アバタージャック

「うーん、ドンパチやりあってるね~」


 と御神楽さんは呑気に二人が戦ってるのを見てる。


「御神楽さん!そんなのんびりしてて大丈夫なんですか?」

「ごめんごめん、面白そうな戦いやってるなって思ってつい見居ちゃった」


 と進もうとした御神楽さんだったが、また足を止めた。


「御神楽さん?」


 私はまた注意しようと思ったが、御神楽さんは先程とは違う真面目な顔をしていた。


「叶波、気を付けて」

「もしかして、黒景の増援ですか?」


 私がそう言うと、御神楽さんは違うねと言った。


「この気配…まさか。ああ、だから彼はここに連れ込まれたんだ」


 なにやら意味ありげなことをいう御神楽さん。

 そして御神楽さんは上を見上げる。

 私たちの上にいたのは鷲の半獣人のアバターだった。

 あれ?このアバター、どこかで…。

 あっ!思い出した!柳くんのアバター!


「えっでもどうして?さっき柳くんの端末の画面見たときは変身できないって言ってたのに…?!」


 先程物陰に隠れてた柳くんの方を見やるとそこには彼がいなかった。

 

「おそらくだけど、竜太は駒としてここに連れてこられたんだろうね」

「いったいどうやって?」

「そんなのぼくに聞かれても知らないさ。無作為抽出じゃないの?」


 そんな理不尽なことって…!


「たぶん、向こうもこういう風に二手に分かれるのを予想してたのかもね」

「私たちの考えてることモロバレってことですか!?」

「そう。そして、彼の様子を見る限り、アバターを黒景にジャックされてる」

「ジャック…?」

「うん。…あーでもどっちかっていうと洗脳に近い状態なのかもね。さっきのおどおどしてた彼は見えない。今は黒景の操り人形に等しい。めんどくさいからさっさと倒しちゃおうか」


 御神楽さんはそう言うと武器である扇子を召喚する。

 

「不安そうな顔しないで?大丈夫だよ、手加減はするさ。殺さないようにね」


 なんかめっちゃ物騒なこと言ってる!?


「あっ、言い方が物騒過ぎた。しばらくの間気絶してもらう程度だから、別に殺しはしないと思う。…たぶん」

「そのさいごの『たぶん』が一番心配です!」


 …今思えば私、ちゃんと、まじまじと『稲荷・雅』の戦闘を見たことがなかったかもしれない。

 いつもはロゼッタ様のしか見てなかったから。

 それが今、目の前で見れる。

 ロゼッタ様よりも強い人の戦い…いったいどんなものなのだろう。


「あっ、戦うのぼくだけじゃないからね?叶波、キミもちゃんと戦ってよ?」

「えっ!?私も!?」


 御神楽さんは「そうだよ」とうなずく。


「わわわ、私なんか戦っても足手まといになるだけですよ?!」

「うん、このままじゃね。きっと、こんなことをするのは今回だけじゃないってぼく思うんだ。…理由はまあ、なんとなくだけど。そんでもって敵が今回以上に強いやつだったら?いつまでもそのままでいたら本当に足手まといになっちゃうよ?いいの?」


 私はそれに困惑してしまう。


「そんな不安そうな顔しないで?さっきも言ったでしょ、ぼくがサポートするってさ。そのためにキミにこうしてついてるんだ。キミもなかなかに面白いプレイヤーになりそうな予感するんだよね、ぼく」


 御神楽さんは私に「さあ、がんばろうか」といいながら背中をぽんと叩く。

 御神楽さんに…あのユグドラシルONLINE最強の『稲荷・雅』に期待を寄せられている…?

 私が…?

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