相談する間もないまま、私たちのいるところの反対方向からまた扉が現れる。

 そして、キーンと甲高い生き物なのか機械音なのかはわからないが耳をふさぎたくなるような音がその扉の向こうからした。


「相談する暇は与えてくれないのですね…」

「ちょうどいいぜ、さっさと終わらせてやるよ」


 と真っ先に穂村さんは『焔竜』の姿となり、飛び出していった。


「穂村さん!?」


 優紗は飛び出していった穂村さんを止めるが遅かった。

 私も優紗も急いで自分のアバターを身に着ける。

 向こう側には大きな蛾のようなモンスターがいた。


「ひぃっ!?でかい虫!」


 私は大きい蛾に驚いたが、優紗はどうやら平気そうな顔をしている。


「優紗、虫平気なの…?」

「ええ、趣味がガーデニングでして…。多少慣れていますわ。さすがにあの黒光りのあの虫はだめですが…」


 それを聞いて私は「ああ…」と声を漏らす。

 あえて名前は言わないでおこう。

 名前言ったら本当に召喚されそうな気がするから…。


「でもなんで蛾なんだろう?吸血鬼となんか関係でもあるのかな?」


 吸血鬼なら蝙蝠っていうイメージがあるけど…。

 あれ?穂村さん、こっちに戻ってきてる?


「あれやべえぞ!?お前ら逃げろ~!!」

「それではなぜこちらに来るんですか!?」

「あっ!?それはすまねえ!とりあえず、とりあえず逃げてくれ!」

「ええええええ~っ!?」


 私たちは捕まりたくないので穂村さんの言う通り逃げることにした。

 そして物陰に隠れる。


「穂村さん、何がどうまずいのです?」

「あの蛾、俺の血を吸おうとしてきたんだよ。しかもちょっとやそっとじゃねえ…、致死量の血を吸おうとしてきやがったんだ」

「致死量…」


 それを聞いて私はぞくっとした。


「あれは捕まえるというよりは…殺すつもり満々だった」

「まあ、ここは敵のエリアとなっていますし…そうですわよね。察しはついていましたわ」

「くそ…早く助けに行かねえといけないのに…」


なんだか穂村さん、焦ってる…?

いや、御神楽さんが捕まっているんだから焦る気持ちは私たちにもある。

だけど、それとは違う焦りがあると私は感じた。


「属性の相性的には今回も穂村さんが一番有利だと思います。ですので穂村さん、あなたは絶対に捕まってはいけませんわ」

「それもそうだけど、私は優紗も捕まっちゃいけないと思う。だって万が一大けがしちゃったら回復魔法を使えるのは優紗だけでしょ?」

「なんでお前らそう、捕まる前提で話を進めてんだよ。全員絶対捕まるな、これでいいだろうが」

「…そう、ですわね。ネガティブに考えるのはよろしくありませんわね」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る