。


「――どっちがニャ」


 有芽ユメはニヤリと笑う。

 一朗太イチロウタの目の前で。


「――喰らえ、猫式武道術――」


 と叫びながら、有芽ユメは鶴のように両手と右ひざを上げた変な構えポーズから、


「……ネコパンチか。ここで……」


 イサオが悄然とつぶやく。人間が繰り出すネコパンチは、はっきり言って、連打が利かないジャブみたいなのもので、到底実戦では使えない打撃である。当てたところでたいしたダメージは与えられないし、錬気功で膂力を上乗せしても、これもたいして攻撃力は上がらない。なので、有芽ユメは、


「――右上段前蹴りっ!」


 右ひざから跳ね上がった右足の上足底で、一朗太イチロウタのアゴを思いっきり跳ね上げた。そして、跳ね上げた右足を、そのままかかと落としに移行し、のけぞった一朗太イチロウタの顔面にたたき落す。さらに、顔面にたたき落した右かかとを右にずらし、相手の左肩にひっかけると、その態勢から左のサマーソルトキックでふたたび一朗太イチロウタのアゴを跳ね上げた。

 バク宙の要領で一回転して着地した有芽ユメは、休むことなくすかさず攻撃を繰り出す。前蹴り、回し蹴り、横蹴り、かかと落とし、後ろ回し蹴り、三日月蹴り、胴回し回転蹴り、などなど、多彩な蹴り技で相手をボコボコにする。

 そして、ついに一朗太イチロウタは背中から倒れた。

 トドメのネコパンチをもらって。

 そして、動く気配はなかった。


「――それまで、勝者、猫田有芽ユメ選手」


 審判がそのように判断すると、試合を終了させ、勝者の手を取って上げる。

 その直後、観客席から歓声が上がる。優勝候補の双璧とは異なる歓声が。その中に拍手の音が混じっていた。


「――なんということでしょうかっ! 猫田有芽ユメ選手の勝利です。出オチで敗退すると思いきや、フタを空けてみたら見事なまでの大圧勝。解説やゲストの先生たちも声がありません。これは思いもかけないダークホースの出現です」


 実況の理子リコは驚きと興奮を隠せない口調で事実を伝える。


「――どうニャ、ちゃんとネコパンチで倒したニャ」


 控室に戻った有芽ユメは、勇吾ユウゴイサオの前で誇らしげに少なめな胸をはって言ってのける。


「……い、いや、たしかにフィニッシュはネコパンチで倒れたけど、その前に色々な蹴りでHP《ヒットポイント》を一桁までけずったからやろが」


 イサオは得心と疑念に揺れた口調で補正を求める。


「――そうニャ。あの多彩な蹴り技も猫式武道術のひとつニャ」

「……ネコのイメージぶち壊しやで……」

「――でも、見事な闘いでした。もしかしたら、次の海音寺選手に勝てるかもしれません」


 イサオとは対照的に、勇吾ユウゴは手放しで絶賛する。


「――それじゃ、次はアタシの番ね」


 アイが勇ましい声と表情でこの場にいるみんなに言う。


「――見てなさい。大神十二巫女衆の筆頭巫女であるこのアタシが、ユウちゃんをイジメるあの三人組のリーダーに思い知らせてあげるわ。ありとあらゆる霊術を駆使して」


 それも、握り拳をつくって。


「……また発症したで。鈴村の中二病が。いい加減、妄想と現実の区別をつけろやって。何とかならへんのか、勇吾ユウゴ。幼馴染として」

「……ゴメンなさい。ボクでも無理です。色々と努力しましたけど、結局、治りませんでした。初めて会った時からこうでしたので……」

「……つまり、手遅れやと……」


 イサオの結論に、勇吾ユウゴはうなずく。


「……アイちゃんの実家は神社なので、そこに保管されている神話や伝承に触れた結果、今のアイちゃんになったのだと思います……」

「……人間、生まれる場所と親と育成環境は選べへんからのう……」


 イサオがしんみりとつぶやくと、アイが聞きとがめる。


「――なに最初からアタシの負けが決まっているような前提と雰囲気ムードで語ってるのよ。これからユウちゃんの仇を打とうと意気込んでいるっていうのに」

「……勝手に幼馴染を殺すなや……」

「――とにかく、行ってくるわ。アイツを倒しに――」

「――どうか無事に帰ってきてください。無理に倒さなくてもいいですから」

「――なに言ってるのよ。絶対にアイツを倒してやるわ。だから、アタシの凱旋を待っていなさい」


 ――こうして、鈴村アイは、憎っくき対戦相手の一ノ寺いちのじ恵美エミが待ち受ける一回戦第七試合に臨み――、

 ――見事に負けた。

 敗因も試合展開も保坂ノボルとほぼ同じであった。

 唯一の違いは、千鳥足ではなく、タンカで控室に運ばれて来たところである。


「――アイちゃんっ! 大丈夫ですかっ! しっかりして下さいっ!」


 それを見て、勇吾ユウゴは声を上げて駆け寄る。その左右では、医療班員が床に降ろした負傷者に復氣功をほどこしている。


「……ううっ、どうしてアタシの霊術が効かないの……」


 アイはタンカの上で疑問と疑念にうなされる。


「……意識が朦朧としとる状態でもまだ中二病が収まらへんとは、筋金入りやな」


 イサオが唖然とも感心ともつかぬ口調で感想を述べる。


「――現実逃避とも言えるニャ」


 有芽ユメが一刀両断にこき下ろす。むろん、イサオは否定しない。


「……でも、最後まで、あきらめずに、力を尽くして、闘った。それは、すごい、こと……」


 ユイが今にも力尽きそうな状態と口調で賞賛する。アイと同じく最後まであきらめずに力を尽くして闘った本人の言葉だから、説得力がある。ただ、結果だけが異なるので、それに欠ける部分があるが。


「……結局、一矢すら報えなかった。ユウちゃんをイジメる悪い女子なのに……」


 しかし、今しがたこぼしたアイのセリフは、無念の涙に満ちた、鮮明な意識の元でつぶやいたものであった。


「……アイちゃん……」


 それを感じ取った勇吾ユウゴは、そう言ったきりなにも言えなくなる。それは他のみんなも同様であった。


「――安心してください。僕、アイちゃんの分までがんばりますから」


 勇吾ユウゴが横たわる幼馴染に力強く宣言したのは、しばらく経ってからであった。

 その後、タイミングよく、一回戦第八試合の出場選手の入場を知らせるアナウンスが響いてきた。


「――それでは、行ってきます」


 立ち上がった勇吾は、これも力強い足取りで控室を出て行った。


「……………………」


 龍堂寺イサオ、猫田有芽ユメ、浜崎寺ユイの三人は、これも無言で見送ったが、


「――いいのか? これで」


 イサオが今更ながらな疑問を呈する。すでに勇吾ユウゴは試合場へ向かっているというのに、まったくもって今更である。


「――いいわけニャいニャ。雰囲気に呑まれて言えニャかっただけニャんだから」


 有芽ユメも強い口調で同意する。


「……でも、なんて、言ったら、いいの?」


 だが、ユイに本質的な問題を提起されると、二人はふたたび口を閉ざしてしまう。

 そう。一回戦を突破した三人は知っていた。

 小野寺勇吾ユウゴは、善戦むなしく敗北した鈴村アイにすら実戦訓練で負けるほどに弱い事実を。




「――さァ、七試合まで続いた一回戦も、これで最後になります」


 実況の理子リコが武術トーナメントの進捗状況を説明する。


「――小野寺勇吾ユウゴ選手VS三木寺みきでら由美ユミ選手です。両者、開始線の位置に着きました。この試合もまた、第二次幕末の動乱で武名を挙げた士族の家柄同士の対決ですが、解説やゲストのみなさん、この闘いはどういう展開になる、と、思い……ます……か……」


 理子リコのトーンが落ちたのは、語りかけたその全員が、これから始まる一回戦第八試合に関心を向けてない気配に感づいたからである。二階堂アキラはむっつりと、武野寺勝枝カツエ先生はそっぽを向いて、多田寺千鶴チヅ先生はうつむいたまま、それぞれ小倉理子リコの問いかけに応えようとしない。その理由は問いかけた本人もわかっているが、だからと言って仕事を放棄していい事由にはならないので、重ねて問いかける。問いかけられた三人も、それは承知しているので、答えないわけにはいかなかった。しかし、その口調は、個人差はあれど、どこか投げやりであった。


「――一撃で終わります。三木寺みきでら選手の刺突で」

「――小野寺選手はなす術もなくそれで倒されます」

「――残念ですが、これまでの試合の中では一番つまらないものになるでしょう」


 そして簡潔であった。


「……ど、どうしてですが?」


 理子リコも愚問を承知で、それでも、とまどいつつもうながす。


「――相手が少しでも接近しただけで萎縮して動けなくなるほどのビビリだからです」

「――これでは勝負になりません。それ以前の問題です」

「――言いたくはありませんが、いくら自由参加とはいえ、出場すべきではありませんでした。せめて保坂選手か鈴村選手レベルの心技体でないと、試合にならないでしょう」


 にべもない返答とはまさにこのことであった。これも個人差はあれど。


「……だよねェ。普通に考えれば……」


 実況と解説やゲストのやり取りを観客席の最前列から聞いていた観静リンは、やはりと言いたげに首肯する。鈴村アイが聞いていたら、激昂するに違いないだろうと思いながら。


「……『だよねェ』って、リン。小野寺クンに優勝を賭けておいて、そんな他人事みたいに言っちゃってていいの。もう取り消せないわよ。下村にあんなタンカを切っちゃったんだから」


 隣に座っている窪津院亜紀アキが、驚きと狼狽を混合した口調で、武術トーナメント開始前の出来事を喚起する。


「……大丈夫です。勇吾ユウゴならきっと優勝します。……たぶん……」

「……………………」


 それを聞いて、亜紀アキはなにも言えなくなる。完全に後の祭りだとさとって。


「――うーん……」


 その隣に座っている蓬莱院良樹ヨシキが、しきりに首をひねったりうなったりしている。


「――さっきからうるさいわね。なに考え込んでるのよ」


 亜紀アキが非難がましい目つきと詰問調で問いかける。


「……この光景、どこかで見たような気がするのだ」


 良樹ヨシキは首をひねったまま答える。


「――この光景? 両者がああやって対峙しているのが?」


 亜紀アキは重ねて問いただす。


「――うむ。そうだ。それも、一周目時代にあったガンアクションものの娯楽映画でた。勇吾ユウゴがそれを見てなにかを掴んたのようなのだが、それがなんなのか、思い出せそうで思い出せないのだ……」

「……ちょっと、良樹ヨシキ、アタマだいじょうぶ? エスパーダ装着しているのに、忘れちゃうなんて……」

「失敬なっ!? 忘れたのではない。思い出せないだけだ。その時の記憶を。エスパーダには脳内記憶の完全保存機能はあっても、脳内記憶検索強化機能までは実装されてないのだ。その機能は次世代機のエスパーダで近日試験的に実装される予定なのだ。そうであろう、観静女史」

「……え、ええ、まァ。ど忘れみたいに、覚えているのに思い出せないという事象ケースがままあるから、それでは意味がないということで……」


 話を振られたリンは困惑気味に肯定する。良樹ヨシキはふんぞり返る。


「――だから私の頭がおかしいわけでは、決してないぞ。誤解するなよ、元助手」

(……本当にそうかしら……)


 亜紀アキは内心で怪しむが、それを口に出して言ったら話がこじれる上にあさっての方角へ進みそうなので、


「――わかったわ。それじゃ、引き続き脳内記憶の検索作業に専念して。思い出したら、わたしたちにも教えて」


 という指示と要求にとどめた。

 その頃、試合場では、三木寺由美ユミが、眼前に立っている小野寺勇吾ユウゴに対して、罵倒や嘲笑を絶やさずに言い募っていた。


「――よくもまァ、格式のあるこの武術トーナメントに出場できたわね。実戦訓練ではあんな醜態をさらしたっていうのに。身のほど知らずも程があるわ」

「……それでも、僕は出場しなければならないのです。武術トーナメントで優勝するためにも、絶対に」

「……優勝? なにそれ、超ウける。マジで身のほどを知れよ、いい加減。アンタがアタシに勝てるわけねェだろ。イジメられっ子の分際で、生意気ナマ言ってんじゃねェよっ!」

「……ってみないとわかりませんよ」

「――そうかい。だったら思い知らせてやるわ。これ以上ないくらいの恥をこの場でかかせてやることでね」


 由美ユミが憎悪を込めて吐き捨てると、人差し指を立てた右腕を上げて、


「――一瞬でこの試合を終わらせてあげるわっ! アタシの勝利でっ! 相手が無様に瞬殺されるところを、よく目を凝らして見てなさいっ!」


 大声で会場中に宣言する。それを聞いた観客たちは、大いに盛り上がる。小野寺勇吾ユウゴの実力は、下村がA ・ S アストラル・スカイ・・ Nネットワークを介して配布した実戦訓練の見聞記録ログを見て知っているので、目に見えた勝負に対して完全にしらけ切っていたのだが、この宣言で会場は一転して興奮の坩堝るつぼと化した。勇吾ユウゴに対して下品やヤジまで飛ぶありあまだった。その内容は三木寺由美ユミが言ったことと大して変わらなかった。


「――へェ。やってくれるじゃねェか。闘う前から勝利宣言なんて」


 控室で観戦している海音寺涼子リョウコが、感嘆の声を上げる。本当ならこの試合を観戦するつもりなどまったくなかったのだが、その試合に出場する三木寺選手の豪語を聞いて、興味が湧いたのだ。本当に瞬殺できるのかどうかを。


「――自分の実力を最高のパフォーマンスで喧伝アピールするには最適うってつけな相手ですからね」


 隣にいる平崎院タエも感心を惜しまない。いずれにしても、優勝候補の双璧も、観客と同様、小野寺勇吾の敗北は、既成事実、確定事項として認識している。


「――おォーと。なんということでしょうか。三木寺選手、小野寺選手に対して瞬殺の勝利宣言をしました。はっきり言って、前代未聞です」


 実況の理子リコが興奮しきった声で言い切る。


「――そりゃそうでしょう。さっき試合場へ向かう途中、三木寺選手が襲い掛かるように近づいて見せたら、びっくりして尻餅をつく有様を見せたのですから。勝利を確信して当然でしょう。やはり、一朝一夕で克服できるものではありません。ビビリは」


 解説の武野寺先生が解説する。


「――試合前の行為としては明らかにマナー違反で感心しませんけどね」


 多田寺先生が眉間にしわを寄せてつけ加える。


「――両者、礼――」


 審判にうながされて、勇吾ユウゴは丁寧に頭を下げるが、三木寺由美ユミは汚物でも見るかのような目つきでたたずむだけでしたがわず、


「――構え――」


 それだけはしたがう。光線槍レイ・スピアを中段に構え、まだ出現していない青白色の穂先を相手に向ける。

 それに対して、勇吾ユウゴは構えるが、それは独特であった。やや前かがみの前屈立ちで、光線剣レイ・ソードを持つ右腕を水平に半ば突き出している。まるで片手横薙ぎの途中みたいな構えである。


「――変わった構えですねェ。これはいったいなにを意味するのでしょうか」


 理子リコがその理由をうながすような内容で実況するが、


「――どんな構えを取ろうと関係ありません。試合が開始されたら、なにもできずに終わります。さっきも言ったように、相手が少しでも近づいてきただけでビビッて動けなくなるのですから」

「――重ねて言いますが、これでは勝負になりません」

「――やはり出場するべきではありませんでした。何度も言いますが」


 解説もゲストの二人も同じ論調でそろって一蹴する。


「――大衆の前で見るも無残な大恥をかくことね。身のほどしらずにこの大会に参加した罰よ。でも安心しなさい。これからもアタシたちがそれをネタにたっぷりとかわいがってあげるから」


 三木寺由美ユミは舌なめずりするような口調で相手に告げる。


「……………………」


 それに対して、小野寺勇吾ユウゴは相手と正対したまま、無言で試合開始の合図を待つ。

 まるではやく始めてくれと言わんばかりに。


「……ダメだわ。ヘビに睨まれたカエルよ、これは……」


 亜紀アキが絶望につぶやきを漏らす。


「……ユウちゃん……」


 リンが自分の意志に寄らずちゃん付けでつぶやく。


「――あっ、思い出した」


 その時、良樹ヨシキが思わず口に出す。


「――ガンアクションものの娯楽映画であったこの光景を――」

「――ええっ?! こんな時に思い出したのォ!? なによ、それって――」


 どっちに集中していいのかわからず、亜紀アキは困惑する。

 そうこうしているうちに、


「――始めっ!」


 審判が試合開始の号令を発した。


「……………………」


 だが、両者は動く気配がまったくなかった。特に、三木寺由美ユミは瞬殺を宣言したのに、開始と同時に動かないのはなぜなのか。時間が経つにつれて、会場にどよめきの泡が立つ。


「……あ、あれ? 動きませんね。両者とも。いったい、何が……」


 しばらく経ってから理子リコが不思議そうに実況していると、両者のうち、片方に動きがあった。

 前のめりに倒れる形で、ドサリと。

 倒れたのは三木寺由美ユミであった。

 それを見届けた小野寺勇吾ユウゴは、構えを解いて直立する。


「――倒れましたよ」


 勇吾ユウゴに告げられた審判は、我に返ったように現状の把握に務めるが、自分でもなにが起こったのかまったく掴めていない。結局、倒れた三木寺由美ユミ選手に感覚同調フィーリングリンクして、生命徴候バイタル確認チェックした結果、戦闘続行が不可能な状態であることが判明する。そして、二人の副審を呼び寄せて審議し、それが終わった後、副審を元の位置に戻させると、


「……そ、それまで。勝者、小野寺勇吾ユウゴ選手」


 困惑気味に試合終了と勝者の名を挙げた。

 勇吾ユウゴは横たわっている三木寺由美ユミに一礼すると、踵を返して歩き出す。そして試合場を降り、そのまま控室へ戻って行った。


「……へ? 試合終了? 勝者、小野寺選手?」


 オウム返しに述べる理子リコの実況が、実況の態を成してない。むろん、理子リコもなにがなんだかわからない状態である。それは観客も同様で、立ちつつあったどよめきの泡が、これによっていっそう泡立つ。


「……ど、どういうこと? これ? どっちもなにもしてないのに、三木寺選手だけ勝手に倒れて、それで小野寺選手の勝利って……」

「……勝手に倒れたんじゃないわ。理子リコ……」


 いつの間にか席を立っていた解説のアキラが、声と全身を震わせて否定する。


「……倒されたんだ。小野寺選手の斬撃で……」


 ゲストの武野寺先生もアキラと似た状態でつけ加える。


「――斬撃って、そんなの、全然してなかったけど……」


 しかし、理子リコはきょとんとした表情で首を振る。


「……無理もないわ。普通の人間の動体視力じゃ、そうにしか見えないのも……」


 そう言ったゲストの多田寺先生にいたっては冷や汗までかいていた。


「……今からそれを映した私の見聞記録ログを、低速度スローモーション再生リプレイするから、会場のみなさんには、それにリンクするよう、大会運営スタップに指示して。私の動体視力なら捉えているから」

「……それでも、鮮明にはほど遠いけどね。けど、試合会場を映している人間カメラの動体視力よりかはマシなはずよ……」


 武野寺先生がまたつけ加えるが、その表情は親友や解説者と同様、戦慄にこわばっていた。腕には鳥肌まで立っている。


「……アンタもそれにリンクしなさい。肝心の実況がこれじゃ、仕事にならないからね」


 アキラが親友の理子リコに指示する。そして、ほどなく、


「……そ、それでは、さきほどの三木寺選手が倒れた場面の再生リプレイ低速度スローモーションで開始されます」


 多田寺先生の見聞記録ログにリンクした理子リコは、脳裏に映ったそれを凝視する。むろん、両眼は閉ざして。余計な視覚情報は脳内視聴の邪魔でしかない。


「――えっと、これは、審判が試合開始の合図をかける直前の視覚映像ですね。両者、それぞの得物で構えています。そして、始めと言――った瞬間、小野寺選手の右手から青白色の光が閃いた――ように見えます。そしてそれは、三木寺選手をすり抜け――たと思ったら、あっという間に消えてしまいました。その間、両者は微動だにしていないように見えますが、これはいったい……」

「……光線剣レイ・ソードの剣閃よ」


 解説のアキラが答える。


「……小野寺選手が開始線の相手にまで刀身を伸長させて繰り出した、横薙ぎの斬撃だわ……」


 武野寺先生が詳細を簡潔に説明する。


「……それも、目にも止まらぬ――いえ、目にすら映らぬ、超高速のね」


 それに多田寺先生が補足する。それが一番言いたいことだと言わんばかりに。


「……えっ、斬撃? あれが? 小野寺選手は、横薙ぎの途中みたいなあの構えから、まったく全身を動かしていないように見えましたが。予備動作モーションらしき予備動作モーションもありませんでしたけど」

「……そりゃそうよ、理子リコ。小野寺が動かしたのは、光線剣レイ・ソードを握る右手の手首だけだったんだから……」


 解説のアキラが冷や汗まじりに説明する。呼び捨てで呼称してしまったことに気づかぬほどに。


「……小野寺はその態勢から手首のスナップを利かせて横薙ぎの斬撃を放ったのよ。裏拳を打つ要領で」

「……その時、光線剣レイ・ソードの刀身を瞬間的に伸長させて相手の胴を払い、そして、これも瞬間的に伸縮させて収納した……」


 武野寺先生が補足すると、多々寺先生もそれに続く。


「……その斬撃の可動箇所が右手首だけの上に超高速だったから、なみの動体視力では、なにもしていないように映ったのよ。実際はまったく違うけどね」

「……要するに、超スゴいってわけですか。小野寺選手は……」


 理子リコはこれまでの説明を簡潔に要約する。


『……………………』


 三人の解説とゲストは沈黙しているが、肯定の沈黙なのは、明らかだった。それを悟った理子リコは、高熱を帯びた声を張り上げる。


「……な、なんということでしょうかっ! 瞬殺で敗退すると、誰もが思っていた小野寺選手が、逆に瞬殺宣言した相手を瞬殺して勝利してしまいましたっ! これぞ、瞬殺だと言わんばかりに。これはまるで――」

「――西部劇という開拓時代のアメリカ合衆国を舞台にした早撃ち対決と同じ光景だっ!」

 良樹ヨシキが声を上げる。ようやく思い出したことを口にするタイミングが確保できたのだった。


「……なるほどね。それで遺失技術ロストテクノロジー再現研究所に行って、その確認と研究をしたのね。よくそんな手を考えついたわ、勇吾ユウゴ。そして、それを実践してのけたのも……」


 リンが得心と驚嘆を混合した声をもらす。


「――どういうこと、リン?」


 亜紀アキがうながすように問いただす。


「――勇吾ユウゴは少しでも相手が接近して来ると、その迫力だけで動けなくなるほどのビビリ。その克服は、少なくても短期間では不可能。けど、逆に言えば、相手が接近して来なければ普通に動ける。ビビったりせずに。なら、相手が接近する前に倒してしまえばいい。つまり、瞬殺で――」

『……………………』


 良樹ヨシキ亜紀アキは唖然としたまま声も出ない。確かに、理屈は通っているが、


「……なんて男子なのよ。武術を競い合う大会で、そんな発想を持ち込み、実践してのけるなんて……」

「……早撃ちならぬ、早斬りだな、これは……」


 それぞれ絞りだすように感想を述べたのは、だいぶ後であった。その間、会場はこれ以上ないくらいに湧き上がっていた。


「……だから手首リストだけを重点的に鍛えていたのね。錬氣功もそこだけ集中的に発揮できるよう氣脈をこじ開けたのも。局所に集中させる分、全身よりも高い効果が望めるから」


 ――凛が得心と感心をないまぜた口調で独語した頃、控室に戻った勇吾ユウゴは、イサオユイ有芽ユメの三人に出迎えられた。


「――ごっつずごいやないか、小野寺っ! 惨敗すると思うてたら、あんな快勝をするやなんて」

「――イジメられっ子が、イジメっ子を、返り討ちにする。これほど、気持ちのいいことは、ない」

「――はっきり言って、全然見えニャかったニャッ!」


 驚愕と絶賛をもって。


「……あ、ありがとうございます」


 勇吾ユウゴはとまどいながらもそれに応える。


「――正直、試合ほんばんでもできるかどうか自信がなかったのですけど、できて良かったです」

「――小野寺の努力の賜物ニャ」

「――いえ、それだけではありません、猫田さん。あの早斬りができたのは、この光線剣レイ・ソードのおかげなのです」


 勇吾ユウゴはそれを差し出して前置きする。


「――光線剣レイ・ソードは従来の実体剣とちがって刀身の長さを調整することができますし、刀身に重量がない分、それよりも軽量です。九日前のイサオさんと平崎院さんの闘いを見て、従来の実体剣の常識に縛られていた僕は、そのことに気づき、優勝への活路を見出したのです」

「――そういや、おまいの実家は総合武術道場やったな」


 イサオの確認の質問に、勇吾ユウゴがうなずく。


「――そして、西部劇の決闘をヒントに、光線剣レイ・ソードならではの特性を最大限に活かしたのが、あの早斬りなのです」

「……な、なるほど……」


 ユイもうなずくが、顔色の悪い表情には得心と驚嘆が入り混じっていた。


「――ま、なんにせよ、勝ってよかったで。あのザマやから一回戦で惨敗するんやないと思うておったんやから」

「――心配してくれてありがとうございます、イサオさん」

「――この調子でがんばるんニャ」

「……そして、わたしたちと、闘いましょう……」


 一回戦を突破した四人の少年少女は、笑顔で喜びを分かち合う。


『……………………』


 しかし、それを遠巻きに眺めている四人の少女は、彼らと同じく一回戦を突破したにも関わらず、笑顔や喜びからほど遠い表情と目つきであった。




「――さァ、長かった一回戦もすべて終わり、二回戦が始まります。その第一試合、平崎院タエ選手VS龍堂寺イサオ選手。前者は圧倒的な実力で、後者は悪戦苦闘の末に、それぞれ一回戦を突破しました。ちなみに、一回戦で男女対決となった六試合のうち、五試合は女子が勝ち、男子が勝ったのはたった一試合です。ゲストの武野寺先生の予想通りに推移しています。なお、龍堂寺選手の一回戦の相手は同性の男子であったため、男女対決で勝利したわけではありませんので、悪しからずです」

「やかましいわ。要らん情報を公開すんなや、実況」


 試合場の開始線の前に立っているイサオは、実況席に座っている理子リコに対して苦情を申し立てる。


「――龍堂寺さん。事実を公開されたからって怒るのは大人気ないですわよ」


 しかし、反対側の開始線の前にたたずむタエに優しくたしなめられて、勲は不機嫌な顔ごと相手と正対する。


「――気にすんな。単なるツッコミやから。そうせずにはいられへん浪速ナニワのお笑い魂を真に受けるなや」

「――あら、そうなの。それは知らなかったわ。浪速の方って短気で怒りっぽいイメージが強いから」

「そら江戸っ子の方や。いっしょにすんな」


 イサオは即座に否定のツッコミを入れる。


「――そないなことより、おまいには巨大な借りがあるんや。今日こそ利子と熨斗のしつきで返したるさかい、覚悟せいや」

「――借りが膨らむだけだと思いますけど」


 と、タエは優雅に切り返す。


「――両者、互いに、礼。――構え――」


 審判の指示に、タエはこれも優雅に、イサオはやや雑に、それぞれしたがい、光線剣レイ・ソードを構える。


「――解説のアキラさんとゲストのお二方。この対決、どうなるでしょうか」

「――龍堂寺選手が圧倒的に不利ですね」


 アキラが率直に答えると、それに武野寺先生がその理由を説明する。


「――相手の鞭をかいくぐって接近戦に持ち込めても、平崎院選手には硬氣功があります。これがあるかぎり、決定的なダメージを与えることはできません」

「――となると、唯一の活路は封氣功しかありません。浜崎寺選手のような消耗戦が挑めるほど、体力スタミナや氣の量に自信がないのは、それが使えることを明かしてまで一回戦を早期に終わらせたそれが何よりの証左です。しかも、封氣功は相手に触れないかぎり、相手の氣功術を使えなくすることができません」


 多田寺先生がそれを引き継いだ後、武野寺先生が総括する。


「――いずれにしても、龍堂寺選手には接近戦しか勝機がありません。海音寺選手や小野寺選手のように刀身を伸長することができるとしても、やはり一度は相手の懐に飛び込ばなければなりません。平崎院選手は徹底して遠距離ロングレンジからの鞭撃で相手を寄せつけないでしょう。ましてや、相手が封氣功を使って来るのならなおさらです。展開的には、一回戦の向井寺むかいでら戦と酷似するかと思います」


 そして、結果もね、と内心でつけ加える。口に出さなかったのは、一回戦第八試合のような大番狂わせが起きる可能性も、わずかながら否定できないからである。あれだけ断言しておきながら、結果はあのありさまだったのに、ここで勝者予想を口に出してまたはずしたら、恥の上塗りもいいところなので、自制したのだ。


「――始めっ!」


 審判の試合開始の号令がかかると同時に、イサオ光線剣レイ・ソードの端末から青白い刀身を出現させ、相手に突進する。

 それに対して、平崎院タエも青白色の鞭を具現化させて打ち振るい、相手の突進を牽制する。足を止められたイサオは、だが、その場に踏みとどまり、遠距離から次々と繰り出される鞭撃を受け流し続ける。そして、その間隙を縫うかのように、イサオ光線剣レイ・ソードの柄に光の鞭が巻きつき、引っ張り合いになるが、


「――双方とも一歩も引きません。武野寺先生の予想どおりに試合が展開しています。果たして、この後はどうなるのでしょうか」


 理子リコが淡々と実況する。


「――どうやら龍堂寺選手の氣功術の技量は向井寺選手とほぼ同じレベルのようですね」


 ゲストの多田寺先生が感想を述べると、


「――つまり、平崎院選手よりも劣っているという事を意味しています。氣功術に関して言えば」


 同じゲストの武野寺先生が補足する。


「――このまま推移すれば、龍堂寺選手も向井寺選手と同じ末路をたどるでしょう」

「――ですが、龍堂寺選手には封氣功があります。これで相手の氣功術を封じることに成功すれば、形勢は一気に逆転します」

「――ええ、多田寺先生の言う通りです。だから平崎院選手は相手に接近させる隙を与えない遠距離ロングレンジからの鞭撃に終始するでしょう。長期戦になりますが、これで確実に勝てます。向井寺戦のような接近戦をことさら誘う必要はありませんからね」

「――少しは腕を上げたのですね。それも錬氣功だけではなく、封氣功まで会得するなんて」


 このセリフは、平崎院タエが、光の鞭で引っ張り合いを続けているその相手に向けて放ったものである。


「――当たり前や。九日前のワイと同じやと思うたら大間違いやで。『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉どおりに成長したんやからな」


 それに対して、イサオは強気の口調で言い返す。光線剣レイ・ソードを奪われまいと両腕に力を込めて。


「――たしかに、少し侮っていたようですわね、あなたを」


 タエは殊勝な弁を述べて応じるが、相変わらず嘲りの調子は隠そうともしない。


「――その通りや。せやけど、少し程度やないでェッ!」


 イサオが咆え放つと、光の鞭で巻きつかれていた自分の光線剣レイ・ソードをあっさりと手放す。


「――なっ?!」


 これにはさすがのタエも意表を突かれた。大きくたたらを踏み、態勢を崩すが、背中から倒れるのはかろうじて回避した。その間、イサオが猛然と相手に接近する。しかし、素手で。これでは相手の懐に飛び込み、封氣功を相手に送り込むことに成功しても、それで勝つのは至難である。相手は得物を持っている上に、イサオ自身、徒手空拳は苦手なのだから。だが、イサオの右手には、奪われたはずの光線剣レイ・ソードが握られていた。そう。この光線剣レイ・ソードは、イサオの後腰に隠匿していたもう一本のそれであったのだ。大会規則ルールでは、飛び道具でなければ武器の所持数に制限はなく、隠匿も可である。それとともにまたもや意表を突かれたタエは、それでも態勢を立てなおすことに成功したものの、相手の接近を許してしまう。


「――もろたっ!」


 イサオは歓喜の声を上げて光線剣レイ・ソードを振り上げる。しかし、そのまま唐竹の斬撃を浴びせても、タエには硬氣功がある。その前ではたいしたダメージは与えられない。それはイサオも承知している。だから唐竹はフェイントで、本命はやはり封氣功である。光線剣レイ・ソードの柄から離した右手で相手の左手首を伸ばし掴み、封氣功の氣を相手の体内に送り込めば、戦況はイサオが有利にかたむく。前回、松下鍛錬教室トレーニングジムタエに完敗したイサオは、氣功術の才能では絶対に敵わないと悟って、錬氣功だけでなく、封氣功の会得にも力を注いだのだ。これならタエの氣功術に劣る自分でも勝てると踏んで。というより、それしか勝機が見えなかった。

 だが、


「――なっ?!」


 今度はイサオが驚愕の呻きを上げる。

 唐竹の斬撃がはね返されたのである。

 それは想定内の事態であったが、同時に想定外の事態も起きたのだ。

 それも二つも。

 ひとつは相手の左手首を狙って伸ばした右手もはね返されたこと。

 もうひとつは右手もろともはね返された唐竹の斬撃が硬氣功によってではなかったことである。

 イサオの斬撃や伸ばした右手をはね返したのは、タエが前面に展開した青白色の螺旋の円楯であった。


「――螺旋円楯スパイラルシールド……」


 控室から試合を観戦している勇吾ユウゴがつぶやきをこぼす。勇吾ユウゴもヤマトタケルとして闘っている時はよく多用する防御技である。しかし、タエのように自在に鞭を操れるわけではないので、鞭様式ウイップモードに切り替える時は、もっぱらそれ専用で使用している。そして、螺旋円楯スパイラルシールドの利点は、それだけではない。それは、


「――イサオさんっ! 離れてっ!」


 勇吾ユウゴがさけぶが、時すでに遅かった。青白い螺旋の隙間から、平崎院タエ繊手せんしゅが伸びて、イサオの左手首を掴んだのだ。そして、螺旋円楯スパイラルシールドを解くと、相手を背負い、そのまま投げたのだ。

 片腕での一本背負い投げである。


「ぐはぁっ!」


 床に叩きつけられたイサオは、息の詰まった声を吐き出す。片腕だけとはいえ、錬氣功で膂力を上乗せしてあるのだ。かろうじて受け身を取れたとはいえ、ダメージは決して小さくない。さらに、タエは離さずに掴んでいるイサオの右腕を真上に引っ張ると、そのまま力任せに投げあげ、ふたたび床に叩きつけようとする。だが、それは振り回されながらも振るったイサオ光線剣レイ・ソードを左肩に受け、手放してしまったことで頓挫する。放り投げられる形となったイサオは、空中で身体を一転させて着地に成功すると、左肩をおさえているタエと正対して構える。


「……へへ、今のはさすがに硬氣功で防御力を上げることはでけへんかったな」


 イサオはしばらく経ってから唇の片端をつり上げて言う。硬氣功はその名の通り、身体を硬化させることで物理的ダメージを軽減する効果があるが、それは同時に全身が動かせなくなる副作用をもたらす。つまり、身体を動かしている間は硬氣功が使えないのだ。イサオはそこを突いたのである。ただ、これは最初から狙ってやったわけではなく、振りほどこうと夢中で光線剣レイ・ソードを振るったら、たまたま相手の左肩に当たり、それも、手応えのある一撃だったので、なぜダメージが通ったのか、しばらくの間、それを推測した結果、その答えが出たという次第であった。


(――勝てるで、この勝負。なんせ勝機が見えたんやからな。封氣功を使わなくても――)


 イサオの表情に鋭気と活力がみなぎり始める。硬氣功も無敵ではないことを悟って。


「――さァ、来いやァッ!」


 イサオは自身を鼓舞するような咆哮を上げて、相手を挑発する。

 それに対して、


「……たわね」


 タエはぼそりとつぶやく。


「――なんかうたか? 歓声でよう聴こえへんで」


 イサオが左耳に手を添えてタエの声を聞き取ろうとする。


「……よくもわたくしの身体を傷つけましたわね。それも、下賤な士族のけがらわしい剣撃で」

 その声には怒気がこもっていた。底冷えするほどの。声が静かで声優的なだけに、いっそうきわだっていた。


「……オトコのクセに、よくも……」


 そして、絶対零度をはるかに下回る眼差しでイサオを睨むと、


「――死ね」


 と言って青白色の鞭を迅速に振り放つ。

 空気を裂く音がソニックブームとなってともに襲い掛かる。

 イサオめがけて。


(――ついに本気になったか――)


 イサオは内心で確信する。


「――せやけど、いつもの鞭撃と変わらへんで」


 それに続いて言い放つと、光線剣レイ・ソードの青白い刀身で光の鞭を叩き落そうと振り下ろす。

 だが、


「――なっ?!」


 あまりにも強烈な鞭撃に、今度はイサオが大きく態勢を崩し、たたらを踏む。


「――威力が上がったやとっ?!」


 なんとか踏みとどまったイサオは驚愕の声を張り上げる。


「――まだ膂力を上乗せできるんかいっ!? アイツの錬氣功はっ!」


 苦しまぎれに下したイサオのその判断に、


「……ちがう。平崎院は、錬氣功で、自身の膂力を、今よりも、上げてない……」


 控室で観戦している浜崎寺ユイが、否定のつぶやきを発する。むろん、闘っているイサオの耳には届かないが。


「――ユイたんの言うとおりニャ。平崎院の鞭撃が今までと同じ威力ニャのがニャによりの証拠ニャ」


 猫田有芽ユメも隣にいる|浜崎寺ユイの見立てに同意と裏付けの見解をしめす。


「――なのに、今ではイサオさんが力負けしている。その前までは互角だったのに――」


 その隣にいる小野寺勇吾ユウゴが、現状を述べる。


「……考えられるのは、ひとつだけ。龍堂寺さんは、錬氣功を、氣功術を、使えなくされた。平崎院の、封氣功で……」


 ユイは断言する。これしか考えられないと言わんばかりに。相変わらず口調は弱々しいが。


「……あの時、平崎院さんが螺旋円楯スパイラルシールドの隙間から伸ばした左手に掴まれて……」


 勇吾ユウゴが無念そうに応じる。そして、平崎院タエが掴んだ龍堂寺イサオの左手首から封氣功の氣を送り込み、相手の氣功術を封じたのである。相手を投げながら。


「――平崎院の膂力が上がったんじゃニャい。イサオの膂力が下がったんニャ。その結果がこれニャ」


 そう言った有芽ユメの前では、一方的な試合展開となった攻防が繰り広げられていた。相対的に攻撃力の上がった平崎院の鞭撃に、自分の氣功術を封じられた自覚のないイサオは五、六合しか抗しきれず、それ以降は無防備同然で受け続ける。それでも、倒れずに踏んばるが、すぐに限界に達し、たまらず試合場の端まで後退する。そして、そのまま場外に落下しかけるが、その寸前にイサオの右腕に巻きついた光の鞭によってまぬがれる。


「――楽に終わろうなんて思わないで欲しいわね。わたくしの留飲はこの程度では下がらなくてよ」


 タエが絶対零度を下回る声でイサオに告げると、思いっ切り光の鞭を引っ張り、相手を勢いよく引き寄せる。自らせまり込ませた相手を、タエはこれも思いっ切りカウンターで蹴り上げ、空高く舞い上げる。そして、自由落下に入るはるか手前で、これもまた光の鞭で強引に引っ張り、自分の前に叩き落す。床にバウンドしたイサオの身体に、タエは後ろ回し蹴りを叩き込み、水平に吹き飛ばす。場外に落ちる寸前、繋がられたままの光の鞭を思いっ切り引っ張り、相手を勢いよく引き寄せ、ふたたびカウンターで蹴り上げ――以下、無限ループと化す。イサオはヨーヨーのように垂直と水平に蹴り飛ばされ、引き戻される。


「――いやっ! 見てられないっ! もうやめてっ! 死んじゃうわっ!」


 亜紀アキが顔をそむけて叫ぶ。


「……これはもう試合じゃないわ。ただの残酷ショーよ……」


 リンがそれを演出している張本人に嫌悪を込めて睨みつける。


「――審判っ! なにをしているっ! 早く試合を止めろっ! 戦闘続行が不可能なのは素人が見ても明らかだろうがっ!」


 良樹ヨシキが立ち上がって叫ぶ。すでに審判は試合終了の合図を出しているが、平崎院タエはしたがう様子がない。再三の制止を無視した審判の口から、失格の二文字がちらついた時、初めて手を止める。イサオを真上に飛ばした時に。そして、自由落下で試合場の床に激突する寸前、控室から飛び出した勇吾がイサオの身体を受け止めたので、それはまぬがれた。


「――イサオさん、しっかりしてくださいっ! イサオさんっ!」


 勇吾は必至に親友の身体を揺さぶり、喪失している意識の回復に務める。イサオの身体に感覚同窒フィーリングリンクして生命徴候バイタル確認チェックしたが、状態は決してかんばしくない。そこへ、ユイ有芽ユメが、医療班とタンカを持った大会運営スタップたちとともに駆けつける。


「――らしくねェな。お前がムキになるなんてよォ。そんなムカついたのか。剣撃を受けてしまった自分テメェの迂闊さを」


 それに背を向けて試合場から降りたタエに、控室の出入口のそばにたたずむ海音寺涼子リョウコが、陽気とも嘲笑ともつかぬ表情と口調で声をかける。だが、タエは傲然と無視して、涼子リョウコのそばを通り過ぎて行く。


「――ま、気持ちはわかるけどな」


 しかし、涼子リョウコは肩をすくめて同意するのだった。

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