5 真相へと至る

第41話 go to secret base「反逆軍のアジト」

 戦闘場を抜け森に入り、襲撃してくる雑魚を奨は容赦なく斬り倒していく。逃げる最中から並走始めた一人の同年代の少年に感謝を述べた。


「助かった……和幸」


「京都反逆軍としてもお前に死なれて困るんでね。ミッションのうちさ。体は?」


「やばい。アジトについたらすぐ倒れるかもしれない」






 場を乱され奨を逃がした直後、御門有也と八十葉光が戦闘場に現れる。


「逃がした?」


「申し訳ありません」


 鋼が頭を深々と下げる。御門は数秒目を閉じ真顔になったが、またいつもの余裕の笑みを浮かべた顔に戻る。


「彼の行方はまた明日以降捜索しよう。多分宿にも戻っていないだろう。どこかに隠れ家があだろうさ」

 とだけ鋼に言い、すでに意識を失いかけている閃を抱え上げる。


「私の傘下の者が不甲斐ない。ごめんね、御門くん」


「なあに、腕輪持ちとの戦いの厳しさを知らしめるいいケースになる。そうポジティブに考えよう」


 御門は光をフォローする反面、

「でも、僕ら知らないところで危ない遊びをした源家には灸添えが必要かな。ただでさえ襲撃者事件に戦闘員不足や進展がないことに頭を悩ませている中で、さすがに蛮行だ」

 冠位の頂点に位置する家の当主として厳しい言葉も残した。


「さあ、本家の一室を借りて、今後の対応についての会議だ。鋼くん。本家の案内を頼むよ」


 春はそんな会話を横で聞きながら、源家に暗雲が立ち込める未来が来ることを予想する。まだ奨が去った先を見ている春に話しかけたのは、フォー博士だった。先ほど博士を守ったはずの護衛はすでに姿を消している。


「あの者は〈人〉を敵とするのではなく、相手を見定め敵とみなすだろう。もし、お主が敵とみなされたときは?」


「その時は、私の為すべきことを全力で行うのみです」


「だが、もう一度彼と見えるときは、きちんと本音を語った方がいい。死んでからでは遅いのだから」


 たったそれだけの言葉を交わし、春とフォー博士はそれ以上の言葉を交わさなかった。


 そんな2人の会話をこの場で誰一人として気にするものはいなかった。






「ここが隠れ家?」


 明人の驚きようも当然のことで、案内されたのは以前訪れたことのあるデバイス専門店。


「店は公認だが、地下は非公認だ。そのショップに隠れてもらう」


 奨が中に入ると、店の掃除をしていた男と目が合った。以前店番をしていた男だった。


「表はあいつに任せればいい。最悪、地下はアイツとプライベートスペースだとごまかすしかないが。まあ、臨時閉店なんてヘマはしないさ」


 店の入り口近く、観葉植物が置かれた床のタイルを外すと、下へ続く大穴が現れる。


「地面が10メートル下だ〈抗衝〉を使って衝撃を和らげないと死ぬから注意しろよ」


 そう言って和幸が奥へと消えたため、奨達もそれに続いた。


 着地した地面にクッションはなく、警告の通りに動かなければ大けがだった。着地の後周りを見渡すと、隠れアジトとは思えない、一般家屋の中のような、城の壁紙が貼られた壁と木のフローリングが続く、アジトの案内を始める。


「まずは一番奥だ。メディカルケアの部屋はそこからしか行けないからな。奨、吐きそうな顔だけどもうちょい頑張れ」


 外にいる時ほどの活力を感じない奨を気にしつつも、そのまま奥へと誘っていく。


 通路を15メートルほど真っすぐ進み当たったドアを開くと。そこは基地にしては、ほのぼのした空間が広がっていた。


 キッチン、テーブル、ソファなど前時代から残るアンティーク式の家具が置かれた生活空間が広がっている。下はフローリング仕様で、ソファとテーブルのあたりにはカーペットが敷かれている。


 そして隣の機械音が漏れ出てくる部屋から聡が現れる。しかし、挨拶をする前に、奨は限界を迎えた。


「奨先輩!」


 明人と一緒に、今にも泣きそうな顔で倒れそうになった主を支える明奈。奨は正直笑う余裕はなかったが、明奈を心配させないために無理に笑って見せる。


「明奈……何とか無事だな。良かった」


「お怪我は……」


「それはこっちの台詞だ。痛いところはないか? すぐにお前も休んだ方がいい」


「そんなこと。私のせいで、奨先輩に無茶をさせてしまいました!」


 涙が一滴零れ落ちる。奨はそれを見て、首を振る。


「俺が望んだことだ」


「でも、先輩は」


 春に会いに行くべきだったのでは。続けるはずのその言葉を奨は無理に遮る。


「約束だからな。俺も明人も、最後までお前を守る。命を懸けても。だから泣くな。そうしたいと思えたからしたんだ。明奈は、もう仲間だからな」


 明奈の流す涙粒が多くなり始める。奨はそれを咎めはしなかった。その代わり、ただ一言。


「君が無事で良かったよ」


 サトルは主に呼ばれ、すぐに駆け付けた。


「メディカルケア室に運ぶぞ。手伝え!」


「はい!」


 2人でぐったりした奨をその部屋から行けるさらに隣の部屋へと運んでいく。明奈もその後を追った。

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